2021.06.07

人格障害って何? 境界性について

精神病とまでは言えませんが、考え方や言動が変わっていて、社会に溶け込めずに困っているという状態を人格障害、もしくはパーソナリティ障害と呼びます。変わっているといっても個性的の域をこえており、異常性格とか病的性格とも言われるものです。以前は精神病質、サイコパスと呼ばれていました。
考え方や言動が偏っているといっても、どこまでが正常でどこからが障害なのかは明確なラインはありません。社会と歯車が合わず、本人も周囲も困っている場合に診断がつけられます。明らかに人格障害と思われるハリウッドセレブなどの有名人もいるように、障害があってもうまく社会に適応していることもあります。
人格障害は大きく3つのタイプに分類されます。

(A)猜疑心がつよく人との関わりをもとうとしないタイプ。妄想性人格障害などがあります。

(B)自己中心的で感情のコントロールがつかないタイプ。言動や暴力で相手を傷つけたり、社会で問題を起こすことが多くあります。犯罪行為に至ることもあります。

(C)こだわりがつよく、依存的で心配性のタイプ。引きこもりになるケースが多いです。回避性人格障害、依存性人格障害などがあります。
人格障害の中でも私たちの身近で問題となるのが、境界性人格障害というものです。これは、ボーダーラインパーソナリティ障害とも呼ばれており、(B)に分類されます。いつも虚しさがあり、見捨てられてしまうのではないか不安感をもっています。見捨てられそうになると、なりふり構わず暴力や自殺未遂などで狂ったように相手の気を引きます。怒りのコントロールがつけられません。精神病的な妄想の症状がある人もいます。
家族や恋人が境界性人格障害であると、生活が振り回されることが多く、その対応に大変苦労することがあります。そのために人格障害の中では最も関心を持たれるものです。
ここでは境界性人格障害について説明します。
1970年代にはアメリカで境界性人格障害の患者数が増え、精神分析的な研究が盛んに行われました。発病と幼児期の虐待やトラウマとの関連性が指摘され、このような神経症的な要素と、精神病的な症状もあることから、神経症と精神病の境界線上にある疾患と考えられました。そこで「境界性」と命名されました。そして治療には専門家による精神分析治療が必要であると考えられました。
しかし、1990年代から精神疾患を脳科学の観点から研究する傾向が主流となりました。特に大人の発達障害の研究が進む中、境界性人格障害と診断されている人たちは注意欠如多動性障害(ADHD)などの発達障害ではないかという意見も出るようになりました。幼児期の体験などの心理的な問題以上に、脳の一部が生まれつき十分に機能していないために人格障害がおこるのではないか、という考え方です。
これは、画期的な発想の転換でした。なぜなら過去の心の傷が人格障害の原因ならば、それを治すためには専門的な精神分析的治療が必要となります。その上、結局は親のせいで病気になった、という発想になりがちで、親が責め立てられて状況がよけい悪化することもしばしばありました。
しかし、生まれつきの脳の問題であるとなると、治すという観点よりも、障害をもちながらどう社会に適応するかを考えればよいことになります。例えば、気分の変動が激しく、すぐに怒ってしまう場合は、それを抑える薬を服用してみる、生活が不規則になったら、入院して生活を整える、など症状に応じた対症療法が有効になります。
次に家族や恋人の対応の仕方です

変わった言動が単なるまがままでなく、障害であるとこを前提として対応してあげることがポイントです。そうすれば自然に大切にしてあげようと思えますし、いい加減な対応をしなくなります。どうせわがままだからと思って、いい加減な対応をすることで、怒りのスイッチを押してしまうことが多いのです。
万が一怒らせてしまった場合は、相手の怒りに巻き込まれず、こちらも怒らずに冷静に対応することです。こちらに非がある場合は冷静に謝罪することも必要です。
ただし、暴力、お金の使いすぎ、自傷などの自己破壊的な行動については、話し合って制限を儲けることが必要です。暴力の場合は、警察や役所のDV相談センターなどの公的機関に関わってもらうことも必要です。
境界性人格障害は、虐待などの過去のトラウマが関わっているケースもありますが、それ以上に脳機能の障害の影響がつよいと考えられるになりました。そのために最近では境界性人格障害という診断名をつけられることは少なくなり、ADHDとか双極性障害と診断がつけられることが多いようです。
診断名はどちらにしても、わがままな人として見下すのではなく、障害と考えて対応することが必要でしょう。
他の人格障害についても同様に、アスペルガー障害などの発達障害があることが知られるようになっています。どの人格障害も残念ながら治すことは難しいのが現状です。しかし怒り、不安、こだわりなどの症状を抑える薬もあり、こうしたものを利用しながら社会への適応を考えてあげることが必要でしょう。