辛い別れを経験したときに知っておきたい事

大切な人が亡くなった時は、さみしさや悲しみに襲われ、大変辛いものです。また、人だけでなく、犬や猫などの大切なペットとの別れも、同じくらいに辛いことです。最近では、災害や事故で、予期しない突然の別れを経験する人もいます。

しかし、亡くなった人やペットは戻ってきてくれません。長い間、気持ちのやり場もなく、さみしさや苦しみが続くことがあります。残された人は、辛い思いをどのように乗り越えたら良いのでしょうか?


今回は、辛い別れを経験した時に知っておきたいことを、5つにまとめてみました。





1 通常は2カ月くらいで自然に乗り越えられる

仲が良ければ良かっただけ、別れは辛くなります。辛いのは、お互いが深く結ばれていた証拠です。これは人としての自然な心の反応で、「死別反応」とか、「悲嘆反応」と呼ばれています。苦しい感情は、孤独感と喪失感が中心で、波がありますが、日を追うごとに徐々に弱くなって行きます。だいたい2カ月くらいで落ち着いてくるのが普通です。

大切な人が亡くなった直後は、理性で分かろうとしても、気持ちでは受け止められません。葬儀などを通して、少しずつ亡くなった現実を受け止めるようになります。最初は絶望から始まりますが、良い思い出をくれたことなど、肯定的な思いも入り混じるようになり、少しずつ心が整理されて行きます。

最終的に、亡くなった人を思い出す時には、さみしさよりも、懐かしさや感謝を感じるようになります。これは、亡くなった人との間に新しい関係が築き上げられたことであり、思い出の中で永遠の絆ができたのです。このような一連の気持ちの流れを、「喪の作業」と呼びます。



2 悲しみを1人で抱え込まない

葬儀などの儀式の場があると、親交のあった人たちが集まります。そこでは、亡くなった人を悼み、みんなで悲しみを共有します。このような習慣は、どこの民族にも宗教にも、古くからあります。単なる儀式として考えている人が多いのですが、悲しみをみんなで共有することは、実は、喪の作業のためにとても大切なことなのです。

悲しみを1人でため込むと、喪の作業が進まず、逃げ場を失った負の感情は、怒りや罪悪感となって、心や体を蝕むことがあります。これを「遅延性悲嘆」と呼んでいます。症状によっては、専門家による治療が必要になる場合もありますので、後で詳しく説明しましょう。

別れの悲しみは、1人でため込んではいけません。周りの人と死別の苦痛を共有することを通して、苦痛は軽くなっていきます。ですから、葬儀や法要は、単なる儀式ではなく、私たちの心のために、とても大切なイベントでもあるのです。



3 自分を責めるのは良くない

「酷いことを言ってしまった」、「もっと大切にしてあげていたら」など、後悔の気持ちが出てくるのも、自然な死別反応の一つです。ただし、遅延性悲嘆で説明したように、悲しみをため込み過ぎることで、自分を責める気持ちがつよくなることがあります。これは、喪の作業が進んでいないのかも知れません。

自分を責める気持ちには、自分でブレーキをかけた方が良いのです。悲しむことは大切ですが、自分を責めることは、亡くなった人も喜ばないでしょう。





4 死別反応とうつ病は違うもの

死別で悲しみがつよい場合、うつ病になったのかと感じる場合があります。死別は、うつ病と大変似ている状態ですが、あくまでも正常な心の反応であり、症状は波のように上がり下がりしながら、最終的に2カ月くらいで自然におさまります。また、仕事が手につかなくなるなど、日常生活に大きな支障を起こすことはありません。

ただし、人によっては、悲しみが大きく長く続いてしまい、仕事ができなくなったり、ひきこもりになったりと、生活に支障が出るような場合があります。これを「複雑死別」と呼びます。症状だけを見る限り、うつ病と区別がつきません。自然に良くならずに、カウンセリングや精神科での治療が必要になるケースもあるので、注意が必要です。



5 治療が必要な複雑死別

複雑死別には次の4つのタイプがあります。

1つめは、「慢性悲嘆(まんせいひたん)」と呼ばれるもので、悲しみがいつまでも続いてしまうことです。生きていた時よりも慕う気持ちがつよくなったり、「何で先に死んでしまったんだ」という怒りの思いが湧いてくることもあります。
亡くなった人と親密であったり、依存的な関係であった場合に起こりやすく、孤独なために、喪の作業が進まないことも原因になります。特に1年以上続く場合は、専門家のもとで治療する必要があるでしょう。


2つめは、「肥大化悲嘆(ひだいかひたん)」と呼ばれるもので、激しい悲しみ・不安・孤独感などに襲われることです。この場合は、日常生活に大きな支障が出るので、専門家の治療が必要でしょう。突然の予期しない別れによって起きることが多く、ひきこもりになることがあります。


3つめは、最初に紹介しましたが、「遅延性悲嘆(ちえんせいひたん)」と呼ばれるもので、悲しみを心の底に押し込めることで、喪の作業が進んでいない状態です。「辛いはずなのに、悲しみが湧いて来ない」と感じ、心の中で怒りや罪悪感が渦巻いてイライラしたり、倦怠感、頭痛、胃痛、下痢、腰痛などの体の症状が現れることもあります。


4つめは、「外傷性死別(がいしょうせいしべつ)」と呼ばれるもので、災害・事故・犯罪により、突然の別れを経験することです。激しい悲しみや不安が長く続き、慢性悲嘆と肥大化悲嘆が合わさった症状を持ちます。
さらに、亡くなった状況がトラウマとなるため、不安と恐怖に繰り返し襲われ、亡くなった人との良い思い出は遮断されてしまいます。喪の作業が進まないため、自然に良くなっていく道が開きません。これも、専門家による治療が必要な状態です。


大切な人やペットとの別れがあった時は、人それぞれの感じ方、乗り越え方があり、死別反応という一言では片づけられない世界があります。ただし、悲しむことは悪いことではないこと、むしろ、一人で抱え込まずに、辛い気持ちはできるだけ表に出して、それを人と共有することが大切であることを知っていただきたいと思います。

もし、永遠の魂があるのでしたら、亡くなった人に感謝の思いを送ってあげることが、最も良い供養です。別れの気持ちが整理できたら、祈りを通して、感謝の気持ちを送るようにしたら良いと思います。亡くなった人は、心の中で永遠に生き続けることができるでしょう。もしかすると、あなたが亡くなった時、大切な人やペットと、天国で再会できるかも知れません。