うつが長引くのはなぜ?

病気には、大きく分けて「急性疾患」と「慢性疾患」の2つの種類があります。急性疾患とは、風邪などのように比較的短期間で治るもので、慢性疾患とは、糖尿病や高血圧のように徐々に発症し、経過が長期に及ぶものです。それではうつ病はどちらに分類されるでしょうか?

うつ病は、基本的に慢性疾患に分類されます。薬を飲めば、1カ月くらいで症状は落ち着きますが、多くの人は再発を繰り返すために、数年から数十年と治療や予防を続けることが必要です。糖尿病や高血圧になった人が、生涯にわたって治療や予防するのと似ています。


薬品メーカーのキャンペーンで、「うつ病は心の風邪」と言われていたことが、30年ほど前にありました。ところが、うつ病が良くなった患者さんのその後の経過を調査したところ、4人に1人は半年以内に再発し、2人に1人は1年以内に再発しています。5年間を見てみると、なんと3人に2人が再発していました。また、再発を繰り返すほど、症状は重くなり、さらに再発する頻度も上がるという悪い循環に入ります。うつ病は心の風邪どころか、深刻な慢性疾患です。


調査によると、うつ病が慢性化する人にはいくつかの特徴があることが分かっています。今回は、うつ病が長引く人の7つの特徴を紹介しましょう。当てはまる人は、数年から数十年と長く薬を飲んで再発を予防する必要があります。





1 症状が重かった人・再発が多い人

当然かも知れませんが、症状が重かった人は、薬を長く飲む必要があります。例えば、長い期間入院した人、被害妄想などの精神病的な症状があった人、寝込んでしまって日常生活が何もできなくなった人などです。

再発を繰り返す人も同じで、長い治療が必要になります。仕事柄、休むことができないなど、ストレスを避けられない人が当てはまるかも知れません。再発を繰り返すたびに症状は重くなるので、薬を続けて予防に心がけましょう。



2 不安症状・パニック発作がある人

不安の症状がつよい人は、うつ病が慢性化する傾向があります。これは不安症も合併しているからです。ただし、うつ病も不安症も治療の薬は同じですので、飲む薬は変わりません。

特に多いのが、パニック発作という発作性の不安がある場合です。これは不安症の中でもパニック症と呼ばれるものです。逆にパニック症からうつ病になる人もいて、ともに長い治療が必要になります。



3 10代から20代前半に発病した人

若い頃に発病した人は、うつ病が長引くことが知られています。10代から20代前半の時期は、世の中の色々なことを学ぶ大切な時期です。若い頃のうつ病のために、世の中との接点がなくなり、社会に出ることの妨げになる場合もあります。こうならないように、薬で再発を抑えることが大切です。

子供が発病した場合、親としては、薬を長く飲ませることが心配です。大きな副作用はないので、親の判断ですぐに薬を止めないようにしましょう。



4 孤立している人

病気を抱えているだけで大変なのに、周りの人が理解してくれないことほど、辛いことはありません。特に、家族が病気に理解がなく、「うつ病は気の持ちようだ」、「いつまで薬を飲むの?」と追い詰めるようでは、良くなるものも良くなりません。このように、支えてくれる人がいない場合は、うつ病は長引きます。





5 発達障害やパーソナリティ症がある人

発達障害やパーソナリティ症のある人は、そうでない人よりも3~4倍の確率でうつ病になりやすく、さらに長引きやすいことが知られています。脳の感情をコントロールする部分に生まれつきの障害があることが、うつ病や双極症になりやすいと考えられています。また、対人関係の問題から、職場や学校でストレスを感じやすいことも大きな原因の一つです。



6 産後のうつ病

女性にとって、赤ちゃんを産むことは嬉しいはずなのに、出産後になぜか悲しく、涙が出ることがあります。これはマタニティーブルーと呼ばれ、ふつう3日くらいで改善しますが、出産後2週間を過ぎても気分の落ち込みやイライラがとれない場合は、産後うつ病です。

妊娠する前にうつ病を経験していた人の場合は再発と考えられます。また、子育てに自信がなかったり、妊娠中に夫の浮気が見つかったりと、夫婦間の心理的な問題も絡んでいることもあり、原因は複雑です。子育てが負担になるために、産後うつ病は慢性化することがあります。



7 飲酒の習慣がある人

アルコールは、一時的にうつ気分を良くするので、飲酒の習慣があるうつ病の人は多くいます。ところが、長い目で見ると、アルコールは脳の神経細胞に悪い影響を与えますので、うつ病を悪くさせたり、長引かせることになります。酷い例えですが、うつ病の治療を受けながら、飲酒を続けることは、毒を飲んでいることと同じかも知れません。


うつ病の再発を下げるために最も大切なことは、規則正しい生活を心がけ、ストレスを少なくすることです。ところが、生きて行くためには、無理をすることは避けられません。突然のトラブルに巻き込まれることもあります。計画通りに行かないのが人生です。そうなると、確実に再発を予防するためには、医師の指導のもとで薬の治療を続けることです。

「薬を飲むのは弱い人間だ」と考えて、引け目を感じながら薬を飲んでいる人もいますが、大きな誤解です。考え方を変えて、「薬を何粒か飲むだけで、予防ができるならば得なことだ」と考えるべきでしょう。

今回紹介した内容に当てはまる人は、10年20年と薬を飲む可能性があるかも知れません。薬は長く飲んでも大きな問題はありません。薬の力でそれなりに毎日を生活できているならば、うつ病を克服している証拠です。