愛着障害を乗り越えているサイン

心理学では親子の情的な絆を愛着と呼びます。ところが、子供の頃に、親との突然の別れがあったり、親から冷たい仕打ちを受け続けると、愛着が育たちません。


これは、心の成長にも影響を与えます。そのまま、誰からも助けがないままに大人になると、心はいつまでも傷つきやすく、自信を持てないままになります。これを大人の愛着障害と呼びます。

愛着障害の人は、低い自己肯定感、劣等感があり、人間関係の距離感が分からないことで辛い思いをします。特に、人間関係の作り方や保ち方が分からないために、社会に出てから様々なトラブルが起きてしまいます。


愛着障害を持つ人は、過去の出来事に振り回されているので、何か希望に向かっていく人生というより、過去の問題を乗り越えて行く人生です。良いパートナーに出会えてもけんかばかりしてしまう、人間関係で失敗して仕事のチャンスを逃してしまう、何をやっても自信が持てない、など、当たり前の幸せがつかめません。

友人や同僚とは、出発点が違うため、周りはどんどん先へ行ってしまうように感じます。また、「普通の人ができることができない」、「できないことを分かってもらえない」という悩みがいつもついて回ります。


しかし、いつまでもこのままではありません。ほとんどの人は、時間をかけながら少しずつ愛着の問題を乗り越えることができています。安心できる場所、親切な人との出会い、仕事で評価される喜び、子育て、ペットや植物を育てること、没頭できる趣味など、プラスになる出会いを通して、過去の問題は少しずつ癒されて行きます。


大人の愛着障害のゴールはどこにあるのでしょうか。今回は、愛着障害が改善されて、親に愛されてこなかったことを乗り越えられたサインを紹介しましょう。





1 過去を思い出しても動揺しない

過去の親子関係が清算されていないと、親のことを思い出すたびに、憎しみや悲しみが湧いてきて、語り出すと感情的になります。しかし、心には、心の傷を修復する力、悪い思い出を解毒する力が自然に備わっています。

安心、楽しみ、喜びがあると、毒のような過去の思い出は解毒されて、苦しみの伴わない思い出になります。そうなると、親のことを思い出しても動揺しなくなり、浮かんでも来なくなります。



2 過去の辛かったことを冷静に語れる

辛い過去の出来事は、人に知られたくありません。生い立ちを聞かれても、本当のことは言えずに隠してしまいます。

「どうせ分かってもらえない」「恥ずかしい」、「変に思われるだろう」といった思いが、過去の出来事を言葉にすることを邪魔します。また、理解してくれる人に話し始めても、冷静に話せず感情的になってしまい、まるで親に向かって文句を言っているような口調になってしまいます。

しかし、過去の出来事が心の中で解毒されていると、動揺せずに言葉に出して話せるようになります。例えば、友人やカウンセラーに過去のことを聞かれて、自分の経験を自然に話せていたら、それはすでに親子の関係が清算されているサインです。



3 親を理想化していない
愛着の問題は、親が拒絶的な場合に起こると考えがちですが、過保護や過干渉の場合も起こります。過保護や過干渉とは、親は子供のことが心配だと言いながら、実際は、自分の理想を子供に押し付けているだけの場合が多いのです。

親は、子供が自分の思い通りになる場合だけに愛情を注ぐことをするため、そこには本来の愛着は築かれません。子供は、いくつになっても親と反対の意見を言えず、親子関係は支配的な上下関係になっていることがあります。

ところが、このような状況で育った子供の中には、「自分の親はすばらしい親だ」と親を理想化していることも多いのです。

しかし、人はいつまでも親に守られて生きていけないので、このような親子関係は永遠に続きません。挫折体験や、友人やパートナーからよい影響を受けることを通して、親の間違いに気づく時が必ず来ます。

その後、「親も同じ悩みや弱さをもつ人間だ」と感じられるようになれたら良いでしょう。これも、愛着の問題を乗り越えたサインの1つです。



4 信頼できる人がいる
大人の愛着障害で大きな問題の1つは、人を心から信頼できないことです。親しくしてくれる人がいると、「いつ裏切られるのだろう」と疑いをもって見てしまいます。

親しくなればなるほど、疑いの思いは大きくなるという矛盾の中にいます。本当に信頼してもよいのか、わざと嫌われるようなことをして、相手を試すこともあります。

しかし、例え1人でも信頼できる人ができたならば、または、いっしょにいて安心できるような人ができたならば、愛着の問題を乗り越えて来たということです。

家族でも、友人でも、カウンセラーでも、世の中に1人でも良いので、疑うことなく何でも話せる人がいるならば、辛かった過去を乗り越えたサインなのです。