「親の資格」って?
児童相談所への虐待の相談件数は年々増えており、年間20万件を超えています。国の政策にも関わらず、未だに減る様子はありません。事件を起こした親は、「親の資格がない」と非難されて当然ですが、「親にも資格制度をつくった方がいいのではないか?」という声までも聞こえてきます。冗談のようですが、親からの冷たい仕打ちに耐えて来た人の中には、真面目にそう考える人もいるのです。
資格とは、その分野での知識や経験があり、願われた仕事をやり遂げる能力があることの証明です。人にとって重要な子育てに資格があるならば、どのような内容であるべきでしょうか?
今回は、親の資格について考えてみましょう。
資格とは、その分野での知識や経験があり、願われた仕事をやり遂げる能力があることの証明です。人にとって重要な子育てに資格があるならば、どのような内容であるべきでしょうか?
今回は、親の資格について考えてみましょう。

1 親の資格を決めるのは子供
子供の頃に親から愛されず、親子の情的な関係を築けなかった人は、大人になってからも自分に自信をもてません。人を信頼することができないために、対人関係を良好に保つことが苦手で、社会に出てから苦労が絶えません。これを大人の愛着障害と呼んでいます。
また、子供の頃に虐待やネグレクトなどを受け続けると、トラウマを一生背負うようになり、積極的な生き方ができなくなります。これは複雑性PTSDと呼ばれています。
アダルトチルドレンと呼ばれる人たちは、親が暴力をふるったり、情緒が不安定であったために、子供時代に自分の気持ちをいつも封じ込めてきました。我慢する習慣は、心の根っ子に染みついていて、大人になっても自分の気持ちを素直に出せません。
このような恵まれない親子関係で育った人は、大人になって苦労を感じる度に、親への恨みが湧いて来ます。周りの人は親から普通に与えられたものを、自分は与えられなかったと苦しみ、自分の親には子供を育てる資格がなかったと感じるでしょう。
このように、産まれた子供が犠牲になって、親に資格がなかったことが分かります。結局、親の資格を審査できるのは子供です。
2 親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できること
自分の親に資格がないという言う人は、親から暴力を振るわれた、家に居場所がなかった、お金で苦労した、などの苦しい体験をしてきました。こうした人たちの話を聞いていくと、辛い経験に共通してあることは、「親に苦しい気持ちを理解してもらえなかった」という点です。親は自分のことを優先して、子供のことを犠牲にしてきました。子供としては、親の犠牲になって、辛い思いをさせられたことを理解して欲しいのです。
こうして考えてみると、親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できることと言えるでしょう。

3 親の資格の有無は、変わることがある
一つのケースを紹介しましょう。産後に病気になってしまい、子育てが十分にできなかったお母さんがいました。子供に何もしてあげられず、怒ってばかりでしたので、子供は成人すると「親の資格がない」と言い残して、サッサと家を出て行ってしまいました。
お母さんは、子育てができなかったことを後悔しましたが、病気でしたから仕方がありません。せめてもの謝罪の気持ちで、出て行った子供の口座に、毎月ささやかなお金を振り込み続けました。その後、子供は家庭をもち、子育ての難しさを知りました。徐々に親の苦労が理解できるようになり、お母さんに対する「親の資格がない」という気持ちはなくなったそうです。
このケースのように、「親の資格がない」と子供に突き放された親でも、あとから挽回して、それを撤回してもらうこともあります。これとは全く逆で、良いお母さんと言われた人が、遺産相続で子供と争い、年老いてから「親の資格がない」と言われることもあります。遺産を独り占めにしたために、子供から悪いレッテルを張られてしまったのです。
このように、親の資格がある、なしの審査は、子育ての期間だけでなく、一生続くと覚悟しなくてはならないのです。
4 親の資格は、内面的なもの
いつの時代も、「子供を東大に入れた」、「子供を有名なスポーツ選手にした」と、子育ての成功を本にしたり、講演をする母親がいます。世間はすばらしい親と讃えますが、数十年たって、その家族が絶縁しているということも良くある話です。
そもそも、人の成功は、親の育て方よりも、遺伝的に生まれ持った才能の影響が大きいと言われています。子供の成功は、親の手柄ではありません。
子供のためにと考えて、お金をかけて英才教育をしたものの、子供に恨まれてしまうこともあります。親の価値観が、そのまま子供の価値観と同じとは限らないからです。
親の資格として、子供にお金の不自由をさせない、よい教育を受けさせる、習い事をさせてあげる、といった表面的なことも大切ですが、それが本当に子供のためになっているのか、常に考えなくてはいけません。
一方的な親の価値観の押し付けの場合があるからです。貧しくても、子供の気持ちを理解できている親の方が子供に感謝されます。親の資格はあくまでも内面的なものです。
子供の苦しい気持ちを理解できることが、親になる資格と言いましたが、人の気持ちを理解する能力は、人によって異なります。ある程度生まれつき決まっている能力なので、できない人に「気持ちを分かれ」と言ってもできません。
しかし、子育てを通して、子供の気持ちを理解する力が少しずつ身についてくることもあります。分からないなら、分からないなりに、子供ために一生懸命努力を続けることが大切です。
「自分にはできない」と思ったら、人を頼ることもしましょう。子供の気持ちが分からないという人でも、つねに子供のために心を注ぐことができ、子供を優先して考えているならば、親の資格があると言えるのではないでしょうか。
