大人の愛着障害 3種類の人間関係

人間関係の悩みがない人は、世の中にいません。相手の好き嫌いもありますが、親密が好きな人、距離を置くのが好きな人と、人によって居心地のよい距離感が違うことも理由です。中には、「いつも人に依存している」、「人と決して交わろうとしない」という、極端な人間関係の人もいます。これでは、生きづらさを感じ、付き合う人もつらい思いをします。こうした極端な人間関係をとるのはなぜでしょうか?心理学では、子供の頃の親子関係が大きく影響していると説明しています。


親子の情的な絆を愛着と呼びます。愛着は大人になってからの心の土台になるもので、人間関係のとり方も愛着の影響を受けています。子供の頃に親から愛情を注がれていないと、愛着が育ちません。愛着の障害を引きずると、人間関係が不安定になります。これを大人の愛着障害と呼んでいます。


本来の人間関係は、相手を信頼・尊重し、必要に応じて助け助けられる関係です。親から愛され、良好な親子関係で育てば、このような人間関係をつくることができ、これを「安定型」の人間関係と呼びます。ところが、大人の愛着障害では、「いつも人に依存する」という近すぎる距離感や、それとは逆に、「人と決して交わらない」という遠すぎる距離感をとる傾向が出てきます。さらに、この両極端の距離感が、一人の相手に揺れ動くという人もいます。


今回は、大人の愛着障害の3種類の人間関係のとり方について説明しましょう。





1 人に依存する

親の情緒が不安定であると、子供を可愛がる時もあれば、大きな理由もなく突っぱねたりと、子供の扱いに情的な一貫性がありません。子供は、親から安心感を得られないために、人を心から信頼することを学べません。自分が愛される価値があるかどうかに不安を抱き、相手からの愛情や安心感をつよく求めるようになります。このような不安を「見捨てられ不安」と呼びます。


大人になってからも、パートナーや友人に見捨てられることを恐れ、常に束縛しようとします。姿が見えないと、仕事中にも電話をしたり、常につながりがあることを確認したがります。相手の愛情に確信をもてないので、わざと相手を困らせたり、愛情を試すような行動をすることもあるでしょう。これでは、付き合う人は疲れ果ててしまいます。


このような人間関係のとり方を「不安型」と呼びます。自分の寂しさを満たすことが、人間関係の目的となるために、相手に依存してしまうのです。



2 人と交わらない

親が子供を放任したり、常に冷たく接していると、子供は、「自分の願いは他人を通して叶えられない」と学ぶようになります。人に何かを求めても失望が待っているので、親しくすることが怖くなるのです。すると、常に感情を抑え込み、自己完結的な行動を取るようになるでしょう。


大人になっても、感情的に深い人間関係を築くことを避けます。人に頼ることが苦手で、全て自分で背負い込み、孤立します。しかし、本音は誰かと親しくしたいという矛盾した状態にいるのです。


パートナーから束縛されることを嫌い、常に一人で過ごそうとします。これは、親密なことが不快であり、自分のプライバシー空間に誰かが踏み込んでくることに不安を感じているためです。


また、心の内を明かさず、共感することが苦手なために、周りからはクールな人に見られます。恋愛関係や友達関係でも、表面的となり、情的に深く関わることができません。このような人間関係のとり方を「回避型」と呼びます。




3 依存と回避が共存する

子供の頃に親が突然いなくなったり、虐待やネグレクトなどの酷い仕打ちを受けた場合は、「不安型」と「回避型」の両方の傾向をもつことがあります。相手に対して、安心感を求めて親しくなろうとする気持ちと、近づきすぎて傷つけられるのを恐れるという矛盾した気持ちの間で苦しむようになるのです。


仲良くしていたのに、ちょっとした相手の言葉や態度で感情が爆発し、関係を壊してしまうといった激しい変動がみられます。パートナーになると、情緒の不安定さから相手を振り回してしまうこともあるでしょう。このような人間関係のとり方を、「恐れ・回避型」と呼びます。


見捨てられ不安から、自殺未遂や暴力事件を起こす場合は、「境界型パーソナリティ症」という病気の可能性もあります。


愛着の問題から、人間関係で悩んでいる人は沢山います。その根底には、自己肯定感が低く、自分に自信を持てないために、人が自分をどのように見ているかを過度に気にすることがあるのです。同時に、自分は愛される価値がないと感じてしまい、これが人との親密な関係を築くことへの恐怖につながります。この根本の問題を解決しない限りは、人間関係も改善されません。


では、愛着の問題はどのように克服すれば良いでしょうか?一番良い方法は、思いやりのある「安定型」の人と交流することで、愛着を学び直すことです。「不安型」の人に対して、感情が安定している「安定型」の人ならば、優しく要求を満たしてあげる関係を持つことができ、「人から裏切られる不安」が解消されていきます。また、「回避型」の人に対しては、適度な距離をとった関係を持つことができ、この関係が長く続けば、人と親密になることへの不安が解消されていくでしょう。


ところが、実際には、自分に似ている人からパートナーや友人を選ぶ傾向があります。人間関係のパターンも、似たもの同士がつきあう確率が高いのです。例えば、「不安型」同士で付き合ってしまうと、お互いが依存的になり、愛を確かめる行動をとってしまうため、不安傾向がよけい強くなる結果となります。「回避型」同士であると、なかなか互いを信頼することができず、疎遠になってしまいます。互いに心の傷を深める結果となり、さらに回避傾向がつよくなります。愛着の問題を抱えている人にとっては、友人やパートナー選びはとても大切なことです。


良い出会いがないからといっても、落胆することはありません。愛着の問題を、自分自身でケアをする方法もあります。例えば、カウンセリングに通って自己理解を深める、仕事や得意な分野で努力して成功体験をする、ペットや植物を愛してみる、といった方法もあります。映画やドラマを通して疑似的に学ぶこともできます。