勉強はできるのに、仕事ができない?

勉強ができる人は、何事もうまくこなせる印象があります。ところが、学校では成績優秀だったのに、会社に入ると仕事ができない人がいます。勉強の成績とは、脳の一部分の能力が反映されているだけで、脳の能力のすべてを反映しているわけではありません。仕事をこなすためには、勉強以外の脳の能力も重要なのです。

脳の知的な能力は大きく4つに分けられます。そのうちの1つである「言語理解」という能力が、勉強の成績と関係しています。他の3つの能力のどれかに問題があると、勉強ができるのに仕事ができない人になってしまうのです。
例えば、耳から聞いたことを一時的に記憶しておいて、それをもとに思考する「ワーキングメモリー」という能力があります。この「ワーキングメモリー」が劣っていると、上司から機械の使い方を何度聞いても、理解できないということが起きてしまいます。実際に、有名大学を卒業しているのに、スーパーのレジ打ちができない人もいるのです。
実は、このようなアンバランスな脳があることが分かってきたのは、最近30年くらいのことです。それまで発達障害と言えば、脳の能力が全体的に遅れてしまったものと考えられていました。
ところが、学校の勉強はできても、他の脳の能力の発達が遅れてしまい、最終的にアンバランスな脳になっている発達障害も知られるようになりました。これらは、大人になって気づかれることから「大人の発達障害」とも呼ばれています。学校では優秀な成績だったのに、職場では仕事ができない人は、大人の発達障害がある可能性があるのです。


それでは、大人の発達障害では、どのような仕事の内容ができないのでしょうか。職場でうまくいかない状況を具体的に紹介しましょう。





1 報告・連絡・相談ができない

職場は共同作業ですから、メンバー同士のコミュニケーションはとても大切なことです。職場でまず教えられることは、上司に「報告・連絡・相談」をすることです。略して「ほう・れん・そう」とも言います。
ところが、発達障害の人は、人の気持ちを読み取ったり、自分の気持ちを伝えることに問題があるため、「ほう・れん・そう」が苦手です。マイペースで仕事をしているため、上司からは、協調性がないとか、自分勝手と誤解されます。逆に、臨機応変な対応ができないので、何でもかんでも「ほう・れん・そう」してしまい、上司に呆れられてしまうこともあります。

2 会話が苦手

発達障害の人は、会話の仕方に特徴があります。人の話を聞かない、自分のことだけを一方的に話す人がいます。空気を読むのが苦手で、その上思ったことをそのまま口に出してしまうので、会議でとんでもない発言をすることもあります。目上の人への挨拶の仕方や敬語の使い方がおかしいために、変な目で見られることもあるでしょう。

3 小さなミスが多い

集中力に問題があり、何度注意されても同じミスを繰り返す人がいます。事務作業や単純作業が苦手、作業のスピードが極端に遅いこともあります。ただし、発達障害の中でも自閉症スペクトラム障害・ASDの人は、細かい数字を扱うなどの繊細な作業が得意です。

4 マネージメントができない

決められたことをやるのは得意ですが、自分から仕事を作り出したり、部下にリーダーシップをとることが苦手です。全体を見通す力に欠けていて、興味のあることから手をつけようとする傾向があり、仕事の優先順位をつけられません。一つのことをやっていると、他のことが意識から外れてしまうため、複数の仕事を同時に進行できないことがあります。





5 感情のコントロールができない

人の気持ちを読み取ったり、自分の気持ちを伝えることが苦手なため、感情をため込んで、突然爆発することがあります。普段から落ち着きがなく、喜怒哀楽の波が大きい人もいます。
また、感情に振り回されて、物事を冷静に判断できないことがあり、うまく行かない時には、「上司のせいだ」、「親のせいだ」と他人のせいにする傾向もみられます。感情的に他人に文句を言うことが多いのに、それを自分がされると敏感に反応するため、身勝手な人と誤解されることもあります。

6 孤立する

コミュニケーションの問題、感情のコントロールの問題があるために、周りの人と馴染めません。周りからは、気が利かない人だ、自分勝手な人と誤解されます。自分としては精一杯頑張っているつもりなのに、それを分かってもらえません。そこから職場で孤立してしまいます。

7 体調を壊しやすい

ストレスが体調に出やすく、仕事を休みがちです。自分で体調の変化を予測できないので、「明日は行きます」と言っておきながら、突然休んでしまうことがあります。そうなると、上司からは、虚言癖(きょげんへき)があると誤解されてしまいます。また、仕事に大きな穴を開けても、平気な顔で出社するので、周りからの評判も悪くなります。



職場でこうした問題がある場合は、大人の発達障害の可能性があります。小さなトラブルはあるけれども、仲間で助け合いながら楽しく働けるならば良いのですが、問題が大きくなる場合は、精神科で診断を受けましょう。
大人の発達障害には、自閉症スペクトラム障害・ASDや注意欠如多動症・ADHDなどの種類があります。ASDとADHDの両方が合併していることも多いので、診断がつけにくいこともあります。治療としては、発達障害そのものを治す薬はありませんが、症状を抑える薬があります。また、問題が出ているのは、いまの職場が自分の特性に合っていないことが原因かも知れません。診断を通して自分の特性を知り、それに合った仕事を選ぶことも大切なことです。