2021.05.28

リストカット 家族や友人の方に知ってほしいこと

自分の周りにリストカットをされている人はいますか?
リストカットをしている人を救うには周りの人の支えが大変重要です。

支えとなるためにも、是非今回の文章を読んでいただけると幸いでございます。



リストカットのように自分を傷つける行為を自傷行為と呼びます。自傷行為には、髪の毛を抜いてしまう抜毛症(ばつもうしょう)、皮膚をひっかく、皮膚を焼く、頭やこぶしを壁に打ち付ける、などがあります。また間接的に自分を傷つける行為も自傷行為として考える場合もあります。
過食嘔吐、全身のタトゥーやピアスの穴開け、薬物乱用、相手を選ばない性的交渉などがあげられます。リストカットと平行して、これらの間接的に自分を傷つける行為をしていることがあります。
自傷行為を自殺ととらえる方も多いと思いますが、とても死にたい気持ちを伴うものの全く異なるものです。自殺は命を絶つ目的で行いますが、自傷行為は体を傷つけたい衝動にかられて行ってしまうのです。
むしろ、辛い人生を生きていくための気持ちの逃げ場のようなものです。癖のように無意識にやってしまうこともあります。

ただし、自殺と違うと言っても、リストカットで手首の深いところにある動脈を切ってしまう場合は死に至ることもあります。死ぬわけでないからと安心するのは禁物です。
動物にも自傷行為がみられます。閉じ込められたペットや養殖の動物が自分の手足や尻尾を咬んだり、毛をむしったりすることがあります。これは動物たちが命を絶つためにやっていることでなく、不快な空間に閉じ込められ、怒りや絶望などの負の感情のやり場がなく起きてしまう行動なのです。
これには脳の中のセロトニンという物質が関係しているという研究もあります。人間も同じです。自分で処理することのできない負の感情が蓄積していくと、衝動的に自分を傷つけてしまうことがあるのです。
リストカットの心理的な背景には次のようなことがあります。

1.家族や恋人から虐待を受けている。孤立している。
2.学校や職場でストレスが多い。過度の競争の中にいる。いじめやハラスメントを受けている。
3.失恋、家族の死などの喪失体験。
4.受験や就職の失敗などの挫折体験。
5.自傷行為を肯定するような映画やドラマを見ている。アンジェリーナ・ジョリーやレディー・ガガなどのハリウッドセレブが過去の自傷体験を語っており、こうしたメディアの影響を受けている。
リストカットをする人に、なぜそうするのかを質問すると、様々な答えが返ってきます。
「血をみると生きている実感がする」「傷の痛みで辛いことが忘れられる」などがあります。また、よく憶えていないとか、血が流れるのをテレビの画面を見るようにボーっと見ている、という人もいます。リストカットをする半分以上の人が痛みを感じていないという報告もあります。なぜリストカットをしてしまうか、本人にとっては説明がつかないことが多いのです。
リストカットをする人は、気持ちを言葉にすることが苦手です。何が辛くて、自分を傷つけてしまうのか、それを質問しても明確な回答が得られないことが多いのです。また思い込みがつよかったり、感情のコントロールが苦手な人もいて、辛い気持ちをうまく解消することが不得意であったりします。
中高校生のリストカットの場合は、成長することで、苦しい気持ちを客観的に捉えられるようになり、それを言葉で表現したり、他の安全な方法で解消できるようになることでリストカットは減っていきます。
それでは、家族や友人にリストカットをしている人がいる場合にどうしたらよいでしょうか?
まず、リストカットを無意識のSOSと考えるべきでしょう。ここで誤解してもらいたくないことは、リストカットは周囲にアピールするためにわざとやっているわけではないことです。気持ちの逃げ場として仕方なくやってしまうことですから、叱ったり、無理にやめさせようとすることは逆効果です。
また、「何が辛いの!」と感情的になって追及しても明確な答えが出てくるとは限りません。自分を客観的に見る力や自分に気持ちを言葉にする力が不足している場合が多いのです。暖かく見守りながら、苦しい原因を周りが推測して取り除いてあげることが必要です。
リストカットの治療には心理療法が向いているので、カウンセリングを受けるのがよいでしょう。カウンセリングでは家族関係を見直したり、苦しい気持ちを言葉で表現することを手伝ってくれたり、リストカット以外の気持ちの解消法を探すような治療を行ってくれるでしょう。
しかし、本人に治療に消極的なことが多く、家族だけがカウンセリングを受けるケースが多いようです。
死にたい気持ちが非常につよく他の自殺方法も試みるような重症の場合や、背後にうつ病、躁うつ病、統合失調症などの精神疾患があると思われる場合は精神科での薬物治療が必要となります。
また、形成外科ではリストカット痕を消してくれるレーザー治療や植皮手術を受けられます。
リストカットは自殺行為と違います。命を終わらせようとしているのでなく、むしろ生きていくために無意識にやってしまう行為です。何が辛いのか、そこを理解してあげることが大切です。