いつも両親が喧嘩をする環境に育った人に現れる影響

人気韓流ドラマの「夫婦の世界」は、夫婦間の激しいバトルが描かれた作品でした。争ってばかりいる夫婦の間に挟まれた子供が、徐々に心を病んでいく姿も描かれています。

親のけんかばかりを見て育てば、子供の心が病むのは当然です。成績は下がり、情緒も不安定になり、不登校や非行などの問題が起こりやすくなるでしょう。大人になっても尾を引いてしまい、社会に出てから生きづらさを感じている人もいます。


しかし、世の中にけんかをしたことのない夫婦はいません。どんなに仲の良い夫婦であっても、意見の違いが出るのは当然です。ですから、すべての夫婦げんかが、子供の心に悪い影響を与えるわけではありません。アンケート調査によると、頻繁に夫婦げんかを目撃した子供の80%は、自分が大人になったら子供の前では夫婦げんかはしないと言っています。親が反面教師になってくれるのです。


それでは、子供の心に悪い影響を与える夫婦げんかとは、どのようなものでしょうか?それは、殴るけるの暴力、大声で相手を罵倒する、無視する、家出をする、奴隷のように服従させる、といった内容が含まれるものです。親の暴力や罵声が、自分に向けられたように感じてしまうことが原因です。また、けんかをしていた期間や、けんかの後に子供の心をフォローできたかどうかも影響があります。


親のけんかを目撃してきたことが、心のトラウマとなり、大人になっても残るケースもあります。これを複雑性PTSDと呼んでいます。子供の頃の辛かった経験が、大人になってからの自分の評価や人間関係に悪い影響を与えてしまうのです。今回は、親のけんかがトラウマとなっている人が、大人になってからどのような生きづらさを経験するのかを5つ紹介しましょう。





1 人生に悲観的

家庭の一番大切な役割は団らんです。ところが、夫婦がいつも怒鳴りあっている、無視しあっている家庭には、安らぎはありません。いつも緊張感があり、居心地の悪い家庭です。そこでは、良い親子関係も築けませんから、子供の心も育まれません。

また、子供には、親がなぜけんかをするかが理解できないので、原因が自分にあると感じる場合があります。自分がいるから争いごとが絶えないと勘違いして、自分を責めてしまうのです。

このような家庭状況で育つと、子供の心の中に、「自分は生きる価値がある」、「生きていて良い存在である」という自己肯定感が育ちません。大人になっても、「生きている意味が分からない」、「自分は必要のない人間である」といった思いに苦しむようになります。自分の人生に希望を見出すことができないのです。



2 感情のコントロールが苦手

長い期間にわたり、親の暴力や罵声を目撃した子供は、実際に虐待を受けた子供と同じようなダメージがあると言われています。調査によると、脳の発達にも影響を与え、認知機能全般が低下することが分かってきました。大人になってからの社会生活で特に問題となることは、感情のコントロールがうまくできなくなるケースです。親と同じように、自分の思い通りにならない状況で、感情を爆発させてしまうことがあります。





3 人と信頼関係を築けない

親子関係は、大人になってからの対人関係の取り方に大きな影響を与えます。親がけんかばかりしていると、親子の情的なつながりが築けません。そのために、大人になっても対人関係の距離感が分からなく、人とうまく話せなかったり、人と衝突することが多くなります。

また、子供は親の対人関係のパターンを見て学びます。親が、自分の意見が通らないと怒る、無視する、という対人関係のパターンをとっていると、それを無意識のうちに学んでいる子供もいます。気に入らなければ、相手を攻撃する、無視するという手段を使うようになるのです。コミュニケーションは、感情を抑えながら、言葉を介してやりとりするのが基本です。それができないために、人との信頼関係を築きにくくなります。



4 結婚生活に不安

先ほども言いましたが、ほとんどの子供は、けんかばかりする親の姿を反面教師として学びます。育った家庭に安らぎがなかったので、自分は平和な家庭を作ろうと必死に努力するようになるのです。

中には、いつまでも結婚というものに希望を持てない人もいます。自分が結婚しても、親と同じことになるのではないかと、家庭を持つことが不安になります。結婚することで幸せになるというイメージが湧きません。



5 心の病気になりやすい

親のけんかばかりを見ていると、子供の情緒は不安定になり、医師に診察してもらったところ、注意欠如多動症と診断されることもあります。思春期になると、さみしさを埋めるために、過食嘔吐などの摂食障害、自傷行為、さまざまな依存症が起こりやすくなるでしょう。こうした思春期に発病した精神疾患は、大人になっても尾を引きます。
 
また、社会に出てから、人間関係を中心に生きづらさを感じることから、うつ病を発症する人もいます。


人にはそれぞれの個性がありますから、考え方もそれぞれに異なります。どんなに仲が良い関係でも、意見が異なることが起きるのは当然です。そんな時、理性を働かせて一生懸命に話し合い、お互いに納得して一致するところに発展があります。全く反対のように聞こえる他人の意見でも、よく話し合って行くと、自分の考えをレベルアップさせてくれる内容であったりします。ですから、意見の違いでもめることは悪いことではありません。  

これに反して、子供の心に悪い影響を与える夫婦げんかとは、相手の意見に一切耳を傾けず、腕力や言葉の暴力を使って、強制的に意見を受け入れさせようとする行為です。感情を爆発させ、腕力や暴言を武器に相手を傷つける戦争のようなものです。そうではなく、相手を理解しながら、同時に言葉やスキンシップで自分の気持ちを伝えることが、本来の対人関係のあるべき姿でしょう。

親のけんかで心を傷ついた人は、親の乱暴な対人関係の取り方を目撃して傷ついてきました。ですから、相手を思いやり、言葉を使ったコミュニケーションができる人との付き合いを通して癒されていきます。言葉や腕力を武器にするのでなく、言葉をつかって人を理解し、優しさを伝えられる人との交流が大切なのです。世の中には、このような対人関係をとることのできる人もたくさんいます。こうした人との出会いを大切にして、長く交流することに意識を向けてみましょう。

しかし、出会いは運ですから、なかなか良い出会いに巡り合えないこともあるでしょう。このような場合は、心理カウンセラーのもとを訪ねてみるのも良いかも知れません。

トラウマは、自分の努力でどうにかなるものではありません。親子関係で傷ついてきた心は、良い人間関係を通して癒されることが必要なのです。