親に愛されなかった人の7つの生きづらさ

子供の頃に親から愛されることは、その後の人生を左右するとても大切なことです。子供と母親は、生まれるまでへその緒でつながれていますが、産まれた後も、愛情という絆でつながれています。

親子の絆を心理学では愛着と呼び、見えないへその緒のようなものです。へその緒は子供に栄養を与えてくれて、愛着は安心感を与えてくれます。これは心の成長のためにとても大切なことです。


愛着の大切さは、1990年代のルーマニア孤児たちの調査で証明されています。1960年から80年代にかけてのルーマニアは、共産主義のチャウシェスクという独裁者に支配されていました。チャウシェスクは、国を繁栄させるために、子供をたくさん産むことを国民に義務づけました。

ところが、貧困のために、親たちは子供を産んでも育てることができず、たくさんの子供たちが孤児院に送られることになったのです。孤児たちは、物のように扱われ、虐待やネグレクトが当たり前のように行われました。

1989年に共産党政権が崩壊して、ルーマニア孤児たちの悲惨な状況が世界に知られるようになります。世界中から支援の手が届き、たくさんの孤児たちが海外の里親に引き取られました。

しかし、孤児たちは愛着の問題を抱えていたため、里親のもとでの新しい生活に馴染むことができませんでした。大人になった現在でも心の問題を抱えている人もいます。子供の頃に親から愛されなかったことが、どれだけ悲しい結果を生んでしまうかが証明されたのです。


それでは、子供の頃に愛着をもてなかった人は、どのような心の問題を抱えてしまうのでしょうか?今回は、親に愛されなかった人の7つの生きづらさについて説明しましょう。





1 生きることに不安

愛着は、親とつながっている安心感とも言えます。何か辛いことがあっても、親とのつながりがあるので、そこに逃げ帰ることができます。知らない町に行っても、スマホを持っていれば、誰かにつながっているので安心です。これと同じで、子供は愛着という見えないつながりがあれば、新しいことに安心してチャレンジすることができます。

ところが愛着がなければ、いつも不安です。スマホをもたずに、外国をさまよっているような感じです。何をするにも手探りで怯えています。このような子供時代を送れば、大人になっても、いつも不安がついて回る人生になります。



2 自己肯定感が低い

何事も不安ですから、「生きる価値がある」「生きていていいんだ」という実感が育ちません。大人になっても自己肯定感が低く、何をするにも自信をもてません。「どうせダメになる」「どうせ嫌われる」という思いが心に染みついています。大人になってから何か成功する体験をしたり、高いスキルを身に着けても、本当の自信につながりません。

例えば、世界的に有名なアーチストが、酒や麻薬に溺れたり、事件を起こしたりと破壊的な人生を送ることがあります。世界中を驚かせるようなパフォーマンスをしても、自己肯定感が低いのです。子供の頃に愛着を経験できなかったためにそうなってしまうのです。




3 人を信じられない

愛着とは、信頼関係と言いかえることができます。親子の信頼関係を経験していなければ、他人を信じることができません。「いつかこの人は裏切るに違いない」という考えがついて回ります。付き合いの基本は、相手を信じるところから始まりますから、それができないために人間関係で悩むことになります。





4 人を敵か味方かに分ける

心にゆとりをもてなかったために、物事の考え方も柔軟性がありません。何事も白黒つけようとして、「適当に」ができません。心の健康な人は、嫌いな人が相手でもうまく距離をとりながら、適当に付き合うことができますが、それができません。

人を敵味方で分けようとして、少しでも否定されると敵と判断します。敵と感じたら心を閉ざしてしまい、適当に付き合うことができません。



5 人間関係の距離感が分からない

見捨てられるのが不安で、ずっと相手の世話をやいて離れようとしない人、人と関わることが恐怖なために、常に一人でいる人など、極端な人間関係をとります。

また、見捨てられないように相手にしがみつき、ちょっとした相手の言動で恐怖を感じて心を閉ざしてしまう、というような両極端の行動を繰り返す人もいます。



6 体が弱い

愛着をもてなかった人は、自律神経系や免疫系などの発達に問題が起きることがあります。大人になっても、環境の変化ですぐに体調を崩したり、ストレスや病気などへの抵抗力が弱いことがあります。いわゆる、体が弱いと言われる人です。



7 心の病気になりやすい

生きていく自信をもてず、人間関係でいつも心をすり減らしているため、うつ病などの心の病気になりやすい傾向があります。うつ病の治療を始めても、薬が効きにくかったり、回復が遅かったりします。根っ子に愛着の問題による生きづらさが横たわっているため、治療がこじれてしまうことがあるのです。




へその緒は、産まれるとなくなってしまいます。体の成長が足りないからと言っても、もう一度へその緒から栄養をもらうことはできません。しかし、心のへその緒である愛着は、いくつになってもつくり直すことが可能です。なぜなら、愛着をつくる相手は産みの親とは限らないからです。

パートナー、親戚、友人、子供、ペットと、つながりをもてる相手がいれば、いくつになっても愛着ができます。宗教における神仏とのつながりや、瞑想で感じるような自然のパワーとのつながりも愛着の1つです。そこに絆ができて、安心を感じることができれば、心は癒されて育まれます。安心できる場所には見えない愛情が注がれているのです。このような体験が深まれば、親に愛されなかった生きづらさは少しずつ解消できるようになるでしょう。

また、うつ病などの心の病気になった時、回復が遅くなると説明しましたが、療養生活でゆっくり安心できる時間を過ごしたり、医療スタッフとよい関係が築けると、長年抱えていた愛着の問題が解決するケースもあります。