2021.01.18

不快を解消する心のはたらき

想像してみてください。
大きな仕事を無事に終えた自分へのご褒美に、いつも横目に見ていた高級なケーキを奮発して購入したとします。嬉しい気持ちで家に持ち帰りケーキを食べてみると、そのケーキは期待したような美味しいケーキではありませんでした。この時、あなたはケーキの美味しさをどのように判断するでしょうか?

「このケーキは美味しくなかった」「高級なケーキでもこんなものか」と考えるでしょうか?「高級なケーキはいつもとは違うな」「美味しい!!」と思うでしょうか?
この場合、意外と多くの人が「美味しい」と判断します。それは、本当は自分のご褒美として購入した高級なケーキを「美味しくない」と判断してしまった場合、自分にご褒美をあげられていないことと、高額のお金を無駄にしたという側面から『不快感』を抱くことになるからです。したがって、ケーキを「美味しい」と認識することで、この『不快感』を解消しようとする心のはたらきが生じます。
自分の考えと行動が矛盾したときに感じる不快を解消するため、考えを変更することにより行動を正当化することを「認知的不協和理論」と言います。
認知的不協和理論は私たちの心のはたらきとしてよく見られます。いくつか例をあげてみます。

エピソード1:喫煙

煙草を吸うAさんは、煙草に肺がんのリスクがあることも知っています。しかし、Aさんは喫煙をやめません。この時、Aさんにはどのような心の動きが働いているのでしょうか?

「肺がんのリスクがある」ことを知りながら「喫煙をしている」Aさんは、自身の中に矛盾が生じている状態です。ここでAさんが「禁煙」することを誓ったならば、「肺がんのリスクがあるので禁煙をする」となり矛盾は消えます。しかし、禁煙を選択することは簡単ではありません。なぜならば、喫煙の多くがニコチン依存が強い傾向にあるからです。したがって、「喫煙」から「禁煙」に変えるよりも「肺がんのリスクがある」という認知をやわらげた方が楽だということになります。「肺がんのリスクはあるけれど、リラックス効果があり仕事に集中できるから喫煙をしよう」など理由を付け加えることで、肺がん死亡への恐怖が低減されます。ほかにも「喫煙している人でも長寿の人はいる」「交通事故で死亡する確率の方が高いし」と言った理由をつけることもあります。
エピソード2:ダイエット

ダイエットをしているBさんは、甘いスイーツが大好きです。Bさんはダイエットと甘いスイーツに対して、どのように心の動きを働かせるでしょうか?

ダイエットに真剣に取り組んでいるBさんでも、好きなスイーツを断つということは簡単ではありません。「ダイエットする」ことと「スイーツ」を食べることは矛盾が生じます。「ダイエット中なのでスイーツを食べない」とすることができれば矛盾は解消されます。しかし、スイーツを食べないということは苦痛を伴い難しいことです。そこで「スイーツ以外は量を減らす」という考え方に変わります。「ダイエット中なのでスイーツ以外は量を減らそう」と考えたBさんは無事に不快感を解消することができました。
エピソード3:災害

災害からの避難も認知的不協和理論が影響していると言われています。東日本大震災では、地震により津波が迫っていたにも関わらず、逃げようとしなかった人が一定数いたことは有名な話かもしれません。大きな地震があると「災害に対する恐怖」と「非難する大変さ、面倒さ」が湧いてきます。「災害に対する恐怖」から「逃げる」ことを選択出来たらいいのですが、「逃げる」ということはそれほど大きな災害であると認識しなければならないので「恐怖」がより大きくなります。そこで「逃げない」ために「津波はこない」「危険ではない」ということにしてしまうことが研究で明らかとなっています。
認知的不協和理論は人間に備わっている心の働きで、これ自体が良い悪いというものではありません。私たちが不快感を抱え続けることは、様々なストレスや行動の制限に繋がります。体が自然と体の健康を守るように作られているように、心にもより快適に過ごせるような働きがあります。しかし、この認知的不協和理論により、思わぬ落とし穴があることもエピソードを通して理解して頂けたのではないでしょうか。この理論をもとに客観的に自身を見つめたときに、その落とし穴に気づけるかもしれません。
最後までご覧いただきありがとうございました。

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【参考文献】
レオン・フェスティンガー 著, 末永俊郎 監訳(1965),『認知的不協和の理論 社会心理学序説』, 誠信書房.
佐藤太一・河野達仁・越村俊一・山浦一保・今村文彦(2013),「心理的作用を考慮した津波避難開始における意思決定モデルの開発」, 土木学会論文集D3(土木計画学), 69巻2号, pp. 64-80.