キレる人

ちょっとしたきっかけでキレる人は、治療が必要な精神疾患の可能性があります。


ふだんは問題ないのに、ちょっとしたきっかけでキレて、激しく怒る人がいます。思い通りに行かないことがあるとイライラするのは当然かも知れませんが、例えば、「ラインの返信が遅い」、「その言葉が気に食わない」など、些細なことが爆発のスイッチになります。


怒る原因はその人によって決まっていて、見捨てられるような状況、プライドが傷つけられるような状況などが代表的でしょう。


中には、周りが見えなくなるほどに激怒し、大声で叫び、物を投げて壊し、ついには「死んでやる!」と言って窓から飛び降りようとする人もいます。家族にならまだしも、職場の人や店の店員に向かって「土下座しろ!」とキレる人もいて、これではパワハラやカスハラと言われても仕方ありません。


このような激しい感情の乱れがある人は、一般的に「ヒステリー」と呼ばれることがあります。そもそもヒステリーという言葉は古代ギリシャ時代の「子宮」から来ており、その当時から記録があり、女性が正気を失って暴れ出したり、けいれんを起こしたりする病気として知られていました。その名残からキレる人、特に女性のことを現在でもヒステリーと呼ぶことがあります。


ところが、精神医学ではヒステリーという言葉は半世紀前から使われていません。それまでヒステリーと呼ばれていた状態は1つの病気でないことが分かったためです。


現在ではちょっとしたことで怒ることを易怒性と呼び、特に別人のようにキレてしまう場合は解離症状と呼びます。解離とは、人格が分かれて鬼のように変身してしまうことを意味しています。


激しく怒ることはたくさんの精神疾患に見られる症状です。それでは、キレてばかりいる人はどういった病気なのでしょうか?今回は、代表的な5つのキレる病気について説明しましょう。





1 うつ病

「パートナーとうまく行かない」、「子供が言うことをきかない」、「仕事で失敗した」など、ストレスが溜まると誰でもイライラを感じるようになります。相手の言動がスイッチとなり、カーっとなってしまうことがあるでしょう。ただし、些細な事で怒り、それも尋常でない怒り方の場合は、ストレス反応を越えてうつ病である可能性があります。


うつ病というと元気がなくなり、しょんぼりしているイメージを持たれる方も多いと思いますが、怒りがコントロールできなくなる病気の代表です。仕事や家事などをいつも通りにこなせているうつ病の人もいて、そうなると怒ってばかりいる原因がうつ病であると気づけません。


例えば、「仕事はできるけれども、いつも機嫌が悪く、何かあるとすぐに怒る職場の人」、「生活はきちんとしているのに、いつも家族に当たり散らしているお母さん」、「学校へは通っているけれど、家ではだらしなく、少し注意しただけで激怒する高校生」などです。


怒ることに加えて、気分が沈んでいることが多い、疲れやすい、眠りが浅いなどを感じている場合はうつ病の可能性が大きいので、早めに精神科を受診してみましょう。



2 双極症

怒りっぽい期間が数週間から数カ月に渡って持続し、その期間は、うつ病とは逆に気分が高揚している場合は双極症です。


活動的でよくしゃべり、冗談を言い、浪費をしますが、気にくわないことがあると激しく怒り出します。怒りっぽい期間の前後にはうつ状態が見られることが多いでしょう。


うつ病と双極症は鑑別が難しいことがありますが、ともに薬の治療に効果があります。



3 月経前気分不快障害・PMDD

毎月生理が近づく頃に必ずキレるようになる女性は、月経前気分不快障害・PMDDかも知れません。生理前の不調は月経前症候群・PMSでよく知られていますが、PMDDはそれよりも深刻な状態です。


PMDDは、女性ホルモンの変化で起こるうつ病の一つです。激しく怒るのが決まって生理前であり、生理痛や頭痛なども伴う場合はこの可能性があります。気分を安定させ、怒りを抑えるために、抗うつ薬が効きます。





4 パーソナリティ症

怒りを爆発させる原因が、親しい人から拒絶されて嫌われるような状況や、見捨てられるような状況である場合は、境界性パーソナリティ症の可能性があります。境界性パーソナリティ症の人は解離状態となって別人のように怒ります。


パートナーと楽しく話していたと思ったら、突然「何でそんな言い方するんだ!」と激怒し、周りの目も考えずに怒鳴り散らすといった感じです。怒りのあまり外へ飛び出したり、自殺未遂を試みたりといった激しい行動も見られます。


ふだんから相手を束縛することがあり、相手が嫌がることをわざとして、自分が嫌われていないかを確かめようとする試し行動をすることも特徴です。


「パートナーが仕事で忙しい時間帯にわざと電話をする」、「心配されるように遺書のような内容のラインを打つ」といったことがあるでしょう。別れ話の後にストーカー行為に発展することもあります。


境界性パーソナリティ症は、子供の頃に十分な養育を受けらなかったことが原因と考えられています。虐待やネグレクトなどを通して、親子の情的な関係を築けなかったことから、心の成長に支障が起きてしまったのです。


人から拒否されるような出来事があると、「見捨てられ不安」のスイッチが入り、親に見捨てられた時の恐怖が蘇ります。そして、怒りが爆発してしまうと考えられています。


境界性パーソナリティ症は治りにくい病気と考えられていますが、長く腰を据えて治療を継続することで改善されていきます。10年間くらいの治療の継続で、90%近い人が改善されたという報告もあります。



5 統合失調症

パーソナリティ症に似ていますが、常に機嫌が悪く、ちょっとしたことで爆発する人は統合失調症の可能性もあります。常に悪口の幻聴が聞こえていること、人から狙われているという被害妄想があることが怒りの原因です。


統合失調症は、薬の治療に大変効果がある病気です。ところが、自分が病気であるという意識が薄いことが多く、周りの人から病院へ行った方が良いと勧められても断ってしまうケースがあります。



怒ってばかりいることは本人も辛く、いっしょに生活をする家族や仕事をする仲間にも迷惑をかけてしまいます。激しい怒りの背後には、うつや不安の感情があります。酷い場合は被害妄想や幻聴がある場合もあるでしょう。


性格が悪いから怒っているのではなく、深刻な心の病気の可能性もあるのです。短気な性格と考えないで、治療を受けることが必要です。


また、カウンセリングやアンガーマネジメントでもコントロールがつかない場合は、精神科で薬の治療を受けることも考えてみてください。今回紹介した5つの病気は、薬の治療を通して改善される可能性があります。