産後うつ病

マタニティーブルー」という言葉をご存知の方も多いと思います。妊娠中や出産後の女性の情緒が不安定になってしまうことです。妊産婦の2割くらいが経験すると言われており、妊娠の初期や出産後に現れます。原因は、女性ホルモンのバランスの変化によるもので、出産後にホルモンの状態が安定すれば、マタニティーブルーも自然におさまります。
ところが、出産後3週間以上たっても不安や気分の落ち込みが治らない場合があります。これを産後うつ病と呼びます。うつ病の一つですが、女性ホルモンの影響が大きいと考えらています。症状は、気分の落ち込みだけではなく、痛みなどの体の症状から精神病的なものまで、人によってうちして様々なものがあります。軽い場合には、気のせいだと放置してしまい、次の子供を産んでから重症になって気づかれるケースもあります。中には、治療の過程で躁状態が現れるようになり、あとから双極性障害と診断され、長い治療期間が必要になるケースもあります。
軽い場合には、気のせいだと放置してしまい、次の子供を産んでから重症になって気づかれるケースもあります。中には、治療の過程で躁状態が現れるようになり、あとから双極性障害と診断され、長い治療期間が必要になるケースもあります。
産後うつ病は、家族関係の影響も受けます。夫や夫の実家との関係が悪いことや、先に産まれた子供に手がかかることも発病の原因になります。出産は、家族がうまくまとまっている状況でないと、妊産婦に大きな心理的負担がかかってしまうのです。
産後うつ病の難しさは、母親が子育てや家事を十分にできなくなることです。調査によると、虐待やネグレクトを起こした母親の多くが、産後うつ病と診断されています。家族の協力なしで、病気の母親だけで子育てはできないのです。
夫や親が子育てや家事の代わりができても、同時に普段の仕事もあります。そのために、家族が病気の母親のことに十分に関わることができないこともあります。母親は孤独を感じ、自分は邪魔者であると思い、よけい病状が悪くなります。最悪の場合、自分がいない方がみんなは幸せだと思い込んで自殺してしまうケースもあります。
実は、出産後1年までの母親の死亡原因の1位は、病気や事故でなく自殺なのです。こうした悲しい出来事を防ぐためにも、産後うつ病は早めに気づく必要性があります。

ここでは産後うつ病のサインを6つ紹介しましょう。
1.子供を可愛いと思えない

子供を産んでも嬉しくありません。むしろ産まなければ良かったと後悔します。家族は喜んでいるので、そんなことは誰にも言えません。子供を愛せない自分を責めてしまい、母親失格だと思ってしまいます。そして、罪深い人間であり、生きている価値がないと思ってしまいます。
2.落ち着かない

子供を育てられるか心配でたまりません。心配は子供のことだけでなく、お金のこと、将来のこと、心配事が次から次へと浮かんできます。何か起きた時に1人で対処できない不安があるので、子供と2人きりで留守番ができません。不安が高じるとパニックを起こすこともあります。
3.情緒が不安定

理由もなく涙が出ます。イライラして怒りっぽく、夫の言動が気になって文句を言ってしまいます。つまらないことで夫婦喧嘩が絶えません。これが原因で離婚話に発展することもあります。さみしくて、用がないのにたくさん電話をします。さみしさを解消するために高価な買い物や過食をすることもあります。
4.家のことができない

いつも疲れて体調が悪く、すぐ横になります。腰痛など痛みが出ることがあります。そのために家事が十分にできません。食事作りができない、掃除ができない、と家のことができない自分を責めてしまいます。できなくて苦しんでいるのに、「しっかりして欲しい」と夫に文句を言われて傷つきます。
5.眠れない

子供の夜泣きがなくなっても、よく眠れません。目をつぶっても嫌なことばかり頭に浮かんできます。夢ばかり見て眠りが浅く、2時間くらいで目がさめてしまいます。お酒や睡眠薬に頼りたくても母乳に影響があることを考えるとそれもできません。
6.死にたい

子育てができない自分を責めて死にたくなります。自分は家族に迷惑をかけているだけの邪魔な存在なので、いない方が幸せだと思います。何かの失敗や家族の言葉が引き金になって衝動的に自殺を試みることもあります。
産後うつ病の治療は、抗うつ薬、睡眠薬による薬の治療が基本です。飲んだ薬は血液を介して母乳にも混じるため、母乳を与えるのは原則禁止になります。ただし、母乳を飲んだ方が赤ちゃんの健康にメリットがある場合もあるので主治医と相談してみましょう。
薬の治療で大きな症状は1か月以内に収まりますが、子育てが家事や十分にできるまでは長くかかります。治療の一つとして家族の育児負担を減らすことが大切です。役所に相談してヘルパーや保育園を利用しましょう。どうしても家で育てられない場合は、子供を乳児院に預けるなどの方法もあります。

このような公的な支援もたくさんありますが、やはり一番大切なのは家族のサポートです。産後うつ病は一人で乗り越えられるものではありません。家族、友人、みんなで支え合って乗り越えていきましょう。