心が苦しいと身体が痛くなる?心因性の痛みとは

頭痛、腹痛、腰痛など、体の痛みを感じた時はまず整形外科や内科を受診します。ところが、検査でも異常が見つからず、きちんとした病名もつかないまま、痛み止めだけ処方されたという経験はありませんか?これで良くなれば問題ないのですが、中にはいつまでも痛みがとれず、別の医師を訪ねる人もいます。

改めて検査をしても、異常が認められません。それだけでなく、「心の問題なので精神科へ行ってください」と医師から告げられてしまう場合があります。「実際に痛いのに、何で心の問題なのだろう?」と腑に落ちません。

病気の原因が心の問題であることを心因性と呼びます。痛みの訴えで整形外科や内科を受診する人の10~20%は心因性である、という調査結果があります。

「病は気から」という言葉があるように、実際に感じる痛みも気のせいなのでしょうか。気の持ちようで痛みは消えるのでしょうか。


今回は、心因性の痛みについて、その原因と対応の仕方について説明します。





1 心因性で現れる痛みの種類

原因が分からない痛みは、体のいたるところに起こる可能性があります。例をあげると、頭痛、顔面痛、頸部痛(けいぶつう)、肩や肩関節痛、腹痛、腰痛、陰部痛などがあります。検査で異常が見つからず、痛み止めがほとんど効かない場合、心因性と診断されます。

特に、痛みが慢性化した場合を慢性疼痛(まんせいとうつう)と呼びます。原因不明の痛みで代表的な病気は、線維筋痛症と慢性疲労症候群です。線維筋痛症では、関節以外の筋肉などに痛みとこわばりが現れます。痛みは首・肩に多いのですが、手足腰にも起こり、痛みのツボのような圧痛点があることが特徴です。
慢性疲労症候群は、新型コロナやインフルエンザなどのウイルスの病気にかかった後に疲労感がとれなくなる病気です。

どちらも慢性的な痛みにより日常生活ができなくなります。それだけでなく、疲労感、不眠症、うつ気分といった症状もみられます。しかし、未だに原因は解明されていません。うつ病との区別も難しく、心因も関わっている可能性があると考えられています。


2 不快な感情が痛みとして現れる

心の中の葛藤が、痛みなどといった体の症状として現れることもあります。これは「身体化」と呼ばれています。原因不明の痛みを訴える人の中には、何らかの絶望感や喪失感を抱えている場合もあるのです。

しかし、不快な感情を気付かぬうちに心の奥底に押し込んでしまうため、体の痛みとして現れるのだろうという考えです。

例えば、「学校でいじめられていると、学校へ行こうとするとお腹が痛くなる」、「嫌な上司の会議がある日は、頭が痛くなる」というのは身体化であると考えられます。





3 心の中の葛藤が体に出やすい体質

喘息やアトピー性皮膚炎はアレルギーの病気です。しかし、症状が心の影響を受けやすいことが知られており、これを心身症と呼びます。そして、心身症の研究を通して、心の状態が体に現れやすい体質の人がいることが分かりました。失感情症(アレキシサイミア)です。

失感情症とは、ストレスを感じても自覚できず、痛みなどの不調になりやすい病気です。感じたことを言葉で十分に表現することができず、まるで感情を失っているように見えることからこの名前が付けられました。

失感情症は、脳の構造に原因があると言われています。具体的には、ストレスの刺激を前頭葉に伝える神経で、何らかの障害が起こっていると考えられるのです。

前頭葉は思考を司る部分です。その前頭葉に刺激が伝わらないため、ストレスを分析して言葉で理解することが難しくなります。その結果、心の葛藤が身体化しやすく、体の痛みとして現れやすくなるということがあります。

失感情症は生まれつき持っている要素も大きく、発達障害の人に多く見られます。また、家庭での虐待や学校でのいじめにより、我慢が強いられていた場合など、子供の頃から自分の気持ちを押し殺す生活を続けていることがきっかけとなることもあります。



4 うつ病で痛みが出る

心因性の痛みをもつ人を調査したところ、80%以上の人がうつ病や不安症といった精神疾患を患っていることが分かりました。

うつ病や不安症になると、痛みを感じる脳の偏桃体という部分が敏感になり、痛みが増幅されて感じられます。また、痛みを抑える前頭葉の神経の効果も弱くなります。

うつ病や不安症になると、脳が痛みに敏感に反応するようになり、本来の痛みの10倍、100倍も強く感じることがあるのです。

これらのことから、心因性の痛みは、背後にうつ病や不安症が隠れている場合も多いことが考えられます。特に失感情症がある場合は、うつ病の心の症状が出にくく、体の症状ばかりが目立つということもあるのです。

うつ病や不安症を理由に痛みが出ているものの痛み止めがあまり効かないという場合、抗うつ薬で効果が出ることがあります。なぜなら、抗うつ薬は脳のセロトニン分泌を増やすことを通して、扁桃体の敏感さを抑えたり、痛みを抑える前頭葉の神経を元気にしてくれるため、痛みを感じにくくなるためです。


心因性の痛みは、単に心の問題だけでなく、脳神経の問題、失感情症という体質の問題など、たくさんの要素が加わっています。

そのため、痛みで辛い思いをしている人に対して、検査で異常がないからと言っても、「気の持ちようだよ」というのは間違っています。心と体の両方から治療が必要なのです。例えば、整形外科での理学療法、麻酔科でのブロック注射、精神科での薬物治療や認知行動療法などを組み合わせて治療を行っていくことが求められるでしょう。

痛みには、無理をしないでゆっくり休んで欲しいと言う心と体からのメッセージが含まれています。また、心の奥底には絶望感や喪失感があるのかも知れません。痛みとは、心が癒しを求めるサインでもあるのです。