うつ病の身体症状

四季の移り変わりが誇りである日本ですが、温暖化の影響もあり、最近では気候の変化が激しい国になりました。寒暖差や大雨の時に体が動かなくなり、家を出られなくなる人もいます。


内科へ行くと「寒暖差疲労」と言われることが多いのですが、仕事にも支障があるくらい深刻になることもあるのです。大切なアポイントがあっても、ドタキャンするしかありません。


普段から気分の晴れない日がつづいており、気候の変化で止(とど)めを刺されるようならば、これはうつ病の可能性があります。


うつ病と聞くと気分が晴れない心の病気と思われていますが、自律神経系やホルモン系を通じて体にもたくさんの症状が見られます。今回は、うつ病の体の症状のうち、特に多い12の症状を紹介しましょう。




1 天候によって体調不良が起こる

先ほども紹介しましたが、春先の不安定な気候、初夏の長雨、夏の台風、秋から冬にかけての気温の変化、冬の雪の日など、寒暖差や前線が近づいてくると、うつ病の人は様々な体調不良が起こります。


症状は、頭痛、腹痛、腰痛などの痛み、めまい、手足のしびれ、全身の倦怠感など多彩です。これらは、うつ病のために自律神経系の働きが悪くなっていることから起きる症状なのです。



2 体が鉛のように重い

「体が鉛を入れられたように重い」と起き上がれなくなることを「鉛様麻痺(なまりようまひ)」と呼びます。


ストレスや気候の変化が引き金になることが多く、前の日まで元気だったのに、朝から突然動けなくなり、大切なアポイントをドタキャンということもあるでしょう。時間や日によって症状の波があり、数日でよくなる人、何年も続く人もいます。


鉛様麻痺は、うつ病だけでなく、双極性障害のうつ状態の時にも多く見られる現象です。



3 疲れがとれない

鉛様麻痺まではいかなくても、体のダル重い感じがとれないこともうつ病で起こります。休日はずっと寝たきり、休んだはずなのに休み明けは特に体調不良が酷いというのはうつ病の特徴です。


「もしかして何か変な病気なのかな?」と思い切って内科を受診しても特に異常が見つからず、疲労と言われることもあります。そこで休みをとって改善すれば良いのですが、2週間の休みをとっても回復しない場合はうつ病の可能性があるでしょう。



4 コリや痛み

だるさだけでなく、首・肩・腰のコリがとれないのはうつ病の初期症状でよく見られるものです。


さらに、それが高じて痛みに発展することもあります。うつ病になると、痛みを感じる脳の部分が敏感になるため、普段の何倍もつよく痛みを感じるのが原因です。


例えば、頭痛、顔面神経痛、五十肩、腰痛などが慢性的に続き、内科や整形外科で診てもらっても大きな異常が見つからない場合はうつ病を疑ってみるのも必要かも知れません。



5 過食・過眠

うつ病の人が食欲不振や不眠症になることはよく知られていますが、その逆の過食や過眠が起こる人もいます。ストレスがかかった時だけでなく、秋から冬にかけて急激に寒くなると起こります。


特に味の濃いスナックや甘いパンやアイスクリームなどを大量に食べ、1日中眠いために仕事がない時は常にゴロゴロしています。ナマケモノのような状態で、体重もドンドン増えてしまうでしょう。


うつ病というと痩せ細った人をイメージするかと思いますが、過食と運動不足で太ってしまううつ病の人もたくさんいます。





6 食べ物の味が変わる

うつ病になると、家族といつも通りに食事をしている時に、自分だけ「食べ物に鉄の味がする」、「味がしない」といったような味の変化が起こることがあります。


何を食べても美味しく感じずに、食欲を失ってしまうでしょう。同時に喉の渇きが増えるのも特徴です。いくら水を飲んでも、すぐに喉が渇くという感じです。



7 胃腸障害

ふだんから下痢や便秘があり、仕事や学校に向かおうとする電車の中で腹痛を起こすような胃腸障害を「過敏性腸症候群」と呼びます。試験の日や大切な仕事の朝に限って腹痛が治まらないことがあり、生活にも支障が出ることがあるでしょう。


ストレスによる自律神経失調が原因ですが、これもうつ病が関わっていることがあります。内科では過敏性腸症候群として薬を処方されますが、それだけでなく、気分が晴れない日が多いならば、うつ病の可能性があるでしょう。




8 パニック

過敏性腸症候群のように、学校や仕事に向かう混雑した電車の中で、急にパニックが起こる人もいます。特に電車が事故で停車して車内に長く閉じ込められた時に、「このまま死んでしまう!」という強い不安感に襲われ、呼吸困難や動悸がするようならば、これはパニック発作です。


パニック発作のある病気をパニック症と呼びますが、重症になると外出ができなくなることもあるでしょう。


パニック症の50%の人がうつ病を合併しています。うつ病とパニック症はともに脳のセロトニン分泌の不足が原因であると考えられており、治療にはSSRIという抗うつ薬を使います。



9 胸の不快感

胸の不快感と言うと、心筋梗塞や狭心症などの命に関わる病うつ病で起こる胸の不快感はパニック発作だけではありません。呼吸困難感、胸痛、動悸など、自律神経系を通じてさまざまな胸の不快感が起こります。気を思い起こす人が多いと思います。


これらは心臓の血管が詰まってしまう病気ですが、うつ病で起こる胸の不快感は自律神経系に間違った信号が送られることから起こります。心臓自体には問題はないので、いくら心臓の検査をしても異常が見つかりません。



10 風邪の症状

発熱は、感染症やケガによる炎症で起きるのが普通ですが、炎症がなくてもストレスが原因で発熱することもあります。うつ病の時も倦怠感とともに37℃前後の微熱が長く続くことがあるのです。


また、ストレスで咳が出ることもあります。「いつまでも熱が下がらず、体がだるく、咳も止まらない」という風邪のような状態であっても、うつ病でそうなっている場合もあるのです。



11 頻尿や寝汗

 自律神経系は皮膚や泌尿器ともつながっています。うつ病の人には、頻尿、残尿感、汗っかき、寝汗なども見られます。何か出来事があると、緊張から尿意がするので何度もトイレに行く、汗を大量にかいてしまうので冬場でも下着がビチョビチョに濡れてしまうということがあるでしょう。



12 月経不順、インポテンツ

うつ病になると男性ホルモン、女性ホルモンの分泌が低下するため、更年期障害に似た症状が出ます。女性では月経不順や、月経が止まる人もいて、男性では性欲の減退からインポテンツになる人もいます。こうなると異性への興味もなくなってしまうでしょう。



以上「うつ病の12の体の症状」を説明しました。


うつ病はたくさんの体の症状があるため、うつに気づくことができずに内科や整形外科を受診する場合が大変多くあります。


いくら検査をしても異常が出ず、そこから精神科を紹介される人もいます。また、そのまま内科で抗うつ薬を処方してもらうこともあるでしょう。


日本でうつ病の人は推定500万人いると考えられていますが、実際に治療を受けているのは半分以下です。残りの人は、気分が晴れないことや体調の悪さを、理由が分からずに我慢して生活しています。


この記事を通して、ご自分の体調不良の背後にうつ病があるかも知れないことを知っていただけたら幸いです。