自殺が多い国と少ない国
貧しい国の人に、自殺が多いわけではありません。
日本は長い間「自殺大国」と呼ばれてきました。近年は少しずつ改善しているとはいえ、依然として先進国の中では高い水準にあります。では、なぜ国によって自殺率に差があるのでしょうか?
今回は「自殺率が高い国と低い国の違い」についてお話しします。その背景を深く掘り下げることで、自殺の原因を知ることができ、予防にもつなげることができるでしょう。
日本は長い間「自殺大国」と呼ばれてきました。近年は少しずつ改善しているとはいえ、依然として先進国の中では高い水準にあります。では、なぜ国によって自殺率に差があるのでしょうか?
今回は「自殺率が高い国と低い国の違い」についてお話しします。その背景を深く掘り下げることで、自殺の原因を知ることができ、予防にもつなげることができるでしょう。
1. 自殺率が高い国と低い国
まずは、世界で自殺率が高い国と低い国の違いについてお話しします。WHOの統計によると、2023年の自殺率が最も高い国はリトアニアです。次いで、韓国、3番目がスリナム、そしてロシアと続きます。
データによっては韓国が1番自殺率の高い国としているデータもあります。自殺大国と呼ばれていた日本は49位で、先進国にしてはいまだに高い水準です。
一方で、自殺率が低い国としては、サウジアラビアやクウェートなどの中東諸国、ブラジルやコロンビアなどの南米諸国が挙げられます。
それでは、なぜ国によって自殺率に差がでてしまうのかを説明しましょう。
2. 自殺と経済の関係
一般的には「貧しい国ほど自殺率が高い」と考えられがちですが、実際はそれほど単純ではありません。
たとえばアフリカの最貧国の多くは、生活は厳しいにもかかわらず、自殺率は低めです。一方で、比較的豊かで経済的に安定している韓国や日本、そしていくつかの東欧諸国では、自殺率が高いという現象が見られます。
なぜ豊かな国であっても自殺が多いのでしょうか。その背景には格差や社会のプレッシャーが大きく関わっています。
豊かであることは物質的な満足を意味しますが、経済的に豊かであっても、人々が置かれる社会環境や精神的負荷によって、自殺リスクは十分に高まるのです。
特に韓国や日本では、教育や仕事の競争が非常に激しく、社会からの期待が常に個人にのしかかります。学校ではトップの成績を求められ、就職では良い会社や安定した職を目指すことが当然とされます。
働き始めれば、長時間労働や職場での人間関係のストレス、評価への不安などが重なり、精神的なプレッシャーは計り知れません。
また、こうした国では「失敗は許されない」という文化的背景があることも見逃せません。間違いや挫折が個人の価値や人生の失敗と直結して考えられやすく、過剰な責任感を抱える人が多くなります。その結果、経済的には恵まれていても、精神的には孤立しやすく、強いストレスを抱え込む状況が生まれるのです。
3. 宗教や文化の自殺への影響
その国の「宗教や文化」は自殺率に大きな影響を与えます。
例えば、イスラム教圏の国々は、自殺率が世界的に見て非常に低い傾向があります。これはイスラム教で自殺が厳しく禁じられていることが影響しています。「死は神から与えられたものであり、自ら命を絶つことは神への冒涜である」と考えられるため、宗教的な抑制が働きやすいのです。
一方で、日本や韓国には「恥の文化」があります。過ちや失敗をしたときに「生き恥をさらすよりは…」という考えが無意識に根付いており、これが歴史的に自殺率を高めてきた背景のひとつといわれています。
また、キリスト教カトリック文化が強い南米諸国も自殺率が低めです。宗教的な価値観と、家族や地域共同体のつながりが強いことが背景にあります。
4. 孤独は自殺率を高める
「社会的つながり」も自殺率に大きく影響します。南米や地中海沿岸の国々では、家族や親戚、友人との絆が非常に強く、困ったときに相談できる相手が多く存在します。こうした人間関係の支えがあることで、精神的な負担を軽減し、自殺リスクを下げる効果があると考えられています。
一方で、日本や韓国、東ヨーロッパの一部では、都市化や個人主義によって孤独を感じる人が増えています。「孤独は喫煙や肥満以上に健康に悪影響を与える」とする研究もあるほどで、社会的な孤立は自殺率に直結する重要な要素です。
都市化が進むと生活は便利になりますが、家族や地域とのつながりは希薄になりやすく、人々は孤独を感じやすくなります。孤独はうつ病や不安のリスクを高めるだけでなく、助けを求めにくくする要因にもなります。
物質的な豊かさや生活の便利さがあっても、心のつながりが欠けていると、自殺リスクが高まるのです。
このことからわかるのは、豊かさや経済的な安定だけで生きる力は十分ではなく、人と人との心のつながりが自殺率に大きな影響を与えるという点です。
5. アルコール消費量が多いと自殺率が高い
もう一つ見逃せないのが、アルコールの消費量との関係です。
東ヨーロッパやロシアで自殺率が高い背景には、過度な飲酒が深く関わっています。統計的にも、アルコール消費量と自殺率には深い関係が見られます。これは、アルコールはうつ症状を悪化させ、衝動的な行動を引き起こしやすいからです。
日本でも、特に男性の自殺にはアルコール問題が絡んでいるケースが多く報告されています。飲酒文化が強い社会では、自殺率が上がりやすい傾向にあるのです。
6. 精神医療にアクセスしやすいと自殺率は下がる
国によって、心の病気を治療するハードルの高さには大きな差があります。北欧諸国では精神医療へのアクセスが比較的整っており、うつ病や不安障害といった心の不調を早期に発見し、適切にケアできる体制が整っています。
そのため、問題が深刻化する前に治療や支援が受けられ、自殺率を低く抑えやすい傾向があります。さらに、北欧諸国では精神的な健康に対する理解が広く、医療やカウンセリングを受けることに対する心理的な抵抗が少ないことも、早期対応を後押ししています。
一方で、日本や韓国では、精神科や心療内科を受診することに対する偏見が依然として根強く残っています。
「精神科に行くのは恥ずかしい」「弱い人間だと思われる」といった社会的な見られ方を気にして、心の不調を抱えたまま我慢してしまう人が少なくありません。その結果、治療の開始が遅れ、症状が深刻化してからやっと受診するケースが多く見られます。
こうした背景は、自殺率の高さにも直結しています。早期に適切なケアを受けられないことで、うつ病や不安障害は慢性化し、精神的な負荷が蓄積されやすくなるのです。
また、支援を求めにくい文化的な要素や社会的な孤立も重なることで、心理的に追い詰められた状態が長く続き、結果として自殺に至るリスクが高まります。
自殺率を下げるためには、単に医療体制を整えるだけでなく、心の病気に対する社会的偏見を減らし、相談や治療を受けやすい環境を作ることが不可欠です。教育や啓発、職場でのメンタルヘルス対策といった取り組みも、早期ケアを促す重要な要素となります。
7. 国が対策をすると自殺率は下がる
殺対策に積極的に取り組む国は、確実に成果を上げています。たとえばフィンランドは、1990年代には世界で最も自殺率が高い国の一つとして知られていました。しかし国をあげて自殺予防プログラムを実施した結果、20年以上にわたり自殺率を大幅に減少させることに成功しています。
具体的には、まず精神医療の体制を充実させ、うつ病や不安障害などの早期発見と治療を徹底しています。次にアルコール依存や過剰摂取を抑えるための規制を強化し、社会全体でリスクを減らす仕組みを整えています。
また、社会的孤立を防ぐ政策も進められ、高齢者や一人暮らしの人、孤立しやすい人たちへの支援を手厚くしています。さらに学校教育の現場では、子どもたちが自分や他者の心の健康に関心を持ち、適切に対処できる力を身につけられるよう、メンタルヘルス教育を重視しています。
このように国の政策や社会全体の取り組みが変わることで、自殺率は確実に下げられるのです。個人の努力だけでなく、社会や行政が一体となって支える体制を整えることが、最も効果的な自殺対策につながると言えるでしょう。
以上、自殺率の高い国と低い国の違いについて見てみました。
自殺率の高さには国や地域ごとの経済状況、社会的プレッシャー、格差社会、文化や宗教、社会的つながり、アルコール問題、医療アクセスのしやすさといった複数の要因が絡み合っています。そして、国の政策や社会全体の取り組み次第で、自殺率は確実に下げることができるのです。
私たち一人ひとりができることは小さなことかもしれません。しかし、家族や友人との関わりを大切にしたり、心の不調を周囲に相談したりすることが、誰かの命を守るきっかけになるかもしれません。社会全体で支え合う仕組みを作り、互いに気を配ることが、自殺を防ぐ大きな力になるのです。
