恨みをなくすための3つの方法

なかなか忘れられない悪い思い出はありませんか?忘れたくても自然と浮かんできて、何をしても気持ちを紛らわすことができない思い出です。

特に、信じていた人や職場に裏切られた思い出は、つよい恨みとなって心に残ります。親や親友などに対して、信じ愛し、期待していたのに、裏切られた時の辛さは心に深く刻まれるのです。この気持ちを解消するにはどうしたら良いのでしょうか?


復讐が唯一の解消法と考える人がいます。辛ければ辛いほどに「思い知らせてやりたい」と感じるのは当然なことです。それだけでなく、復讐すれば他の犠牲者も救うことができるので復讐は正当化されます。

しかし、時間が経つにつれて、復讐するべきでないという心も湧いて来るのが自然です。復讐は本質的な解決方法ではなく、復讐すれば、こちらも憎い相手と同じレベルの低い人間に落ちてしまうことに気づくからです。

それよりも、恨みの感情から解放されて、より良い人生を生きたいと思うようになります。結局、相手を許すようになることが、自分を苦しみから解放する最善の方法であることに気づくようになるのです。


16世紀イギリスの哲学者・フランシス・ベーコンは、「復讐する時、恨みの相手と同じレベルである。しかし、許す時、恨みの相手よりも上にある。」と言いました。しかし、頭では、許すことがより良いことである分かっていても、気持ちは納得しません。

恨みや怒りを無理やり心の底に押し込んでしまうと、心や体がおかしくなることがあります。結局、恨みの気持ちは、心の外に出しても報われないし、中に押し込んでも苦しくなる、とても厄介な存在なのです。


では、このような恨みや怒りを自然に解消するためには、どうしたら良いのでしょうか?今回は、悪い思い出を消して、恨みをなくすための3つの方法を紹介しましょう。





1 人に話す

気持ちを言葉にすることは、心に溜まっている悪い感情を外に出す効果があります。これを心理学では「カタルシス」と呼びます。同じ体験をもつ人と話し合ったり、カウンセラーなどの理解してくれる人に話すことで、悪い思い出や恨みの感情を薄めることができます。




2 今の生活に集中する

人間の脳は、コンピューターのように一字一句正確に記憶しません。感情に左右され、無意識のうちに記憶が書き換えられることがあります。これは脳がコンピューターよりも劣っているという意味ではありません。

脳は自分を守るために、記憶を都合よく書き換える作業ができるのです。心が安定していると、悪い記憶は少しずつ消去されていき、害がなくなります。大きなトラウマを受けても、その後に安心できる生活を送っていれば、トラウマは自然に消えていきます。いまの生活に満足していると、悪い思い出は自然に書き換えられ、恨みも消えていくのです。脳はコンピューターよりもはるかに優秀です。

ところが、心が不安定で過去に執着してばかりいると、悪い記憶は余分なものまで付け足されて、もっと悪い記憶に更新されてしまうことがあります。なかったことがあったことと記憶され、恨みの気持ちが高まってしまうこともあるのです。過去にとらわれてばかりいると、悪い思い出はもっと悪いものになってしまいます。

「幸福に生きることが最高の復讐である。」というスペインのことわざがあります。脳の仕組みから考えると、幸せに向かって今を大切に生きていくことが、悪い思い出を消すための最善の方法なのです。




3 恨みを社会に役立つ方向に向ける

親から虐待された人が、親を恨むのは当然のことです。しかし、自分以外の子供たちには、同じような辛い思いを経験させたくないと感じて、大人になってから子供たちを守るボランティアに参加する人もいます。

親を恨む気持ちを、子供を守るためのエネルギーに変えているのです。大切な家族を交通事故で亡くしても、加害者を恨む気持ちをエネルギーに変えて、交通事故撲滅のための運動をしている人もいます。これらは、恨みや怒りのエネルギーを、社会に役立つ方向に向けて発散させているのです。社会貢献が人から喜ばれると、そこに自分の新しい価値をみつけることができます。また、そこから新しい出会いも生まれるでしょう。生活には充実感が生まれ、心の成長も期待できます。

このように、辛い気持ちを社会に貢献するエネルギーに転換することを、心理学では「昇華」と呼んでいます。長い時間と大変なエネルギーが必要なことですが、辛い気持ちから解放されるための理想的な方法と考えられています。




いまを大切に生きていると、過去の辛い思い出は、自然に毒が薄まり、心の中にあっても受け入れられるレベルになります。人によっては、加害者の立場に共感できるようにもなるでしょう。例えば、親に辛い思いをさせられたのならば、「親自身も子供の頃に酷い目に合っていた」「親は精神的な障害を抱えていた」と、親の仕打ちを自分なりに理解できるようになります。

悪い思い出を受け入れるまでには、大きな愛情やエネルギーが必要なことです。恨みがつよいほどに時間もかかります。しかし、そこに到達できたら、大きな満足や解放感を手に入れることができます。これは人として大きく成長した証拠でもあります。誰からも褒められることはありませんが、人生の大きな試練を乗り越えたと誇ることができるでしょう。

ただし、実際に人を傷つけようとしたり、物を壊したり、恨みの気持ちが自分で制御できないくらいつよい場合は、うつ病、双極性障害、統合失調症などの精神疾患の可能性も考えられます。このような場合は、精神科に相談してみましょう。