うつ病でやった方がよいこと

うつ病で大切なことは、何事も焦らないこと、無理をしないことです。


うつ病に気づいて精神科を受診したものの、時間に限りがあるため、十分に質問もできないまま診療が終わってしまうことがあります。特に気になることは、薬を飲むこと以外に、日々をどうやって過ごすかということではないでしょうか。


今回は、うつ病の療養中にやった方がよいことを紹介しながら、日々の過ごし方について説明したいと思います。


うつ病は風邪のようにすぐ治る病気ではありません。予防も含めて数年、数十年と治療を続ける必要があります。この期間の生活の仕方として身に着けて欲しい8つのことを紹介しましょう。





1 急性期や再発期はともかくゴロゴロ

うつ病の症状が急激に出ている時期は、「急性期」と呼びます。また、回復して順調に生活していたのに、何かのきっかけで再び具合が悪くなることを「再発期」と呼びます。


ともに、まるですべてを失ったように絶望的で何もできなくなる時期です。この期間は何もせず、ともかくゴロゴロして過ごしましょう。


うつ病は生きるエネルギーが枯れ果てた状態です。そもそも何もできなくなってしまうのが症状です。建設的なことは何もせずに、生きるエネルギーを充電するために、食べることと眠ることだけを意識しましょう。「何もしないで1日が終わった」で良いのです。


休んでいれば、急性期や再発期は数カ月で必ず過ぎ去って行くはずです。薬をきちんと飲めば2週間から1カ月で改善されます。



2 安定期も無理をしない

辛い時期を過ぎたらといって、生活のペースをいつも通りに戻すのはまだ早いでしょう。何事も本来の自分の60%くらいのペースを保つようにします。


60%といっても難しいかも知れませんが、具体的に言うと、「疲れたら休む」でなく、「疲れる前に休む」、「余力を残して休む」という習慣です。


「時間があるからこれもやっておこう」、「寄ったついでにこれもやっておこう」という考え方も良くありません。「時間があるならゆっくりする」という考え方をもつべきです。


物事を効率的に考えるのでなく、効率が悪くても自分をいたわることを優先しましょう。



3 焦らないこと

「みんな先に行って、置いてかれる」と焦ってしまうのは、うつ病の症状です。療養中は、うまく行っている人と比べて、「情けない」と自分を責めてしまいがちです。焦って何かアクションを起こしても、よけいに空回りしてしまいます。


焦る気持ちに追い立てられたら、「病気なんだからできなくて当たり前」と開き直りましょう。


うつ病の経験は損ばかりではありません。苦しい期間だからこそ、回復した後は他人の苦しみも理解できるようになり、心の成長につながります。療養生活は決して無駄な時間ではありません。



4 体を動かすこと

体を動かすことはうつ症状を改善させたり、予防したりする効果があります。
とは言え無理は禁物です。まずは軽いウォーキングからチャレンジしてみましょう。


しかし、「今日の外出はきついな」と感じたら家でゆっくりするべきです。その方が回復につながります。「外出もできずに情けない」と自分を責める必要はないのです。





5 規則正しい生活

同じ時刻に起床、同じ時刻に食事、同じ時刻に床につくという規則正しい生活は、脳の活動を助け、うつ病からの回復につながります。


食事も朝昼晩と3回食べるようにしましょう。「お腹がすいたから食べる」でなく、「朝、昼、晩と時間になったから食べる」といった感じです。


当たり前のことに聞こえますが、意外とできていない人も多いようです。小学校で教わったようなことですが、規則正しいリズムはとても大切なことなのです。




6 自分を大切にすること


うつ病は心が傷つき、自分を大切にすることを忘れてしまった病気でもあります。これからは自分を大切にすることも意識しましょう。


勘違いされやすいのですが、自分を大切にするとは、自己中心的になるという意味ではありません。


「本音を無視して、むやみに自分を犠牲にしない」、「意味のない我慢はしない」、「できないことは断る」、「健康に気を遣う」、「自分を向上させるためにお金や時間を投資する」といったことが自分を大切にするということです。



7 癒し

療養期間中は、心の拠り所、心が癒されることを大切にしましょう。


推し活、スポーツ観戦、映画鑑賞、カラオケ、旅行など、人によって心が満たされることは違いますが、やって心が満足できることは無駄と考えてはいけません。


心の満足のために時間やお金を費やすことはとても大切なことです。



8 マインドフル

みなさんは、壮大な自然を目の前にした時、お寺や神社やパワースポットで清らかな雰囲気を味わっている時、神仏(しんぶつ)とか自然の摂理とでも表現できる大きな存在を感じることはないでしょうか?


その雰囲気を味わっていると、小さなことでクヨクヨしている自分が馬鹿らしくなり、吹っ切れた気持ちになることがあります。


これは自分を俯瞰(ふかん)して見つめることにより、ネガティブな考えや感情に振り回されない状態になっているのです。


心理学では「マインドフル」と呼びます。マインドフルとは、仏教の正念(しょうねん)という瞑想による悟りの境地を英語に訳したものです。
アメリカでは瞑想を精神医学に応用し、「マインドフルネス」という瞑想法が生まれました。


マインドフルといっても難しいことではなく、本来人間に備わっている心の在り方です。自然の多いところ、お寺や神社、パワースポットなどに出かけて行き、居心地のよいところに座って心を穏やかにしてみましょう。


自然を前にして「自分はちっぽけな存在だな」と感じるとともに、「生きていていいんだ」、「このままでいいんだ」、「何とかなるかな」といった感覚が湧いて来るはずです。これがマインドフルです。この感覚がうつ病の回復を後押しするという研究結果があります。



最後に忘れてはならないことは、薬を続けて飲むことです。


薬には予防効果もあり、高血圧や糖尿病の薬のように長い期間飲んでも問題はありません。「もう元気になったから」と勝手にやめることがないように、主治医から「もう大丈夫ですよ」と言われるまでは続けましょう。