2021.12.01

漢方薬で心の病気は治せるの?

「精神科に行ってみたいけれども薬を飲まされるのが怖い。漢方薬で治せないか?」と思われる方がいらっしゃいます。確かにネットには、精神科の薬は長く飲まなくてはならない、副作用がある、などの記事がたくさん出ています。
こういった記事を読まれた方が、「何とか精神科の薬を飲まないで済まないだろうか」という思いで漢方薬を希望されるのでしょう。果たして漢方薬で心の病気は治せるのでしょうか?


ここでは心の病気は漢方薬で治せるか、というテーマで説明します。
そもそも漢方薬とはどのようなものでしょうか。漢方薬の原料は生薬(しょうやく)というもので、主に薬草を加工したものです。生薬とは、例えば、朝鮮ニンジンは疲労回復に効果がある、柴胡(さいこ)はうつ気分を改善させる、など古くから効能が知られて来ました。これらの生薬を複数組み合わせることで効果を調整したものが漢方薬です。継続して長く飲むことで自然治癒力を高め、体質改善の効果があります。





ただし漢方薬は症状を抑えるのが目的ではないために、症状を和らげるという観点からは効果が出るまでは遅く、効き目もマイルドです。
うつ病、パニック症、躁うつ病、統合失調症などの精神疾患は、しっかり症状を抑え込むことが必要です。症状を取ることで自然治癒の力が働き、病気が治っていきます。ですから、漢方薬は精神疾患の治療に向いていません。
しかし、漢方薬は精神科で使われないということではありません。検査しても異常はないけれども何か調子が悪い、ということを不定愁訴と呼びますが、漢方薬は不定愁訴によく効きます。特に自律神経失調症、心身症、軽いうつ病の体の症状などには効果があります。例えば、頭痛、めまい、肩こり、消化不良、体温調整不良、倦怠感、不眠などの症状を改善させることができます。
また、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)のように、精神科の薬による体重増加、むくみ、便秘などの副作用を改善させるために使われるものもあります。


精神科でよく使われる漢方薬を紹介しましょう。
1.抑肝散(よくかんさん)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんちんぴはんげ)

神経が高ぶっており、怒りやすく、イライラ、不眠のある人に効果があります。気分安定薬のような作用があり、自閉症の子供や認知症のお年寄りのイライラにもよく使われています。
2.当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・加味逍遙散(かみしょうようさん)

虚弱体質の女性で、生理不順や更年期障害による自律神経失調のある人、特にうつ気分や体のコリや痛みがある人に効果があります。更年期の女性の自律神経失調症によく処方されています。
3.酸棗仁湯(さんそうにんとう)

心身の疲れによる不安、不眠がある人に効果があります。睡眠約を飲むのが怖いという不眠症の方によく処方されています。しかし、睡眠薬ほどの効果は期待できません。
4.補中益気湯(ほちゅうえっきとう)・六君子湯(りっくんしとう)

疲労かたくする食欲不振があり、体力や気力がない人に効果があります。
5.加味帰脾湯(かみきひとう)

食欲不振で元気がなく、貧血、不安、不眠などがある人に効果があります。
6.柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこ・か・りゅうこつぼれいとう)

血圧が高く、比較的体力がある人で、ストレスが原因のイライラや不眠がある人に効果があります。
7.防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

やせ薬としてテレビのコマーシャルでもよく紹介されています。精神科の薬による体重増加、むくみ、便秘の改善に効果があります。
精神科の薬は脳の神経に働きかけて、症状を抑えることで神経の活動を整え、それによって自然治癒の力が働きます。精神疾患は症状をダラダラと放置しているとむしろ慢性化してしまいます。精神科の薬の副作用を気にされている方がいますが、「角を直して牛を殺す」ということわざがあるように、薬の副作用を恐れるあまりに、薬を飲まないで病気を慢性化させてしまうことは一番よくないことです。
漢方薬だけで精神疾患を治すことは難しいことです。しかし、漢方薬は自律神経失調症などの不定愁訴によく効くので、精神科の薬といっしょに使うことで力を発揮することがあります。漢方薬に詳しい精神科医もいますので気になる方は相談してみてください。