人生がうまく行かない理由

あなたの人生がうまく行かない理由は何でしょうか?


例えば、「病気がなかなか治らない」、「仕事がうまくいかない」、「お金に困っている」、「よいパートナーに出会えない」など、思い通りにならないことを通して、誰しも人生がうまく行かないと感じます。私たちは幸せを求めて生きていますが、うまく行かないことが多すぎて、「苦しみを乗り越えるだけの人生」と感じている人もいるはずです。


うまく行かない大きな理由の一つは、願いと結果が一致しないことです。私たちは、結果を何とかしようと苦しむのですが、実は願いを考え直すことを通して、結果に対する感じ方を変えることができます。


例えば、一流大学に入りたいと願って、なかなか成績が伸びないで苦しんでいるとします。それならば、どこの大学でも学ぶ内容は同じだと考え方を変えて、目標の大学のレベルを下げれば苦しみから解放されるはずです。このように、あなたの願い自体を考え直すことが、苦しみから解放される大きな手段の一つなのです。


そうは言っても、「絶対に東大に入る」と言って譲らない人もいるでしょう。学歴への執着が取れないのです。実際には一度抱いた願いを変えることは大変なことで、他の選択肢があることに自分ではなかなか気づけません。こうしたことから人生がうまく行かないことがあります。


今回は、あなたの心を修正できないことから、人生がうまく行かない理由について説明しましょう。心をほんの少し修正することから、人生がうまく回っていくかも知れません。



1 執着していることはありませんか?

人は親から言われ続けたことや、子供の頃に憧れたことを通して、「自分は○○であるべきだ」という自分の虚像をつくります。「人から好かれるべきだ」、「出世するべきだ」、「お金をたくさん儲けるべきだ」、「結婚してたくさん子供をつくるべきだ」、「親子は仲良くするべきだ」など、考えてみるとたくさんの「○○するべきだ」に支配されている私たちなのです。


そして、そうなれない自分に苦悩しています。幻の自分を追い求めて疲れ果てているのです。別に人から好かれなくても生きて行けるし、お金は生活できる分だけ稼げれば良いのです。


結婚せず、子供がいなくても幸せな人はたくさんいます。世の中には仲の悪い親子もたくさんいます。「○○べきだ」をなくしてしまうと、心はずいぶん楽になるのです。それは分かっていても、「○○するべきだ」を諦められないことを執着と呼びます。


執着を捨てられないことが、人生がうまく行かない大きな理由の一つなのです。




2 比べていませんか?

執着はなかなか自分で気づけません。それが当たり前と考えていることの中に執着があるのです。「友達が一流大学に行っているから、自分も一流大学へ行かなくてはならない」、「いとこが子供をたくさん産んでいるから、私も子供をつくらなくてはいけない」という感じで、執着が自分にとっての常識になっている場合があります。


執着の根っ子をたどっていくと、私たちのプライドや負けず嫌い、そこからくる嫉妬の気持ちが隠れています。プライドや負けず嫌いは、自分を不幸にすることもあるのです。





3 現実から目をそむけていませんか

何かの執着を抱えていると、自分に都合が良い情報しか視野に入らないため、客観的に物事を考えられません。現実に起きていることを冷静に見られなくなるのです。


例えば、先ほどの一流大学に入りたい人の場合、「自分の成績でも合格している人もいるようだ」という都合の良い情報に振り回され、自分の実力では受からないという現実から目を背けがちです。


うまく行っていない時ほど物事を冷静に見なくてはいけません。執着がフィルターとなって、物事を正しく見られなくなっているからです。



4 変えられないことを変えようとしていませんか?

起きてしまった結果や過去は変えることはできません。しかし、執着がつよいと、変えられない結果や過去までもどうにかならないかと悩んでしまいます。私たちが変えられるのは、現在と未来だけです。結果や過去をクヨクヨしてエネルギーを使うことは、人生がうまく行かない原因にもなります。



「夢があるから」、「みんながそうだから」、「誰でもやっているから」という理由で、それに合わせようと背伸びをして生きていることがあります。これが生きづらさの原因であることは大変多いことです。


とりあえず最低限、住む場所があって食べられているのだから良いと考えましょう。周りの目を気にせず、できないこと、やれないことがある時は、「もう無理」、「できない」で良いのです。


夢に向かって頑張ることよりも、執着を捨てて、自分にあった生き方をしてみることが人生をうまく回すコツかも知れません。


2016年に亡くなられたノートルダム清心女子大学名誉教授の渡辺和子シスターは、うつ病を経験したことのある人です。シスターは「置かれた場所で咲きなさい」と言いました。


欲張らず、無理をせず、自分に合った生き方をしたら良いという意味です。ちょっとした心の変化があなたの生きづらさを解消してくれるでしょう。


うつ病はいつ治りますか

いつになったら気分が晴れる日が来るのでしょうか?


本来うつ病はゆっくり休むことで半年から1年半で自然に良くなる病気です。ところがそれで終わりではなく、何かのきっかけで再発を繰り返します。


データによると、1度うつ病を経験した人は、その後の20年間に平均して5~6回の再発を繰り返すとも言われています。これは、最初のうつ病の経験で脳がダメージを受けており、症状が良くなっても潜在的な脳のもろさが残っているためです。


再発を繰り返していくと、そのうちうつ病が慢性化してしまい、気分の落ち込みが性格だか病気だか分からなくなってしまいます。これを「慢性うつ病」とか、最近では「持続性抑うつ症」と呼びます。


これを防いでくれるのが抗うつ薬です。薬を飲むと1カ月から3カ月程度で症状は良くなり、さらに続けて服薬をすることで再発の予防もしてくれます。


それではいつになったら薬をやめてうつ病から解放されるのでしょうか?今回は、うつ病に必要な治療期間について詳しく説明しましょう。





1 回復後も最低1年間の予防服薬が必要

原則として、症状がなくなった後も予防のために1年くらい服薬を続けて、問題がなければ薬をやめることはできます。これでうつ病とさよならをできれば良いのですが、再発は絶対にないとは言い切れません。生きている限り、ストレスを避けて生活することは不可能だからです。


お金の心配をせずに、自然の中で趣味だけやって悠々自適に生活できたら再発はないのでしょうが、そんなことができる人はいません。ですから、最初の治療がうまく行ったとしても、再発する人はいるのです。


そして、万が一再発した場合は、2度目の再発を防ぐために、さらに5年以上は薬を飲むことを考えましょう。



2 慢性うつ病の人は長い予防服薬が必要

「思い返したら、10年くらい前からうつ病だったかも知れない」と訴えて、精神科を受診する人もいます。仕事が続けられたので、気分が晴れないのは性格の問題と思い込んでしまい、まさかうつ病であると気づけなかったのです。ずっと休みをとることができずに、限界が来たのでようやく受診するという話はとても多いことです。


しかし、こういった場合は、すでに慢性化していることが多く、抗うつ薬の治療で良くなっても、やめてしまうとすぐに再発します。発病から何年も経って治療を受けたなら、患っていた期間と同じくらい薬を続けた方が良いでしょう。例えば、治療を始めるまでに10年かかったら、10年は薬を飲むといった感じです。


慢性うつ病の場合は、薬を飲んで日常生活を普通に送れたら、それで治ったと考えても良いと思います。主治医の指示に従えば、抗うつ薬などの精神科の薬を長く飲むことは危険なことではありません。血圧や糖尿病の薬をずっと飲み続けることと同じです。一生涯飲み続けていても問題はないので、慌てて薬を減らす必要はありません。





3 いくら薬を飲んでも十分に良くならない人

一言でうつ病と言っても、実際にはいくつかの種類があります。中には最初から治りにくいうつ病もあるのです。


例えば、「出産後に起こる女性のうつ病」、「幻覚や妄想などの精神病症状があるうつ病」、「パニック症を合併しているうつ病」などは、薬の治療でも十分良くならないことが知られています。このように治療の効果が十分でなく、働けないなどの障害が残ってしまう場合を「難治性うつ病」と呼びます。


さらに、「ADHDやASDなどの発達障害がある人」、「子供の頃に虐待やいじめを受けた経験がある人」も難治性うつ病になりやすい傾向があります。


難治性の場合は、薬の治療だけでなく、通電治療や磁気治療などが行われることもあります。しかし、生まれつきの要素が関わっていることも多いので、こうした治療にも反応しにくいのが難治性うつ病です。


色々手を尽くしてもなかなか良くならない場合は、焦って元の生活に戻そうと努力するよりも、病気があることを前提とした生活をするのが良いでしょう。障害手帳や障害年金などを利用することで経済的な負担を減らすことができます。お金の心配が少なくなるだけでも、うつ症状が軽くなることもあります。


短時間でも働けそうならば、「障害雇用」や「就労移行施設」を利用するのも良いかも知れません。最近は、在宅バイト、スキマバイトなどの短時間で負担の少ない仕事も選べますので、こうしたことを利用するのも賢い選択です。



4 もしかしたら双極Ⅱ型障害かも

どんな治療をしても十分な効果がないまま何年間もうつが続いて、ある日から突然元気になったという場合は、双極Ⅱ型障害が考えられます。残念ながら再びうつに戻ってしまう可能性があるので、気分安定薬による治療を続けることが必要です。


双極性Ⅱ型障害のうつは治りにくいのが特徴で、躁状態がほとんど目立たない場合もあります。難治性うつ病として10年以上治療をして、後から双極性障害と判明することもあります。



うつ病を卒業できる時期は、人それぞれです。病気そのものの問題だけでなく、家族関係、職場の事情、経済的な事情などの環境の問題も絡むので、必ずいつまでに治るとは言えません。支えてくれる人との出会いなど、巡り合わせの問題も絡むこともあります。スケジュール通りに回復しないのがうつ病なのです。


うつ病の治療は、高血圧や糖尿病と同じと考えましょう。薬を飲みながら背伸びをしない生活を続けることが必要です。うつ病だからといっても何もできない訳ではありません。障害雇用や就労移行施設を利用するなど、今できることから始めてみましょう。焦らないことが回復への一番の近道です。


見捨てられ不安がある人の特徴

LINEの返信がいつまでも来ないと、「何か悪いこと言ったかな」と気になってしまうことはありませんか?いつも相手の顔色ばかりをうかがって、ちょっとしたことで「嫌われたかも」と感じてしまうことを「見捨てられ不安」と呼びます。これが酷くなったのが「境界性パーソナリティー症」です。


「私は人から嫌われている」、「みんなから見放される」といった見捨てられ不安があって、生きづらさを感じている人がいます。見捨てられ不安は、お母さんが突然いなくなった時に子供が感じる不安と同じ種類です。子供の頃に、親や信頼していた人から見捨てられたり、裏切られたりしたことがトラウマとなって心に根深く残っているのが原因です。


いくつになっても見捨てられ不安につきまとわれ、あえて孤独な人生を選んだり、親しい人にしがみついたりして生きている人もいます。また、いつもつよい見捨てられ不安を抱えていて、親しくなった人にストーカーのようにつきまとわる場合は、「境界性パーソナリティー症」と呼ばれることがあります。


今回は見捨てられ不安がある人の特徴について解説していきましょう。





1. 相手の小さな変化に過敏

例えば、相手の口調がちょっとだけ冷たかったり、LINEの絵文字がいつもよりも少なかったりすると、「怒ってるの?」、「私が何か悪いことをした?」とすぐに不安になります。


恋愛中に好きな人の返事が遅かったり、いつもと違った返事だと不安になったりするのは普通のことかも知れませんが、我慢できないほど辛いならば、それは見捨てられ不安と考えたら良いかも知れません。


深夜でも連絡をとろうとしたり、職場まで訪ねて行ったり、脅迫に近い行動をとることもあります。
これは、心の中で常に「拒絶されるかもしれない」、「嫌われるかも知れない」という前提があるために、相手の些細な変化にも敏感に反応してしまうのです。



2. 自分の気持ちを後回しにしてしまう

見捨てられ不安がある人は、嫌われないように本音を言いません。「本当はこうしたい」と思っても、「こう言ったら嫌われるかな」という思いが先に来てしまうのです。それで何事も相手のペースに合わせようとします。しかし、優しさが動機で相手に合わせようとしているのでなく、自分が嫌われて見捨てられないようにしているだけなのです。



3. 一人の時間に耐えられない

一人で過ごす時間が苦手なため、いつも誰かといっしょに過ごそうとします。一人でいると、不安や孤独感が強くなるためです。見捨てられ不安のある人にとって、一人の時間は自由に好きなことができる時間と感じられず、人から見放された状態に感じてしまうのです。


そのために、常に人に会うスケジュールを入れたり、単に寂しさを埋めるための異性関係をもったりする場合があります。



4. 相手を試すような行動

例えば、「どうせ私のことなんて好きじゃないでしょ」と言ってみたり、ラインを既読無視してみたり、あえて冷たく接して反応を見たりと、相手を試す行動を起こします。これは本当に自分のことを好きでいてくれるかを確かめるために行う行動です。

そして、相手が期待通りに接してくれたら安心できますが、相手を不快にさせてしまうことで関係が悪化することの方が多いようです。結局嫌われて、大切な関係を自分から壊してしまい、あとから後悔する人も少なくありません。



5. 人に過度な期待や依存をしてしまう

見捨てられ不安のある人は、一人の相手に「全部満たしてもらおう」としてしまいます。「あなたがいないと生きていけない」といった思考になり、過度な依存をします。子供の頃に満たされなかった親の愛情を求めてしまうのです。


しかし、どれだけ大切な人であっても、親代わりになってすべての不安を埋めてくれることはできません。結果的に、相手も一緒にいることに疲れてしまい、関係が壊れてしまう結果になるでしょう。



6. 感情の起伏が激しい

見捨てられ不安が強い人の中には、感情の起伏が激しいこともあります。子供が親に見捨てられた時に泣きじゃくるように、「なんで分かってくれないの?」「私のことはどうでもいいの?」という想いが爆発します。爆発が激しく、相手を脅迫したり、暴力に至ったり、自分を傷つけたりするような場合は、精神科で「境界性パーソナリティー症」と診断されることがあります。


この感情の爆発は自分でコントロールできません。あとから後悔して自分を責め、うつになることがあります。さらに、感情のアップダウンに本人自身が疲れてしまい、自己肯定感まで失ってしまうという悪循環に陥ります。


以上、見捨てられ不安がつよい人の特徴について解説しました。

見捨てられ不安は、子供の頃に親が突然いなくなってしまったり、大切な人から裏切られたりしたことが原因です。「大切な人はいなくなってしまう」という思いが心に染みついてしまい、それが解消されていないのです。


解決するためには、安心できる人との交流を通して、不安が少しずつ解消されることが必要です。「大切な人はいなくならない」という人への信頼感が、自然に育まれることによって改善されるのです。


また、見捨てられ不安によるうつ気分や感情の爆発には、精神科の薬が効きます。長期に服薬する場合もありますが、生きづらさを改善させてくれるでしょう。


最も良くないことは、自分を不安にさせてしまう人と付き合うことです。ところが、見捨てられ不安を抱えている同士でパートナーになるケースはとても多く、互いに傷つけ合いながら関係を続け、暴力や事件に至ることもあります。心理学では「トラウマ・ボンド」と呼んでいますが、お互いの不安を悪化させる原因となるので避けるようにしましょう。


アメリカの調査によると、境界性パーソナリティー症と診断された人であっても、10年後に90%近い人が改善されていると報告されています。医療関係者との安定した交流が見捨てられ不安を解消させたのです。良い人間関係に巡り合えることが、見捨てられ不安が解消される一番の治療です。

ASDの思考

見たものを一瞬で覚えてしまう「カメラアイ」という能力をご存じですか?例えば、一瞬見ただけの本のページの内容を隅から隅まで全部覚えて、いつでも思い出すことができます。まるで目がカメラのようになって、そのままの情景が脳の中にいつまでも記憶されるのです。


「試験の時に便利でいいな」と考える人もいるかと思いますが、実際には、辛かったことや見たくなかったものまでそのまま記憶されて、いつまでもフラッシュバックして思い出されるのですから、決して喜べる能力ではありません。カメラアイを持つ人の頭の中はどのようになっているかはまだ完全に解明されていません。


カメラアイはASDの人に多く見られます。ASDとは、自閉スペクトラム症の略で、生まれながらにコミュニケーションの問題と、特定の物事や行為に強いこだわりがみられる障害です。別々の障害と考えられていたアスペルガー症候群と自閉症が、程度の差だけで同じ障害であることが分かったため、2013年からまとめてASDと呼ぶようになりました。


ASDというと、無表情で付き合いにくい人のイメージをもってしまいますが、カメラアイを始め、天才的な知能を持つ人など、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。では、ASDの本人は、実際にどのように感じたり、考えたりしているのでしょうか?


今回はASDの人の言葉を元に、その不思議な感じ方や思考方法について説明します。ASDの人の生きづらさを少しでも理解できるきっかけになることを願っています。





1 目からの情報で考える

ASDの人は、すべてがカメラアイを持っている訳ではありませんが、目からの情報をつかって物事を考える傾向があります。


人は論理的に考える時には言葉が必要です。ところが、ASDの人の思考には言葉が必要ありません。むしろ、思考と言葉がうまくつながっていないために、思考を言葉に変換するのに手間がかかってしまうくらいです。言葉を介さずに、目にした出来事を直接に理解するのです。途中に余計な言葉への変換が必要ないので、これがカメラアイにつながっているのかも知れません。


ASDの人は目からの情報に頼っており、耳から入った言葉は瞬時に理解することができません。耳からの情報を集めることができないので、会話においては、「聞いていない」、「言っても覚えてくれない」ということが起こります。中には、会話よりも筆談にした方がうまくコミュニケーションがとれる人もいます。



2 感情の後出し

例えば、嫌なことをされてもその場はモヤモヤするだけで何も反応できません。ところが、後から悲しくなったり、悔しさが湧いてきたりします。いじめにあっても、その場では意味が分からずに抵抗しないために、さらにいじめられてしまいます。しかし、後からフラッシュバックのように辛さを感じるのです。


同じように、人から親切にしてもらっても、その場は何事もなかったように過ごしてしまいます。後から感謝の気持ちが湧いてくるのですが、その場では何も言えなかったために、「失礼な人だ」と勘違いされます。






3 タイムスリップ現象

ASDの人は時間の感じ方が独特で、時間と感情・思考がうまくつながっていません。昔のことを思い出すのに、まるで今起きているように感じることがあり、心だけが過去にタイムスリップしたようになります。これを「タイムスリップ現象」と呼びます。


楽しかった過去の出来事を、今も再体験して楽しめるのは良いかも知れませんが、忘れたい過去やトラウマまでもフラッシュバックしてしまうので、これは大変苦しいことです。


過去だけでなく、「今が現実かどうか分からない」というフワフワした感覚を訴えることもあります。私たちは、時間を連続した一本の直線としてとらえますが、ASDの人にとっての時間とは、ハッキリとした一つ一つの点のようにして存在しているのです。



4 ロボットの操縦席体験

ASDの人は、心と体がうまくつながっていない感じを訴えることがあります。特に体調が悪い時には、体が心に連動してくれません。体の中に小さなコックピットがあって、そこに小さな自分がいて、一生懸命操縦しようと焦っていると表現する人もいます。まるでロボットの操縦をしているような感覚と言います。


自閉スペクトラムの「自閉」とは、自分の心の中に閉じこもっているという意味ですが、ASDの人の日常とは、体の中のコックピットに心があって、そこのモニター越しに現実とつながっているような感じなのです。特に気持ちが不安定であったり、体調が悪かったりする時に感じやすいと言います。


以上、ASDの人の感じ方と思考方法について説明しました。


ASDの人がもっているのは、「目で理解する」、「感情の後出し」、「タイムスリップ現象」、「ロボットの操縦席体験」の不思議な感覚です。これらは、心と現実がうまくつながっていない状態と考えたら良いでしょう。ガンダムのように、体の中のコックピットに心があって、コックピットの中からモニター越しに現実と向き合っていると考えると、イメージが湧きやすいかも知れません。


ASDの人は、コミュニケーションを取ることが苦手な人が多いことから、社会で生きづらさを感じている人もいます。しかし、世界一のお金持ちであるイーロンマスクや、フェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグなど大成功している人にはASDの人が多いのです。


IT、AI分野においてはASDの人のつよみが生かされていきます。今後も社会の進歩に従って、ASDの人がより活躍していく時代が続いていくでしょう。


統合失調症の知られていない6つのこと

統合失調症は、幻覚や妄想、思考の混乱が特徴の病気です。いまだに病気の正体は十分に解明されておらず、症状や経過は人それぞれであるので、一つの病気でなく、いくつかの病気の集合体ではないかと考えられています。そのため、「統合失調スペクトラム症」という呼び方をされることがあります。「スペクトラム」とは、「連続体」という意味です。


統合失調症は、思春期から20才代の若い人が発病する病気です。発病のために社会へ出るタイミングを失ってしまう人が多いため、早期発見・早期治療をすることが願われています。


初期の段階で病気に気づき、早めに治療を受ければ、それだけ早く回復することができますが、実際の調査によれば、統合失調症の人の半数は専門的な治療を受けていません。自分が病気であることに気づけず、自宅にひきこもっている人が大変多いのが現状です。


今回は、統合失調症とはどのような病気かを知っていただくために、統合失調症の知られていない6つのことについて解説していきます。特に、薬の治療とSSTというリハビリがとても大切であることを紹介したいと思います。





1 人間関係が苦手な人がなりやすい

統合失調症になりやすい人には特徴があります。子供の頃から物静かで優しい人なのですが、主張することが苦手で、何事も受け身的です。人と付き合うのが好きでなく、親しい友達がいません。野球やサッカーなどの団体スポーツを自分で楽しむことができず、アニメ・音楽・ゲームが大好きです。



こうした性格の傾向から、社会で追い詰められたり、孤独になったりすることが多く、そこから自分の心の世界に閉じこもってしまうことがあります。いつしか現実と心の世界に境界線がなくなってしまい、発病すると考えられています。



2 見えない声と会話する

統合失調症では幻聴が起こります。これは、何となく聞こえる空耳(そらみみ)のようなものでなく、現実の声と全く区別がつきません。内容はさまざまで、悪口が聞こえてきたり、噂話であったり、中には死んだはずのお母さんが優しく語りかけて来るという人もいます。


病気が進行すると、現実と心の中の世界に区別がつかなくなり、幻聴と会話をするようにもなります。幻聴と会話をする姿は、近くで見ていると独り言を言っているようです。統合失調症の人が一人でブツブツ話していたり、空に向かって怒っていたり、理由もなく笑ったりするのは、幻聴と会話をしている姿なのです。


また、幻聴がアドバイスをくれることや、命令をしてくることもあり、それに逆らえずに従ってしまうこともあります。重症になると、声に命令されて電車に飛び込んでしまったり、人を傷つけてしまったりと危険なことが起こることもあるのです。



3 薬がよく効く

覚醒剤を使用した人は、幻聴や妄想を起こして統合失調症と似た状態になることがあります。これは脳の中でドパミンという物質が過剰に分泌されることで起こる現象です。これに対して、抗精神病薬にはドパミンの分泌を抑える作用があるため、幻聴や妄想が治まります。この理屈から、統合失調症には抗精神病薬の治療が行われます。


抗精神病薬は統合失調症にとても効果があり、早めに治療を始めれば、服用を始めて1か月くらいしてくると、幻聴が聞こえなくなります。抗精神病薬は、統合失調症の人を心の中の世界から現実世界に引き戻してくれるものと言えるでしょう。ただし、治療の開始が遅ければ、それだけ回復にも時間がかかってしまいます。





4 人間関係を改善させるSSTが効果的

抗精神病薬が現実世界に引き戻してくれたとしても、再び追い詰められたり、孤独になったりと、現実に生きている世界が居心地の悪い場所であったら、また心の世界に戻りたくなるのは当然です。幻聴と会話をしていた頃の方が楽だったと感じます。だんだん薬を飲むことに意味を感じなくなり、ついには飲むのをやめて再発が起こってしまいます。


こうならないように、薬の治療と並行して行いたいのが、世の中をスムーズに生きていくテクニックを学ぶことです。統合失調症の人は、仲間をつくることが苦手で孤立したり、つよく言われると断れずに嫌な思いをしたり、辛い時に人に相談ができないといった生きづらさをもっています。そうならないような対人関係の取り方を学ぶため考えられたのが、社会技能訓練・SSTというリハビリです。



5 カウンセリングは向いていない

心理カウンセリングを受けると、統合失調症の人の具合が悪くなってしまうことがあります。カウンセリングを通して現実と向き合ったり、心の中を自分で分析したりすることで、症状を悪化させてしまうことがあるのです。カウンセリングを希望しても、「主治医から許可をもらってください」とカウンセラーから言われるのは、これが理由です。


もし、薬の治療だけでは十分でないならば、カウンセリングよりもSSTのようなリハビリを受けるのが良いでしょう。SSTは、病院や保健所のデイケアや地域の生活支援センターで行っているので、主治医に相談してみましょう。



6 怖い病気ではない

緊急入院が必要な重症の統合失調症は、数十年前から少なくなってきました。統合失調症全般に症状が軽くなっているのです。これは世界的な現象で、理由は良く分かっていません。もしかすると、インターネットやサブカルチャーの広がりで、現実世界にも心の逃げ場所が簡単に見つかるようになったのが理由かも知れません。


ところが、世の中には、統合失調症は幻聴に操られて重大な犯罪を犯す怖い病気という偏見が残っています。実際の統計調査によると、統合失調症の人による〇人事件はむしろ健常者に比べて少ないことが分かっています。統合失調症は薬やSSTで良くなる病気で、社会で活躍している人も沢山います。



以上、統合失調症の知られていない6つのことについて解説しました。


統合失調症は適切な治療を続ければ、社会で活躍できるようになる病気です。ただし、現実と向き合うことが苦手な人が多いために、再発率が高いのが現実です。再発を防ぐためにも自己判断で薬をやめないこと、リハビリでSSTを利用してみましょう。


今年はSST30周年記念大会が7月5日(土)、7月6日(日)に
帝京平成大学池袋キャンパスで開催されます。
もし、ご興味のある方は、
概要欄よりお申込みをお待ちしております。

心にポッカリ穴が空いているサイン

「心にポッカリ穴が空いている」と感じる人は、自分でも説明しにくい「虚しさ」や「満たされない感覚」を抱えていることがあります。「何をしていても楽しくない」「自分が何を求めているか分からない」など、今を楽しめないことだけでなく、将来にも希望を持つことができません。この感覚は一時的なものなら良いのですが、長期間にわたって続くことがあり、普段の生活で大変な生きづらさを感じます


そこで今回は、心にポッカリ穴が空いている人の特徴について解説していきます。





1. 何か後悔していることがある

あなたは何かに後悔していることはありませんか?もしかしたらその後悔している事柄があなたに満たされない感覚の原因かも知れません。好きだった人との関係が中途半端で終わってしまった、もっとあの時仕事を頑張っていれば良かった、青春をもっと大切にしていれば良かったなど、人によって様々です。後悔はあなたを自己否定の感情を引き起こします。その出来事が解決していないことから心にポッカリと穴が空いている感じがしてしまうのです。



2. うつ病

うつ病によっても満たされない感覚は起こります。何をしても楽しくない、何をしても満たされない、将来に希望を持てないという感情はうつ病による症状かも知れません。うつ病の症状が回復していくことによってこの満たされない感覚は回復していきます。



3. 人と比較してしまっている

SNSの普及により、人の成功が身近に見れるようになりました。どうして目の前の画面にいる人はキラキラして人生を楽しそうに謳歌しているのに自分は毎日を必死に生きるだけで精一杯の人生なんだと、成功者と比較することで、虚しさを感じる人は増えました。スマホを手放せない人は多くいます。そのため、もしかしたらスマホの中の人達があなたの現実になってしまっているのかも知れません。
自分の現状に満足していない





4. 孤独 人を信用していない

孤独は心の空白を生み出します。孤独になることで自分がこの世にいる意味が分からなくなってしまうという人は多いのです。また、過去のトラウマから人を信用しきれず、周りに人がいたとしても孤独感を感じる人もいるでしょう。孤独から感情が鈍化していき、感動することが少なくなってしまったり、人と話しても満たされない気持ちになってしまうのです。



5. 大きな喪失体験がある

大切な人を失った。大切なペットを失ったなど、大きな喪失体験があると、心にポッカリと穴が空いた状態が続きます。喪失体験は人やペットだけではありません。夢や自分のアイデンティを失うことも入ります。その苦しみは時に深く、出口の見えないトンネルにいるような感覚に陥ることがあるでしょう。



6. 幼少期の親の愛が足りていない

子供の頃に親から充分な愛情を愛情をもらえていないと、大人になってからも満たされない感覚に陥ります。常に誰かからの愛情を求めて、依存的になったり、周りに迷惑をかけてしまう行動を起こすでしょう。これを大人の愛着障害とかアダルトチルドレンと呼びます。



以上、心にぽっかり穴が空いているサインについて解説しました。


では、この満たされない感覚を取るにはどうしたら良いのでしょうか。まず、自分の満たされない感覚はどこから来ているのか考えることが大切です。そしてその満たさない感覚に対して、少しだけ向き合ってみてください。何かに後悔している人は、その後悔している出来事を上書きできるようなことをしてみてください。


例えば、恋愛で悩んでいるのであれば新しい出会いを探してみる。仕事で悩んでいるのであれば、スキルアップすることをしてみるなどです。ただ、無理は良くないので、少しずつ心の傷が開かない範囲で行ってみましょう。人と比較してしまう場合は、自分に悪い影響を及ぼす成功者などのSNSは見ないようにすると良いです。


孤独から満たされない感覚が来ている場合は、習いごとやイベントなど人と関わるようにしてみてください。


幼少期の親の愛が不足していることから起こる場合は、信頼できる人と接することで心の傷が癒されます。そのような人を探すのが難しい場合は、自分自身が癒されることをしてみてください。また、喪失体験はすぐに癒えるものではありません。ある程度の時間が必要です。無理に忘れようとするのではなく、その喪失体験を受け入れられるまで、無理をせずゆっくりと過ごすことが大切です。時間とともに他の小さな幸せを見つけることで、心が受け入れる体制になっていくかも知れません。

親を許せない人の特徴

何かの拍子に「親を許せない」という気持ちが湧いて来て、イライラする人がいます。思春期の子供ならよくあることかも知れませんが、実は中高年になってから感じている人も多いのです。当時の親と同じ年齢になって、子供の気持ちを理解しなかった親の姿がフラッシュバックのように蘇ってくると言います。


親子の情的な絆を心理学では「愛着」と呼びます。子供の頃の愛着関係がきちんとつくられることが、大人になってからの自己肯定感や対人関係につながります。それができないままに大人になってしまったら、親から愛されなかったことや理解してもらえなかったことは恨みになってしまい、いつまでも心に残ってしまいます。それが親を許せない気持ちとして蘇ってくるのです。


今回は、親を許せない気持ちが湧いて来る人の特徴を6つ紹介しましょう。





1 孤独

自分のことを本当に理解してもらったという体験がないために、辛い時の心のよりどころがありません。大人になっても心の真ん中にぽっかり穴があいていて、いつも寂しさや虚しさを感じています。何をやっても心から満たされた感覚をもてません。


パートナーや友達がいても表面的に仲良くしているだけで、親密な関係をつくることができず、いつまでも孤独感がとれない人もいます。孤独感がスイッチとなって、親を許せない気持ちがムラムラと湧いて来るのです。



2 自己肯定感が低い

親に褒めてもらったり、認めてもらったりした経験がないために、自分に自信がありません。どんなに立派な学歴や資格をとったとしても自信につながらないのです。


こうした人は、子供の頃に頑張って良い結果を出しても、親は決して褒めてくれず、「できて当たり前だ」、「親のお蔭だ」と言われてきました。その時の言葉は大人になっても頭から離れません。何かの拍子に思い出してしまい、親を許せない気持ちのスイッチが入ってしまうのです。



3 劣等感

自分に自信がないので、いつも他人からの評価を気にしています。自分で自分の価値を決められず、人と比べることで自分を評価してしまうのです。そのために劣等感を抱きやすい傾向があります。


人より劣っていたり、うまく行かないことがあったりすると、「親のせいでうまく行かない」という怒りが湧いてきます。





4 心の傷が癒えていない

「親を許せない」という気持ちが続いているということは、心の中でまだ解決されていない痛みや傷が残っていることを意味しているかもしれません。
これは例えば、親からの言葉や行動が、今も自分の中で「納得できないもの」として残っていたり、親に期待していたことが叶わず、喪失感や裏切られた気持ちがある。子どもの頃に抱えていた感情(怒り・悲しみ・孤独感など)が、いまも癒されずに影響しているといった、心の奥に残った感情が整理されていない状態です。



5. 親を許せない自分を許せない

父の日や母の日があるように、世の中では、親子が仲良く、子供が親に恩返しをするのが常識になっています。このような世の中の常識に照らし合わせて、いつまでも親を許せないでいることを情けなく感じることがあります。年をとっても恨みを抱えている自分自身を許せないのです。

しかし、恨みは自然に湧いて来るもので、自分ではどうしようもできません。「親を憎んではいけない」と、親への恨みを抑え込もうとすればするほどに、意識はそこに集中してしまいます。これを心理学では「精神交互作用」と呼んでいます。



6. 年をとっても変わらない親

大人になってから親を怒鳴りつけて、怒りをぶつける人もいますが、親は言い訳をしたり、黙り込んでしまったりと、期待した反応はありません。これがよけいに怒りを蓄積させてしまいます。

年をとって子供に間違いを指摘されたら、反省や謝罪をするのが人間としてあるべき姿です。ところが、親自身に発達障害、脳血管障害、認知症などの障害があると、子供から何を言われても心の問題は理解できません。子供の気持ちを永遠に理解できない親もいるのです。


こうした親を持っている人は、親と接する度に、許せない気持ちが倍増してしまうでしょう。



親を許せない気持ちは、抑え込んでもダメ、親にぶつけてもダメ、一体どう処理したら良いのでしょうか?


「親孝行」という言葉もありますが、これは親から受けた愛情への恩返しです。愛情を受けていないならば、返す恩もありません。親を許せない気持ちが湧いて来ても、バチはあたらないでしょう。


とりあえず親に自分のことを分かってもらえることは諦めて、親を許せない気持ちは放置しておきましょう。親が死んでから許せる人も多いので、いまは無理に解消させなくても良いのです。

そもそも「生みの親より、育ての親」と言われているように、親子には愛着という情的な繋がりが大切です。血の繋がりだけが親子ではありません。愛着関係をつくるのは実の親でなくても良いのです。親を許せない気持ちが強い人は、親の存在は無視して、親とは別の存在に心の拠り所を探しましょう。一番良いのは、あなたを大切にしてくれる人と良い関係を継続することです。良い出会いがないのならば、友達を大切にしたり、ペットを可愛がったり、推し活をしてみるのも良いでしょう。満足や安心を感じられる関係を続けてみることが大切なのです。

うつ病の思考

人は不思議なもので、同じ出来事を経験しても人によって違った捉え方をします。例えば、マンションの上の階から大きな足音が突然聞こえた時に、全く気にしない人もいれば、「うるさい迷惑だ」と腹を立てる人、「何か事件があったのかな?」と不安になる人、「私がうるさいから怒っているのかな?」と自分を責めて考える人など様々です。


これは人がそれぞれ異なる考え方のパターンを持っているからです。心理学では、考え方のパターンを「考え方の鋳型」とか、「スキーマ」と呼びます。クッキーの生地を丸い鋳型に入れて焼けば、丸いクッキーになり、星型の鋳型に入れて焼けば、星型のクッキーになるのと同じです。目や耳から入る情報は、脳の中の考え方の鋳型に入れられ、その人の情報として加工されて結論が導きだされます。人はそれぞれに違う考え方のパターンをもっているので、同じ情報を手に入れても違った結論を導きだすのです。


先ほどの足音の話に戻ると、ネガティブな考え方のパターンを持っている人は怒りを感じたり、不安になったりしますが、ポジティブな考え方のパターンを持っている人は気にしないといった感じです。人によって、ネガティブやポジティブだけでなく、物事を素直に考えるパターン、深く原因を追究しようとするパターンなど、その人の特徴的な考え方のパターンがあるので、同じ経験でも人によって別の結論が出てしまうのです。


アメリカの精神科医アーロン・ベックは、うつ病の人には3つの特徴的な考え方のパターンがあることを発見しました。特にうつ病を若い時に発症した人、慢性化している人の場合は、うつ病を発症する前からこのパターンがあることが分かっています。


今回は、うつ病の人の特徴的な3つの思考パターンを紹介しましょう。これに気づくことで、うつ病の生きづらさを減らすヒントになるかも知れません。

1 「自分は必要のない存在」

人の考え方のパターンは、子供の頃に経験してきたことの影響が大きいと考えられています。人生がずっとうまく行ってきた人は、何をやっても失敗しなかったので、物事を深く心配しません。常に気楽でポジティブな考え方のパターンが身に付きます。ところが、挫折が多かった人、失敗ばかりしてきた人は、用心深くなり、新しいことにチャレンジしようとしても、最初にうまく行かなくなることを考えます。常に慎重でネガティブな考え方のパターンを持つようになるのです。


子供の頃に人から大切にされた経験が少ない人は、「自分は必要のない人間だ」というネガティブな考え方のパターンが身についてしまいます。何か困ったことが起こった時に、「何とかしよう」という気持ちが起こらずに、必ず「私のせいでうまく行かない」、「私は迷惑な存在」と考えてしまい、気持ちが萎えてしまいます。これが重なることでうつ病を発病することになるでしょう。


このように、若い頃にうつ病を発症したり、慢性化したりする人には、「自分は必要のない存在」という考え方のパターンが染みついている場合が多いのです。



2 「世の中に味方はいない」

いじめを経験したり、信頼していた人から裏切られたりした経験があると、「世の中に味方はいない」、「人を信じてはいけない」という考え方のパターンが身についてしまいます。詐欺にあった後に、一時的に人を信じられなくなることがありますが、それが長く考え方のパターンとして残ってしまうのです。


周りを敵視することは、危険から身を守るために必要でもあるのですが、人間関係は広がりません。人と親しくなりそうでも、「いつか裏切るに違いない」と猜疑心をもって付き合うことになるので、自分から距離を縮めることができません。孤独になることも多く、そこからうつ病に発展することがあるでしょう。





3 「何をやってもうまく行かない」

子供の頃から失敗や挫折ばかりを経験していると、うまく行かないことが当たり前と考えるようになります。「何をやってもうまく行かない」という考え方のパターンが出来上がってしまうのです。例え良い出来事があっても、「どうせダメになるにちがいない」と心から喜ぶことができません。


未来のことはすべてネガティブに予測するので、新しいことに向かっていく気力が湧きません。その上、環境が変わる度に「悪いことが起こるに違いない」と心を消耗してしまい、うつ病になってしまうのです。



スマホやパソコンのやり過ぎで首の骨が変形してしまうことを「スマホっ首」と呼んでいます。ずっと前かがみの姿勢でいることから首の骨が逆の方向に曲がってしまい、首の痛みや肩こりを起こします。スマホっ首を治すには、マッサージを受けるのも大切ですが、自分でも姿勢を意識して生活することが大切です。


うつ病も同じで、若い頃からの辛い経験が考え方を歪ませてしまい、「自分は必要のない存在」、「世の中に味方はいない」、「何をやってもうまくいかない」という3つの考え方が癖になってしまい、これが原因でうつ病になってしまう人も多いのです。スマホっ首を治すためには、染みついた前かがみの姿勢を治さなくてはならないように、うつ病の人は、この3つの考え方が浮かんだ時には、「悪い考え方の癖が出た」と気づくようにしましょう。


世の中のあらゆる存在は自然の法則で繋がりあっているので、どんな人でも必要があって生まれてきています。決して「自分は必要のない存在」ではありません。広い世界にはあなたを必要としている人が必ずいるはずです。


また、世の中には自己中心な悪い人はたくさんいますが、思いやりのある優しい人もいます。これまでに良い出会いがなかっただけで、「世の中に味方はいない」ということはありません。これから良い人と巡り合えたならば、その出会いを大切にしましょう。


そして、人生でうまく行ったことが全くないという人であっても、深く思い出せば人から褒められたり、喜んでもらったりした経験はゼロではないはずです。こうした体験を思い返し、人に喜んでもらえる努力を少しずつ重ねていけば、必ず何らかの結果を残すことでしょう。


時間はかかりますが、こうした積み重ねをすることを通して、悪い考え方のパターンは修正されていくはずです。

心の傷-トラウマとは

みなさんは、ずっと昔に経験した辛かった出来事の夢を見ることはありませんか?何年も、何十年も前の出来事なのに、夢の中ではまるで今起きているようです。


目覚めてしばらくは現実との区別がつかなくて混乱し、意識がハッキリしてくるとようやく夢であったことを認識できます。ところが、不快な気持ちは1日中消えません。まるで寝ている間に過去にタイムスリップしてきたような感覚です。


これはあなたの心に残っているトラウマです。過去の辛かった出来事が心の傷となって、それが完全に癒されていない証拠と言えるでしょう。大ケガをして、見た目で傷はふさがっていても、何かの度にズキズキ痛むのと同じで、過去の出来事が何度も蘇ってくるのです。心理学ではこれを「再体験」と呼びます。


トラウマになる出来事は、災害、事故、事件、性的被害が代表的です。それだけでなく、いじめ、親からの虐待や厳しい教育、大切な人との別れ、信頼していた人から裏切られる、厳しい試験勉強などもトラウマになる可能性があります。


トラウマの原因は人それぞれで、他人にとっては「そんなことで苦しんでいるの?」と思われる出来事でも、その人にはトラウマになります。同じ災害の被害者でも、トラウマになる人とならない人がいるのと同じことです。


今回は、心の傷・トラウマについて解説しましょう。





1 フラッシュバック

トラウマは夢の中で再体験を繰り返すと言いましたが、再体験は夢の中だけではありません。例えば、いじめを受けたトラウマを持っている人は、テレビでいじめのシーンを見ただけで当時の辛い記憶が蘇ります。過去の出来事に関連する内容に触れるとスイッチが入り、心は過去にワープしてしまうのです。


再体験は、何かのきっかけでいつでも起こりうることです。これをフラッシュバックと呼びます。



2 時間がたってからトラウマに気づくこともある

例えば、交通事故の被害にあって、その場では取り乱すことなく過ごすことができても、数カ月してからトラウマとして再体験することもあります。


周りの人から、「あの時普通にしていたじゃない?」と言われても、事故の直後は警察に連絡したり、体のケガの確認で必死だったり、やるべきことに意識が行ってしまい、心の中で起きていることを冷静に感じることができなかったのです。また、動揺して感情が動かなくなっていたのかも知れません。ところが、心には大きなトラウマが残っていて、後から症状が現れることがあるのです。


このようにトラウマは後から気づかれることがありますが、数カ月どころか数年たってから蘇ることもあります。例えば、小学生の頃に受けたいじめの経験が、何かのきっかけで大人になってからフラッシュバックを繰り返すようになることもあります。



3 その場所や話題を避ける

酷い仕打ちをした人とは二度と関わりたくないのは当たり前ですが、それがトラウマになると、その人に関係する場所や話題すべてにアレルギーのようになってしまい、全く触れることができません。


無意識のうちにトラウマの出来事に関係することを避けて生きて行くようになります。これは、心が自分を守るために、過去を連想させるような出来事を避けるようになっているのです。




4 また起きるのではないかという緊張感がとれない

トラウマが深刻であると、また起こるのではないかという不安がとれず、1日中緊張感が取れません。食欲はなくなり、夜も熟睡することもできなくなります。常に気分がすぐれず、うつ状態となり、日常生活もふつうに送れません。


このような深刻な状態は、災害、犯罪、性的被害のように命の危険にさらされるような出来事によって起こりやすく、これをPTSDと呼びます。



5 トラウマが消えるのは人によって違う

トラウマがいつ良くなるかは、人によって違います。軽症の場合は2カ月くらいで改善されていきます。ただし、PTSDのような深刻なトラウマの場合、70%の人が何らかの形で一生残ってしまうとも言われています。症状は必ず徐々に減っていきますが、軽いフラッシュバックや夢で見ることがいつまでも続くことがあるのです。



以上、トラウマについて解説しました。


体の傷を治すためには、傷の部分を保護して守り、自然にふさがるのを待つことです。トラウマも同じで、安心できる生活を送りながら、癒されるような体験を重ねることで自然に消えて行きます。


関西の方では、「日にち薬(ひにちぐすり)」という言葉があります。「どんな悲しみや苦しみでも、月日を経ることによって、それを乗り越える力を時間が与えてくれる」という意味です。トラウマを治すためには、むしろ過去の出来事を意識しないようにして、楽しいと思える体験、癒されるような体験を重ねていくことが大切なのです。


また、信頼のできる人といっしょに、トラウマになった出来事を話し合うことも、トラウマを解消する方法です。安心のできる人の前で、辛かった思いを言葉にすることで、トラウマの毒が消えて行くのです。ただし、無理をして話すのでなく、自分から話したいという自然な気持ちを大切にしましょう。無理をして話すことは逆効果にもなるので注意してください。


眠れない、食欲がない、不安、うつ気分で日常生活に支障があり、前に進めない場合は精神科で薬の治療を受けることもできます。あくまでも対症療法ですが、体調や気分が楽になる分、トラウマも解消されやすくなります。


トラウマが良くなるには、「日にち薬」が大切です。「過去を自然に話せるようになった」、「夢で見なくなった」、「近寄れなかった駅に行くことができた」、こうしたことが起きているならば、あなたのトラウマは消えかかっているサインです。

双極症の8つの特徴

双極症は、うつ状態と躁状態を繰り返す病気ですが、ほとんどがうつ病から始まります。どういうことかと言うと、ほとんどの双極症の人は、うつ状態が数カ月から数年続いた後に突然躁状態になり、改めて双極症と診断されます。


逆に躁状態から始まる双極症はわずか30%です。ですから、うつ病と診断されて、5年、10年たって初めて躁状態になり、実は双極症だったという人も珍しくありません。


このように説明すると、双極症とは、うつ病に躁状態がくっついただけの病気と勘違いされやすいのですが、実は双極症とうつ病は最初から別の病気です。そもそも、うつ病の「うつ状態」と双極症の「うつ状態」には違いがあります。


このようなことを踏まえながら、今回は双極症の8つの特徴を紹介しましょう。





1 過眠・過食

普通、うつ病というと「眠れない」、「食べられない」ことが特徴ですが、双極症のうつ状態は、過眠と過食をするのが特徴です。「1日10時間以上寝ても寝たりない」、「いくら食べてもお腹がすいて仕方ない」といった感じのことが起こります。


また、双極症は季節の影響を受けやすく、秋から冬にかけてうつ状態が起こりやすいという傾向もあります。ですから、寒くなると熊が食いだめをして冬眠するのと同じように、双極症の人も寒くなると、やたらと食欲が亢進し、睡魔に襲われるようになります。



2 体が鉛のように重くなる

双極症の人は、うつ状態になると寝込んでしまうことが多く、「体が鉛のように重い」と表現します。これを鉛様麻痺(なまりようまひ)と呼び、双極症のうつ状態に大変よく見られる症状です。まるで手足に鉛を入れられたような感覚になり、体を動かすことが億劫になります。


ずっと立っていることも辛くなり、すぐに横になりたくなるのです。その上、過眠・過食が加わりますから、「1日中ゴロゴロして、起きている時は何か食べているだけ」という怠惰な生活です。


注意していただきたいのは、過眠・過食・鉛様麻痺は双極症だけでなく、「非定型うつ病」というタイプのうつ病にも見られます。このために双極症とうつ病は鑑別が難しいのです。



3 突然元気になる

「三年寝太郎」という日本昔話をご存じの人は多いと思います。寝太郎は3年間ただずっとゴロゴロ寝て過ごし、ある日むっくり起き上がります。そして、外に出ると大きな岩を一人で動かし、川の水が流れるようにして村の飢饉を救ったという話です。双極症の人も似たような感じで、何カ月も何年もずっと寝て過ごし、ある日突然活動を始めます。


うつ病ならば、数カ月かけて徐々に回復していくのが普通ですが、双極症の場合は回復が急激です。ある日を境に、掃除、おしゃれ、買い物、SNS発信など、それまで何もできなかったことを取り戻すような感じで動き回ります。


そのまま普通に生活ができれば良いのですが、段々言動がエスカレートして元気すぎるようになることもあり、これが躁状態です。



4 大きな買い物をする

躁状態になると気持が大きくなり、「いくらでもお金が湧いて来る」という感覚になります。ブランド物、高級時計、高級車、マンションなど次から次へと欲しいものが止まらなくなり、無茶なローンを組んでしまいます。100円ショップに立ち寄ったところ、支払いが1万円だったという話もあります。




5 すぐに結果を出そうとする

躁状態では大きなことを考えるようになり、同時に、寝込んでいた期間を取り戻そうと焦ります。元々コツコツ積み上げて何かをすることが苦手なので、すぐに結果が出るような仕事に手をつけます。深く考えずにうまい儲け話にのってしまい、騙されてしまうこともあるでしょう。宝くじやギャンブルで一攫千金を狙う人もいます。




6 何ごとも待てない


待つことができないので、すぐに実行です。失敗した時のことは考えられません。すでに買い物のことを紹介しましたが、就職、退職、起業、投資、結婚、離婚など、人生の大事なことも深く考えずに決めてしまうことがあります。


もちろん身近なところでも「待てない」が出て来ます。レストランで注文したものが遅いと怒る、レジの行列もイライラして文句を言う、といったことでトラブルになることがあります。



7 ドタキャン

寝ないで動き回っていたら、人のエネルギーはいつまでも続きません。数週間から数カ月過ぎると、ある日突然、電池が切れたように動けなくなります。体が重くなり、睡眠時間が長くなり、うつ状態に逆戻りです。人と会う約束、面接の予定、大事な会議など、すべてドタキャンすることになります。


双極症のうつ状態は突然やってきます。仕事などがうまく回り始めた時に突然うつになってしまうことが多いので要注意です。



8 手を広げ過ぎて後悔

躁状態の時に色々なことに手を広げ過ぎてしまうので、うつ状態になると収拾がつかなくなります。「新しい会社に勤めたのに通えない」、「会社を起業したのに寝てばかり」、「買ったマンションのローンが払えない」、「高級ゴルフセットを買い揃えたけれども、ゴルフをしたくない」といったように、後悔や借金が残ってしまい、周りの人に助けてもらいながら、辛い期間を過ごすことになるのです。



双極症の治療を受けないでいると、「躁状態で手を広げて、うつ状態になって後悔」という失敗のパターンを何度も繰り返します。周りの人からは、「何で一度の失敗で学ばず、同じ失敗を何度も繰り返すのだろう」と不思議に思われますが、これは脳の活動が病的な変化をするために起こる現象です。


特に躁状態では気分が良くなるので、「治療は必要ない」と思ったり、「もう2度とうつにはならない」という根拠のない自信を持ったりするために、治療を受けない人もいます。


双極症は治療に長くかかる病気ですが、薬の治療で気分の変動を最小限に抑えることができます。治療には炭酸リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどの気分安定薬が中心に使われています。薬で気分をうまくコントロールしながら、社会で活躍し、成功している人もたくさんいます。


また、双極症と発達障害のADHDは似ているので間違えられやすい病気です。今回紹介した症状がある場合は双極症ですので、精神科に相談してみましょう。