愛に関する心理学
愛とは、日常よく使う言葉ですが、あらためて「愛とは何?」と聞かれても、すぐに答えられる人は少ないと思います。愛というと、男女の性的なものを思い浮かべることが多いかも知れません。
しかし、愛は、親子、友人、職場の仲間の間にあり、そしてペットや大切な物との間にもあります。さらには故郷や母国など、とても大きなものとの間にもあります。想像以上に幅広い感情です。
愛を辞書で引くと、「思いやり」「相手をいとおしく思う気持ち」などという説明が出てきます。愛は心理の一つですから、心理学の研究対象でもあります。それでは、心理学では愛をどうとらえているのでしょうか?

1. つながりたい感情
人は生まれながらに、誰かとつながりたい欲求があります。愛とは、相手とつながった瞬間に湧き出るポジティブな感情と言えます。実際には数秒から数分しか続きませんが、喜びの最高の瞬間であり、引き続いて幸せや安心を感じることができます。何度でも感じたいと思い、さらにつながりを深めようとします。
愛はつながった人同士で感じることができるため、片方だけに所属する感情ではありません。同時に相手も感じ、共有することになります。これをシンクロすると言います。シンクロすることによって、もっとつながりを深め、さらに新しくつながる相手を求めて広がろうとします。
お母さんが、子供を思い浮かべた時に愛おしいと思い、この愛が出発点となって美味しい料理をつくってあげます。子供は料理を食べて、お母さんの愛を感じます。お母さんの心が子供とシンクロし、親子の心が愛でつながるのです。
喜ぶ子供の笑顔にお母さんはもっと美味しい料理を作ってあげようと力をもらい、子供もお母さんの愛にこたえられるように勉強をがんばろうと思います。さらに、人とつながることの喜びを感じた子供は、友達に優しくできます。友達との間に新しいつながりができるのです。
このように人と人を結び付け、それを発展させるのが愛の力です。愛は、家族や社会の根っ子となっているのです。
2. 心の栄養
愛を体験すればするほどに、安心や幸せを感じるようになります。安心や幸せは、生きていく上で最も大切な要素です。これを土台にして心は成長していきます。したがって、愛は心の栄養と言うことができるでしょう。
体の健康と成長のためには食べ物が必要なように、心の健康と成長に愛は不可欠なのです。ですから、子供の頃に十分な愛を受けられなった人は、大人になっても自己肯定感が低く、さまざまな心の問題を抱えることが多くなります。
3. 仕事を成功させる力
経営の神様、松下幸之助は、「商売は金もうけにあらず、接した人に感動を与えてこそ発展する。」と言っています。ビジネスにおいて、「お客さんの期待に応えたい」という気持ちも愛の一つです。喜んでもらいたい気持ちが伝わり、お客さんとのつながりで愛のシンクロが起きる時、ヒットが生まれます。
経済活動の根っ子にも愛の原則が働いているので、「お金を儲けてやろう」と言う気持ちだけではビジネスは成功しないのです。

4. 癒しの力
脳が相手を認識すると、下垂体というところからオキシトシンという物質が分泌されます。オキシトシンは脳に働きかけ、つながりを求める感情をつよめます。
オキシトシンの効果はそれだけではありません。脳には扁桃体という不安を感じる部分がありますが、そこに働きかけて、不安感を抑える効果があります。さらにオキシトシンが血液中に放出されると、ストレスホルモンのコルチゾールを減らす作用もあります。このように、オキシトシンには不安やストレスを和らげる作用もあるのです。愛はオキシトシンという物質によって支えられており、実際に不安やストレスを緩和する癒しの効果があるのです。
オキシトシンが増えているかどうかは、唾液に分泌されたものを測ることで分かります。それによると、最も多く分泌されるのが、男女のスキンシップや、女性の出産や授乳の時です。
その他にも、親子で遊ぶ、楽しい会話をする、新しい友達ができる、動物とふれあう、仕事でよいパートナーと合意する、マッサージを受ける、など人と人がつながるたくさんの場面でオキシトシンは分泌されます。好きな人同士でのアイコンタクトでも増えることが確認されています。
5. 病気を治す力
孤独やストレスは、ストレスホルモンであるコルチゾールを増やします。コルチゾールは、体の免疫システムを弱め、血管や臓器の炎症反応を悪化させてしまいます。
これによって心臓病、脳卒中、認知症、癌などのさまざまな病気を引き起こします。これに対して、オキシトシンは、コルチゾールの働きを抑えることができます。オキシトシンがたくさん分泌されるほどに血管や臓器の炎症を抑え、病気の発症を防ぐことができるのです。ですから、愛には病気を治す力があると言えるでしょう。

愛は心の栄養です。人と人を結び付けて家庭や社会をつくり、繁栄させるエネルギーでもあります。さらにストレスや病気から守ってくれる力でもあります。インターネットの進歩とコロナ禍もあり、人と人との直接のふれあいが少なくなってきました。このような時代だからこそ、愛することや触れ合うことの大切さを意識しましょう。
