表情に隠される心の病気


心の状態は表情や目つきに現れます。健康な人は、喜怒哀楽に応じてさまざまな表情をしますが、心の病気になると、不安定な心の状態が表情にも現れます。

精神科医や心理カウンセラーが相手の心の読み取るためには話を聞くだけではありません。相手の表情も大きな情報源になっています。


心の病気は自分で気づけないことがあります。早めに治療すれば、早く良くなるにも関わらず、治療のタイミングを逃している人がたくさんいます。周りの人が気づいてあげることも大切なのです。

言葉でSOSを言わなくても、いつもと違う表情や目つきから、その人に何らかの心の病気があることに気づくことができます。気づいた人から、「いつもと違うよ、何か辛いことがあるの?」と、優しく声をかけてあげられたら、治療のきっかけにつながるかも知れません。


今回は、人の表情や目つきにどのような心の病気が隠されているかを紹介しましょう。











1 無表情


無表情になるのは、心の喜怒哀楽の動きがなくなっている証拠です。うつ病の人によく見られる症状です。

ただし、子供の頃からずっと表情に乏しい人は、自閉症スペクトラム障害・ASDの可能性があります。


無表情でも蝋人形のように全く表情が動かない場合は、重度のうつ病、統合失調症、パーキンソン病が考えられます。

統合失調症の場合は、飲んでいる抗精神病薬の影響で無表情になることもあります。



2 怒った表情


機嫌が悪く、怒っているような表情は、うつ病の人に見られます。本当は休みたいのに無理をしている気持ちが現れています。


また、目が吊り上がり、まるで般若のお面のような表情になっているのは、境界型パーソナリティ症、双極性障害の躁状態、統合失調症に見られます。心の中で怒りや恨みが渦巻いている状況です。



3 生気(せいき)がなく暗い表情


うつ気分がある人の表情は暗く、疲れている印象を受けます。うつ気分は、うつ病、不安症、双極性障害、統合失調症など多くの精神疾患にある症状です。暗い表情は心の病気全般に見られます。



4 不安げな表情


暗い表情と似ていますが、表情は強張り(こわばり)、眼球の動きが落ち着きません。目が泳いでいるとも表現されます。

これは、不安と緊張を表わしていて、社交不安症の人によく見られます。また、うつ病や統合失調症などの他の精神疾患でも見られることがあります。



5 作り笑い


作り笑いは、軽症のうつ病の人によく見られます。共感していないのに、周りに合わせようとして無理やり表情を作っているのです。

笑顔が途切れた一瞬、本来の辛そうな表情に戻ることがあります。会話の途中で見られるその表情の差に「あれ、怒らせてしまったのかな?」と思ってしまいますが、そうではなく、本来の表情に戻っただけなのです。


医学用語ではありませんが、「微笑みうつ病」という言葉があります。軽症のうつ病の人が、自分の心の変化を認めたくないために、無理やり笑顔をつくって生活することを表わした言葉です。

自分が弱っていること、周りとうまく合わせられないことを知られたくないため、自分の素直な心の状態に笑顔でふたをしているのです。






6 顔が浮腫(むく)んでいる


過食嘔吐をする摂食障害では、唾液腺の炎症や栄養の偏りから顔に浮腫みが出やすくなります。

アルコール依存症の人も、アルコールの影響で顔の浮腫みが出ます。また、睡眠薬など精神科の薬の副作用で利尿作用が抑えられて、やはり顔が浮腫む場合もあります。



7 目がすわっている


すわった目つきと言うのは、一点を見つめるように眼球が動かない状態のことを言います。これは、感情が固まり、喜怒哀楽がなくなっているサインです。

重度のうつ病や統合失調症で見られます。また、トランス状態やせん妄などの特殊な意識状態でも見られます。催眠術にかかっている人の目つきも良い例でしょう。



8 目に輝きがない


元気がない人の目つきを、「目に輝きない」、「死んだような目つき」と表現されることがありますが、実際に目の輝き方が変わっているのではありません。

表情に乏しく、眼球の動きがあまりないために、目から生気が伝わって来ないのです。目に輝きがないのは、生気に乏しい状態です。うつ病によく見られます。



9 ギラギラした怖い目つき


相手に貪欲な印象を与えるような目つきのことです。目の輝き方が変わっているのではなく、相手から何かを奪い取ろうとするような目的があり、表情は豊かですが、眼球の動きがあまりありません。

何かを要求しているような圧迫感を与えます。双極性障害の躁状態、ADHD、薬物依存などに見られることがあります。



10 目を合わせない


自閉症スペクトラム障害・ASDの人は、会話の時に目を合わせません。目を伏せていたり、横を向いていたり、目をつぶって会話する人もいます。

ASDの人は、コミュニケーションの障害があるため、言葉の情報だけを頼りにして、相手の目や顔の表情から情報を手に入れることをしないのです。

マナーとして、会話の時に相手の目を見るように意識することで、少しずつ改善させることができます。



「目は心の鏡」ともいいます。言葉には発しないけれども、表情や目つきから伝わってくるメッセージがあります。

もし身近な人の表情からSOSのサインを感じた時、何か心の病気を患っているのかも知れません。そのような時は、本音を聞いてあげて、専門家の助けが必要と感じたら、精神科や心理カウンセリングに行くことを勧めてあげましょう。