2024.03.18

うつ病の人が持つ考え方の特徴とは

うつ病は、気分障害とも呼ばれるように、気分の落ち込みの病気です。気分が落ち込めば、物の考え方もネガティブになります。考え方がネガティブになれば、今度は気分も下がってきます。気分と考え方は互いにつながっているからです。気分が下がり、考え方がネガティブになり、気分が下がり、考え方がネガティブになり、という悪いループが延々と続き、うつ病がどんどん悪くなる場合があります。自分の力で気分を変えることは、うつ病の人には難しいため、薬の力に頼るしかありません。考え方に関しては、自分の努力で変えることができる部分があります。

アメリカの精神科医アーロン・ベックは、うつ病の人に特徴的な考え方があることを発見しました。次の3つの思い込みが、心の根っ子にあるというのです。

1つめは、「自分は必要のない人間である」という自分自身のネガティブな評価、2つめは、「世の中は、自分に味方してくれない」という環境へのネガティブな見解、3つめは、「何をやってもどうせうまく行かない」という未来へのネガティブな予測です。この3つを「うつ病因性スキーマ」と呼びます。


うつ病の人は、何かある度に、この3つの思い込みが発動します。例えば、職場の上司に挨拶しても、返事が返って来なかった時にどうなるでしょうか?ふつうならば、「上司は機嫌が悪いのかな?」、「挨拶に気づかなかったのかな?」と考えて、次に会った時に確かめて見ようと思います。

ところが、うつ病の人は、「自分は必要のない人間である」といううつ病因性スキーマが発動するので、「上司は、私のことが嫌いなんだ」と信じ込みます。そして、上司と顔を合わせる度に気分が落ち込むようになり、話をすることも嫌になってしまいます。


うつ病因性スキーマがなくなってくれたら一番良いのですが、子供の頃からの経験によって、心に染みついてしまっている場合も多くあり、消し去ることは大変難しいことです。しかし、これが発動しないようにすることならできるかも知れません。実は、いくつかの考え方の癖が原因で、発動することが分かっています。スイッチになる考え方の癖に気が付くことができれば、うつ病因性スキーマに振り回されないようになるでしょう。


今回は、うつ病の人の考え方の特徴を5つ紹介しましょう。これらによって、うつ病因性スキーマが発動してしまい、気分が落ち込んでしまうという仕組みを知ることは、うつ病を治す上でもとても大切なことです。





1 恣意的(しいてき)推論:証拠がないのに決めつける

例えば、家を出る時に、近所の人がジロジロ見ていたとします。そんな時、「人のことをジロジロ見るなんて嫌な人だ」と思うのが普通ではないでしょうか?ところが、うつ病の傾向のある人は、「私のことを変に思っている」と考え、さらに、「近所の人から嫌われている」と結論付けます。

会話をしていないのだから、相手の考えは分からないのに、ジロジロ見ていたという事実だけで、「自分は必要のない人間だ」という思い込みに直結してしまうのです。



2 選択的抽出:全体を見ないで、部分だけに注目する

友人に料理をふるまったら、美味しく食べてもらえたのか、誰でも気になります。味見をした時に、「味付けが薄かったかな」と不安でしたが、友人は「美味しい」と言ってくれました。友人に褒めてもらったので、もう料理の話題は終わるのが普通ですが、いつまでも味付けのことが気になって仕方がないのがうつ病の人です。

「本当は美味しくなかったのに、無理をして美味しいと言ったに違いない」と勘繰ります。結局、「友人にまずい物を食べさせてしまった」と結論付け、「自分はダメな人間だ」のネガティブに陥るのです。


基本的に、人生においては、失敗したこと、うまくいかないことが重要であり、それで自分が評価されると考えています。ですから、うまく行った事実はスルーして、失敗だけを選んで意識しています。はたから見ていると、まるで自分で自分のあらさがしをしているようです。



3 極端な一般化:少ない経験でレッテルを貼る

例えば、職場の上司が良くない人であるとします。他の社員とは、接したことはないのに、「この会社の人はみんな意地悪だ」とレッテルを貼ります。1つの経験でそうならば、似たような出来事に関しては、すべて同じことが言えると考えるのです。

「1回仕事に失敗したのだから、次の仕事も必ず失敗する」というのも同じです。根っ子に「社会は敵であり」、「未来は不幸である」という思い込みがあるのです。





4 自己関連付け:悪いことは、自分と関連付ける

「家族が病気になった」、「会社がうまく行っていない」といったように、周りで良くないことが起きると、とっさに自分が不幸を招いていると感じます。何の根拠もないのに、周りで起きる悪いことは、自分が原因だと考えるのです。結局、「私がみんなを不幸にしているので、いない方が良い」と結論付けます。



5 全か無か思考:「中くらい」という考え方がない

うつ病になると、1日寝ていることが多く、家事も満足にできません。そのために、「今日も何もできなかった」と後悔する人が大変多くいます。しかし、実際は簡単な掃除くらいはできていることがあります。

元気な頃のように、早起きをして、掃除をして、洗濯をして、料理をして、というパーフェクトな生活をしないと、「何かをした」と評価しないのです。中くらいがないために、小さいことはゼロになって、カウントされません。これを全か無か思考と呼びます。

全か無か思考では、小さな良いことを見過ごしてしまい、自己評価を上げることができません。根っ子にある「自分は必要のない人間だ」という思い込みは、永遠に修正されません。


うつ病の人の考え方を紹介しましたが、共通点があることに気づかれた人もいると思います。それは、物事を証拠がないのに決めつけてしまうことです。客観的な証拠がないのに、「自分は必要のない人間である」、「世の中は、自分に味方してくれない」、「何をやってもどうせうまく行かない」という3つのネガティブな思い込みが発動してしまうのです。

警察から、「お前が犯人だ!」と言われても、証拠がなければ無罪です。それでも捕まってしまうのならば、冤罪になります。同じように、証拠がないのに、ネガティブな考えに振り回されて落ち込むのは、冤罪のようなものです。ですから、ネガティブな考えが浮かんで落ち込む時は、まず、「これは思い込みではないだろうか?」、「本当に落ち込まなくてはいけないのか?」と疑うようにしましょう。そして、落ち込む必要性があるのか、具体的な証拠集めをするべきなのです。

このように、自分の考えが本当に正しいのか、証拠集めをして検証することを認知療法と呼びます。思い込みがつよすぎる場合は、自分の努力で修正できないので、心理士に手伝ってもらうことも可能です。


2024.02.28

うつ病を治していくためにやるべき 7つのこと

私たちの体は、呼吸と食事の栄養を通して、エネルギーをつくって生活しています。体と同じように、心にも呼吸や栄養が必要なことをご存じですか?心の呼吸や栄養とは、愛情や喜びを感じるポジティブな体験のことです。そして、これが足りなくなって、生きるエネルギ―が枯れ果てた状態がうつ病なのです。


子供は、食事を与えられただけで、親から注がれる愛情が不足していると、心が正常に育ちません。大人になっても、愛情を受けられない生活を続けていると、健康的な心の営みはできなくなります。愛情とは、いくつになっても、心に不可欠な存在なのです。


大人になってからの愛情というと男女の愛情を想像すると思いますが、それだけでなく、家族、友人、ペット、さらに自然や物など、すべての存在との関係にも愛情があります。そして、愛情があると、安らぎ、幸福感、癒しといった安心感が生まれてきます。この安心感が、心にとっての呼吸のような存在になるのです。


また、心には喜びという刺激も必要です。行動して喜びの刺激を得ると、生きる力が湧いて来ます。喜びは、心にとっての栄養のような存在です。


心は、脳の神経伝達物質の働きによって支えられており、安心感はセロトニン、喜びはドーパミンという物質が関わっていることが分かっています。うつ病とは、セロトニンやドーパミンの分泌が少なくなった状態です。心の観点から見ると、安心感と喜びという栄養が不足してしまい、心が枯れてしまったような状態とも言えるでしょう。



うつ病を治していくためには、安心感や喜びを得ていくことが大切です。そのためには、どのような生活をしたら良いのでしょうか?今回は、うつ病を治していくためにやるべき 7つのことを説明しましょう。





1 焦らずにのんびりすること

安心感とは、心地よい、穏やかな気持ちを体験することです。これは、うつ病の回復にとても大切な要素なのです。例えば、きれいな景色を見ながら、「癒される」、「ゆったりできる」、「生きていて良かったな」、「このままでいいんだ」と感じるような体験です。


ところが、「あれをやらなきゃ、これをやらなきゃ」という忙しさや焦りは、安心感から離れてしまいます。社会的な地位や名誉へのこだわり、高過ぎる理想を掲げること、憧れる人と比べるなども、うつ病に良くありません。「誰々から嫌われたくない」、「職場で能力を認めてもらいたい」と背伸びをしている生活も同じです。


うつ病の治療中は、何よりも焦らずのんびりすることです。「休んでいる間に新しいスキルを勉強しておこう」とか、「早くリワークプログラムに参加しなくては」と焦るのではなく、安心を実感できるような毎日を心がけてください。



2 小さな喜びを積み重ねる

日々の生活に何か喜びがあることは、心に栄養を与えていることと同じです。喜びにも色々な種類がありますが、実は、大きな喜びよりも、小さな喜びを積み重ねていく方がより幸福を感じられるという調査結果があります。

小さな喜びとは、趣味に没頭する、ショッピング、エンタメ、カラオケ、マッサージやサウナ、カフェや公園巡り、友人とランチ、ペットとふれあう、ガーデニングなど、人それぞれに楽しめることが何かあるでしょう。こうした日々の細(ささ)やかな楽しみ積み重ねは、仕事で大成功した、試験に受かった、というような成功体験よりも、心を満たしてくれるのです。

食べ物には、栄養の質の良いものと悪いものがあります。味が濃くておいしいからと言っても体に良くないものもあり、そればかり食べていると健康を壊します。これと同じように、心の栄養にも質の差があり、一時的なつよい刺激だけを求める快楽主義は心に良くありません。心に残って、長く幸せを感じるようなことが心の栄養になります。

楽しいからと言って、何をやっても自分にプラスになるということではないのです。例えば、お酒をたくさん飲んだり、浪費ばかりしていると、心は苦しくなります。

幸福度の調査からは、自分だけが満足するような自己中心的な行動よりも、他人を喜ばすような行動の方が幸福を大きく感じることが知られています。例えば、自分のものばかり買っていると負債を感じますが、家族や友人にプレゼントを買ってあげると、より幸せを感じるのです。



3 嫌なことは我慢しない

いくら心に良いことをするように努力していても、周りの人から心ない言葉をかけられたり、酷い仕打ちをされては、心を傷つけられてしまいます。例えば、「いつになったら働くの?」「もう治っているんじゃないの?」といった言葉をかけられたり、病気を理解せずに「しっかりしろ」と説教をしてくる人もいます。

こうした悪いものから、自分で自分の心を守らなくてはいけません。具体的には、付き合って疲れる人とは付き合わない、関わって不愉快になることはやらないようにしましょう。自分の素直な気持ちを最優先にして、嫌なことは避けるような生活を心がけましょう。



4 規則正しい生活

生活の中の安心感は、規則正しい生活習慣と深くつながっています。セロトニンという物質は、生活リズムとも関係があるように、脳の構造からも、規則正しい生活と安心感は密接に関連しているのです。特に朝起きる時間、夜床につく時間、食事をする時間を一定にすることが大切です。
うつ病の時には規則正しい生活を心がけましょう。楽しむことが大切だからと言っても、規則正しい生活を壊しては意味がありません。例えば、動画を夜遅くまで見てしまうとか、SNSをダラダラしてしまうとか、楽しいからと言っても、生活のリズムを崩すようなことは禁物です。





5 たくさん睡眠をとる

毎日しっかり睡眠をとることは、セロトニン分泌のために最も大切なことです。日中の安心感にもつながります。しっかり眠ることがうつ病の治療だと考えても過言ではありません。毎日7~8時間の睡眠をとることを心がけましょう。

最近は、睡眠グッズや睡眠アプリが人気です。眠ることを楽しいイベントのように感じられるものがあればお勧めです。

また、うつ病の症状で不眠症がある場合は、積極的に睡眠薬を利用するべきです。睡眠薬は「認知症になる」「依存性がある」とネットに書いてあることもありますが、ほとんどがデマ情報です。医師の指導のもとで使うならば危険はありません。むしろ不眠を放置しておくと、うつ病は治らないどころか、他の内臓の病気にもなってしまいます。



6 バランスの良い食事

ネットには、うつ病に良い食事として、セロトニンの材料になるトリプトファンが多く含まれたバナナや、葉酸やビタミンBが含まれたサプリなどが紹介されています。しかし、よほど偏食がない限りは、特別なものを無理して食べる必要はありません。何よりもバランスの良い食事を心がけましょう。

米、パン、麺類などの炭水化物だけでなく、必ず肉・魚・豆類などのタンパク質、そして野菜を付け加えてください。また、美味しく食べることも大切なことです。

ただし、栄養の取り過ぎは、うつ病を治りにくくさせることが知られています。肥満はうつ病を治りにくくする原因の一つです。特にスイーツなどの炭水化物やアルコールの取り過ぎには要注意です。



7 軽い運動

初期の頃は家でゴロゴロしているべきですが、回復してきたら、週に3日程度の軽い運動をしましょう。運動といっても、1日20分程度のウォーキングで十分です。無理をしてスポーツジムに通う必要はありません。体を動かして「気持ち良い」と感じることが大切なのです。


心のゆとりがなくなり、本来の心の状態を失ってしまったのがうつ病です。安心感、小さな楽しみの積み重ね、我慢をしない、食事・睡眠・運動を柱にした規則正しい生活、こうしたことを意識することで、本来の心の状態を取り戻すことができるでしょう。

かと言って、今日をのんびり過ごしたら、明日は元気というほど簡単なものではありません。時間をかけて悪くなったのですから、良くなるのにも同じくらいか、それ以上の時間がかかります。焦らずに、安心感のある生活を積み重ねていきましょう。


2024.02.14

叱られることに敏感に反応してしまう人の特徴

人から叱られて、泣きたくもないのに涙が出たことはありませんか?例えば、入ったばかりの職場で、「仕事ができない!」と叱られて、何も言い返すことができず、涙がこみ上げてくるのです。仕事をきちんと教えてもらっていないのが原因なのに、まるで人格をすべて否定されているように感じ、二度と上司の顔を見たくありません。場合によっては、叱られたことがきっかけで職場に行かれなくなり、辞めてしまう人もいます。

残念ながら、ハラスメントの問題が騒がれて久しいにも関わらず、「叱られて当たり前」「叱られて仕事を覚える」といった考えがまかり通っている職場はたくさんあります。


不思議なことに、叱られても何も感じない人から敏感に感じる人まで、感じ方には個人差があります。叱られて敏感に感じてしまう人は、何か心に問題があるのでしょうか?


心理学では、心は傷つかないように、バリアで守られていると考えています。ウルトラマンが、怪獣の攻撃を防ぐために使う透明なバリアをイメージしてください。心のバリアは、専門的に「個人の境界線」「自他境界」「バウンダリー」などとも呼ばれ、他人の思いが心の中に侵入してくるのを防いでくれる存在です。

叱られても、バリアがしっかり張られていれば、それほど気になりません。むしろ、間違いを正してくれたとポジティブに捉えることもできます。叱られて心が傷つきやすい人は、心のバリアが弱くなっているのです。


今回は、叱られることに敏感に反応してしまう人の特徴について説明します。特に心のバリア、個人の境界線についても触れていきたいと思います。





1 「叱る」と「怒る」は違う

「職場で叱られた」というのは、「怒られた」と表現する方が正確かも知れません。まずは「叱る」と「怒る」の違いについて説明しましょう。叱るとは、相手を良い方向に導くために間違いを正すことです。感情的に言うのでなく、道筋をたてて論理的に説明するものです。

これに対して、怒るとは、思い通りにならなかったり、気に入らないことがあると、腹を立てて、感情を相手にぶつけることです。相手の人格を否定したり、人前で注意して恥をかかせたり、大声で注意をするのは、叱るではなく、怒るが正しいでしょう。ただし、明確に区別していない人の方が多いかも知れません。


私たちの心が傷つくのは、大概怒られている場合です。相手からネガティブな感情をぶつけられるために傷ついてしまうのです。



2 怒られると攻撃を受けていると感じる

お互いに信頼関係がない場合に、相手から怒られることは、感情的に攻撃を受けるのと同じです。突然、ズカズカと心の中に入ってきて、ネガティブな感情をぶつけられていると考えられます。そうなると、例え、正しい内容を指摘されていても、素直には受け入れられません。人によっては、人格を否定されているように受け止めてしまう場合もあるでしょう。こうした理不尽な攻撃から心を守ってくれるのが、心のバリアの存在です。



3 心のバリアが弱い

心のバリアとは、自分と他人を区別する境界線のことです。この境界線がはっきりしていると、「自分は自分、人は人」という自分の意識が明確になります。自分のことは自分で決められるようになり、自分は何に責任を持つべきかがハッキリします。生きて行く上でとても大切なことです。


子供は、親との距離が近いために、自分と親の境界線が曖昧です。成長するに従い、境界線が明確になって行き、自分と親が別の存在であると認識できるようになります。ところが、自分の境界線が曖昧なまま大人になると、相手の影響を受けやすかったり、自分のことに責任を持てなかったりと、メンタルヘルスにマイナスになるでしょう。


心のバリアが弱いと、怒られた場合には、相手の感情が心に飛び込んできて、激しく動揺します。反撃することもできず、涙が出てくるようになるのです。他人が怒られているのを聞いているだけで、まるで自分が怒られているようで緊張してくることもあります。共感する力があると言えば、聞こえがいいのですが、つねに相手の感情に左右されてしまうのです。





4 心のバリアが弱くなる原因

それでは、心のバリアはなぜ弱くなるのでしょうか?次に、心のバリアが弱くなる3つの理由を説明しましょう。


1つ目は、生まれつき音や光などの刺激に敏感なために、周りとの境界線を引きにくい人です。感覚過敏と言われるもので、自閉スペクトラム症などの発達障害の人に見られます。また、心理学用語のHSPという言葉が流行していますが、これも感覚過敏の一つです。


2つ目に、先ほども説明したように、親子関係の影響もあります。虐待やネグレクトなど、親が子供の人格を認めず、自分の付属品のようにして接していると、親子の境界線が曖昧なまま成長することになります。また、いつも親の機嫌を気にして生きていると、親の言動が自分の責任であるように感じ、自分と親の境界線がなくなってしまいます。そうなると、他の人との境界線も明確にできなくなり、心のバリアが弱い状態が続きます。


ここまでは、生まれつきの問題や養育の問題が原因の場合ですが、3つ目に、心が不安定になると、一時的に心のバリアが弱くなることもあります。仕事が忙しい、心配事がある、いじめがある、などの状況では、人との境界線が曖昧になり、相手の影響を受けやすくなってしまうのです。うつ病でも、同じ理屈で涙が出やすくなります。



5 心のバリアをつよくする方法

まずは、ふだんから、心のバリアが弱くなっていることを意識しましょう。心のバリアを簡単に言うと、やりたくないこと、嫌いなことを「イヤだ」と拒否する力のことです。毎日の生活で我慢をし過ぎて、自分でも気づかないうちにバリアが弱くなっていることはないでしょうか?

我慢のし過ぎは、自分からバリアを弱め、外からの侵入を許してしまっている状態です。家に鍵をかけないで、毎日を過ごしているのに似ています。これでは悪い人が土足で入ってきてしまいます。


そして、親の考え方、職場のやり方、グループのルール、周りの評判といったものを優先するのでなく、何よりも自分の素直な気持ちを優先しましょう。自分が心地よく感じることをやり、不愉快に感じることは避けるようにするのです。


次に、怒ってばかりいる人、危害を加える人とは、できるだけ距離を置きましょう。当たり前のことのように聞こえますが、逃げることは物理的に人との境界線を引くことでもあります。


最後に、毎日の生活からできるだけストレスを取り除きましょう。ストレスは、心のバリアを弱くしてしまいます。生活に安心感があれば、人との境界線を自然にひけるようになります。心のバリアが回復して行くのです。


2024.01.30

失感情症とは―5つの特徴―

「クールな人」と言うと、ヒーローのように冷静でかっこいいイメージがあります。しかし、「失感情症」という感情がないことで苦しんでいる人がいることをご存知でしょうか。辛いことがあっても、心の中で何が起きているのか言葉にできません。不快な感情を心で自覚できないために、痛みなどの体の不調として現れやすくなります。


1972年、アメリカのシフネオス医師は、つよいストレスを受けても、それが心の症状に現れず、胃腸障害や喘息などの体の症状に出やすい人の研究をしました。そして、共通する性格として失感情症を見つけました。英語では「アレキシサイミア」と言います。辛いことがあっても、それを言葉で表現することが苦手で、ストレスが体の症状として現れやすい傾向があるのです。


ストレスは、まず脳の間脳(かんのう)というところで喜怒哀楽の感情の動きとして認識されます。さらに、この喜怒哀楽の情報は脳の上下2つの方向へ伝えられます。脳の下の方へは自律神経系を通じて伝わり、心臓や肺などの内臓の動きとなります。脳の上の方に伝達されると、前頭葉という部分で分析されて、この喜怒哀楽が何なのかが言葉になって理解されます。
失感情症では、ストレスによる喜怒哀楽の情報が前頭葉へきちんと伝わらないために、言葉に変換されないのです。


失感情症は、症状として一時的に現れることもありますが、基本的には生まれつきの性格と考えられており、生きづらさを感じている人も多いのです。心の中で起きていることなので、自覚できていない人もいます。今回は、失感情症の特徴を5つ紹介しましょう。





1 自分の感情を言葉で表現するのが苦手

例えば、家族でお笑い番組を見てみんなが笑っていても、笑えません。決してつまらないわけではありません。学校でいじめがあることが分かっていても、文句を言わず休まずに学校へ行きます。もちろん辛いのです。戦争で捕虜になった人たちが、無表情になって抵抗せずに連れられて行く雰囲気に似ています。

失感情と言っても、感情を失っているわけではなく、感じることはできます。それを言葉に表現できないために自覚ができないのです。不快な感じが続いていても、それが何か自覚できません。そのうちに耐え切れなくなった感情が爆発してしまうこともあります。失感情症は心の不健康につながりやすいのです。



2 人に気持ちを伝えられない

自分の心で起きている感情を言葉で表現できないため、それを他人に伝えることができません。相手に感謝や喜びを伝えられずに誤解されたり、不快感や辛いことを伝えられないために苦しい思いをすることがあります。こうして対人関係で問題が起きることがあります。

子供の頃は、いつもニコニコして泣くことが少ないため、親から「育てやすい子供」と思われます。そうではなく、失感情症によって自分の気持ちを親に伝えられていないのです。



3 体調不良を起こしやすい

ストレスにより辛いことがあると、不快な感情は心と体に分配されます。心に伝わると言葉になり、自律神経系に伝わると体の症状になります。ストレスは言葉にして発散すれば解消できます。

ところが失感情症ではそれができないために、不快な感情は自律神経系を通じて体の不調としてだけ現れます。倦怠感、頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、しびれ、めまいなど、いわゆる心身症というものが起こります。体の病気で、病院で検査しても異常が見つからない場合は、失感情症が関わっていることが多くあります。





4 辛い時は逃げるか、心を閉ざす

何か葛藤がある時、それを言葉で自覚できないために、心の中を見つめ直したり、解決方法を考えることができません。そうなると辛いことから逃げるか、心を閉ざすしか手がなくなります。同時に体の調子が悪くなるため、体の不調を理由に責任から逃れることになります。

子供が学校で嫌なことがあると、頭痛や腹痛がして学校へ行けなくなることがあります。これは、子供の心や脳は十分に成長していないため、辛いことを心で処理しきれずに体だけが反応してしまうのです。

これが大人になっても続く場合は失感情症と考えられます。例えば、ストレスから体調不良を起こして職場に行けなくなる人がいます。心配した会社の人が連絡すると、「明日は必ず行きます!」と言いますが、結局次の日も欠勤してしまいます。これは自分の心の状態を理解できていないのです。決して、心が弱いから逃げ回っているのではありません。



5 自閉症スペクトラム障害・ASD、愛着障害、複雑性PTSDにみられることがある。

自閉症スペクトラム障害・ASDは、人の気持ちを読み取れない障害ですが、自分の心を客観的に見る能力にも劣ります。そのために、失感情症の症状が大変多く見られます。また、愛着障害、複雑性PTSD、統合失調症にも見られることがあります。


以上、失感情症の特徴を紹介しました。一時的な症状のこともありますが、基本的には生まれつきの性格傾向なので決定的な治療方法はありません。自分の個性として仲良くやっていくのが賢い対処法です。
まずは、無理をしすぎている時の体のSOSを自覚するようにしましょう。頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、倦怠感などの体の異変は、心が悲鳴を上げているサインなのです。そんな時は、「いつもの奴が来た!」と理解してゆっくり休むことです。体の不調にならないためにも、ふだんから体調に気を配り、予定以上のスケジュールは入れないようにしましょう。
また、体が緊張していることが多いので、体全体をほぐすようなマッサージに良い効果があります。体をリラックスさせることが心の癒しにもつながるのです。

失感情症と言っても、冷静さを求められる職場で活躍している人もたくさんいます。突然の出来事にも動揺せずに仕事に取り組むことができるのです。「冷静」というポジティブな個性と捉えてみると良いかも知れません。


2024.01.16

うつ病の人の特徴的な10の行動の変化

うつ病は、うつ気分という名前の通り、常に気分の落ち込みが続く病気です。実際は、気分の問題だけでなく、物事への興味や関心がなくなり、何かをする気力も失い、いつも疲れた感じがとれません。

うつ病とは、生きるエネルギーが枯れ果てた状態とも言い換えることができます。機械は電池が切れると、動作がおかしくなりますが、人も同じです。生きるエネルギーが枯れてくると、行動がおかしくなってしまいます。普段できていたことができなくなり、気づかないうちに生活に変化が出てくるでしょう。

それでは、うつ病になると、人はどのような行動のパターンをとるようになるのでしょうか?


今回は、うつ病の人の特徴的な10の行動の変化を紹介しましょう。これらは、行動の変化から気づかれるうつ病のサインでもあります。このような生活になっているならばうつ病を疑ってください。





1 家事ができなくなる

毎日当たり前のようにやっている家事ですが、実際はかなり頭を使うし、体のエネルギーも消耗するものです。うつ病になると家事の大変さを実感するようになります。
片付けや掃除ができなくなるので、部屋は散らかった物やゴミで足の踏み場もありません。台所の流し台は汚れた皿の山になります。さすがに洗濯はしないと着るものがなくなるので、洗濯機は回しますが、乾いた服は畳まずに床に置きっぱなしです。

うつ病の人は、このような悲惨な部屋の様子を見てもどうすることもできません。いつのまにかこの生活に慣れてきて、部屋の汚れを見ても見ぬふりをするようになります。

ただし、家事をしなくなる病気はうつ病だけに限りません。注意欠如多動症・ADHDという発達障害の人は生まれつき片付けが苦手で、計画的に行う家事全般が苦手です。また、統合失調症でも喜怒哀楽が乏しくなる陰性症状というものがありますが、これでも家事ができなくなります。



2 身なりを気にしない

本来はおしゃれで、ファッションにも自分なりのこだわりがあった人が、化粧をしなくなり、いつも同じ服を着ても平気になります。新しい服を買いたいとも思いません。必要に迫られ買ったとしても、買い物袋や紙箱に入ったまま床に置きっぱなしです。買ったことで安心し、すぐに袋や箱を開けるエネルギーがないのです。



3 風呂に入らない

風呂に入ることを「サッパリして気持ちがいい」「1日の疲れがとれる」と楽しみにしている人は多いのではないでしょうか。元気な時には感じませんが、入浴はかなりのエネルギーが必要です。

うつ病になると、風呂が辛くなります。特に、髪を洗って乾かすことを考えると、その大変さで気が重くなります。辛うじて入浴できても、サッパリどころか、一仕事を終えたような疲労感が残るのがうつ病です。風呂はやめて、シャワーだけにする人もいますが、大変であることには変わりはありません。



4 人を避ける

いつも楽しみにしていた職場の飲み会や友人とのランチや飲み会。気が付いたら、用事があると言って、誘いを断るようになっています。人と会って話すのが億劫になるためです。無理して飲み会に行っても、自分だけ別の空間にいるようで楽しめません。

家では、玄関チャイムが鳴っても居留守を使います。電話にも出たくありません。



5 休日は外出しない

土日休みを前にして、金曜日の夜は解放感から元気になります。かといって休みの日は昼まで寝込んで家でゴロゴロ生活です。うつ病では物事への興味や関心がなくなるため、趣味を楽しむ気分にもなりません。仕事が始まるかと思うと日曜は不調です。特に日曜の夕方くらいからは落ち込みがつよくなります。





6 エンタメを見ない

集中力も落ちるため、音や光の刺激が煩わしくなります。それまで楽しんでいた動画や音楽にふれても、内容が頭に入ってきません。エンタメを楽しめなくなるのです。いつも流行りの音楽を追いかけていたのに、いつのまにか関心がなくなっていたらうつ病のサインです。



7 怒りっぽい

つねにイライラしているので、ちょっとしたことが引っかかり、怒りのスイッチが入ります。ふだんでは怒らなかった場面でも怒るようになるため、家族や友人から「最近怒りっぽくない?」と指摘されることがあるでしょう。



8 お酒・タバコ・甘いものが増える

お酒、タバコ、甘いものは、一時的に脳のドーパミンという物質を増やすことで、頭のモヤモヤ感がとれます。仕事や家事など、やるべきことを目の前にして葛藤している時には、起爆剤になるのです。眠れない時には、睡眠薬の代わりにもなります。うつ病を放置していると、知らず知らずのうちに嗜好品をとる量が増えていきます。依存症になってからでは遅いので、嗜好品をとる量が増える場合はうつ病を疑いましょう。



9 職場の行き帰りに寄り道をする

朝から晩まで、虚しい感じがとれません。会社へ行くことは嫌だし、すぐ家へ帰るのでは物足りなく、用事もないのに職場の行き帰りに飲食店、コンビニ、本屋などに寄るようになります。買い物で少しは所有欲を満たすことができるので、必要もない物を買ってしまうこともあります。



10 身辺整理をする

生きている価値を感じなくなることを無価値感と呼びますが、うつ病の症状の一つです。無価値感から、消えていなくなりたい、人生をリセットしたい、と思う人もいます。自殺をしようとまでは思わなくても、「病気や事故で死ねたら楽だな」と感じるのです。中には、何かの理由で自分がいなくなっても、周りの人に迷惑をかけないように、身辺整理を始める人もいます。大事なものを人にあげたり、処分してしまうのです。


足の骨を折ったら、その日から歩けなくなりますが、うつ病の場合は、少しずつ症状が現れるので、生活は徐々に変化していきます。自分では気づけないまま、いつのまにか生活スタイルがガラッと変わっているのです。「おかしいから病院に行った方がいいよ」と周りから言われて、ようやく以前の自分と違っていることに気づきます。発病してずいぶんたってから病院を訪ねる人が多いのがうつ病の特徴です。


ただし、治療を始めるのが遅ければ遅いほど、回復には時間がかかります。治療は、ゆっくり休養をとること、抗うつ薬を飲むことの2つが柱です。どちらも自然治癒の力を後押しして、失った生きるエネルギーを回復していくことが目的です。これには時間がかかるので、発病してから治療を始めるまでに2~3年かかったならば、やはり回復までに同じ2~3年は必要と考えてください。ですから、おかしいと感じたら、早めに休むこと、受診することを心がけましょう。
2023.12.18

ASDが持つあまり知られていない9つの特徴

大人の発達障害の代表として、自閉スペクトラム症・ASDがあります。以前は、アスペルガー症候群という名前で知られていましたが、最近はASDという呼び方が一般的になってきました。

相手の気持ちや場の空気を読みとる能力に劣り、友達をつくることや、友達関係を続けることが得意でありません。こだわりという症状もあり、自分のルールを変えられず、あらゆる場面で融通が利きません。社会に出ると、チームプレイの必要な職場で浮いてしまうのが特徴です。症状のレベルに差はありますが、日本人の10%に見られる一般的なものです。


ASDというと対人関係の問題と考えがちですが、それ以外にも、心の抵抗力の弱さ、体の感覚の違和感などが見られることがあります。それほど知られていませんが、大人になってからの生きづらさとして実感されることがあるのです。


今回は、あまり知られていないASDの特徴を9つ紹介しましょう。





1 辛いことに向かっていけない

心の抵抗力が弱いため、心に傷を負いやすい傾向があります。辛い出来事があると、後遺症でトラウマが残りやすいのです。普通の人なら、「そんなことで傷つくの?」と言われるような小さな出来事でもトラウマになり、苦しかった場面がフラッシュバックしたり、繰り返して夢で見るようになります。また、出来事に関連した場所や人を無意識に避けるようにもなります。

何かのきっかけで傷つくと、そのことを再度チャレンジできません。気持ちに強力なブレーキがかかってしまうのです。それでも向かって行こうとすると心が壊れてしまいます。はたから見ていると辛いことから逃げているように見えますが、本人もできずに苦しんでいるのです。



2 知らないうちに相手を傷つけ、自分も傷つく

これを言ったら相手がどう反応するか想像できません。例えば、最近体重が増えて気にしている女性に向かって、「太りました?」と言って、相手の機嫌を損ねるといった感じです。しかし、何で怒っているのかが理解できません。

むしろ、突然相手が怒ったことにびっくりするのです。「失礼なことを言わないでください!」と怒られてしまうと、心の抵抗力が弱いために深く傷つきます。相手を知らないうちに傷つけて、自分も傷ついてしまうのです。



3 ストレスが体に出やすい

例えば、職場で辛いことがあると、翌日は倦怠感がつよくて家を出られません。声が出なくなったり、手足にしびれが出る人もいます。他にも、体の痛みや胃腸障害が出ることもあります。自分の心の状態を言葉で理解する力に劣るため、ストレスをため込んでしまい、心の不調が体の不調として現れやすいのです。



4 疲れているのに気づかない

脳と体は神経系やホルモンによって密接につながっていて、体は脳からの指令で動きます。この仕組みがあるため、自分の意思によって体が動き、心と体が一体である感覚を持つことができるのです。ところが、ASDの人は、神経系やホルモン系の発達に問題があることから、心と体の一体感に乏しいと言われています。

困ってしまうのは、実際の体の疲れと、感じている疲れにギャップがあることです。一旦仕事を始めると、仕事への義務感や集中のしすぎも重なり、終わるまでは疲れを感じません。仕事が終わって、ひどい疲れに気づき、何日間も寝込んでしまうこともあります。こうしたことを続けていると、職場で信頼を失ってしまいます。





5 体の性に違和感をもつ

思春期には体の性的な成長が起こりますが、心と体の一体感に乏しい場合、このような体の変化を自分のものでないように感じるASDの人がいます。その上、異性との関係で傷ついたりすると、自分の体の性を否定的に感じることもあります。ASDの中には、心の性と体の性が一致しないでいる人もいるのです。



6 酷い仕打ちをされても関係を続ける

普通ならば、危害を加えそうな人には近づきませんし、酷い仕打ちをされたら、その人との付き合いをやめます。ところが、ASDの人は、危ない人と知り合いになろうとしたり、良くない関係を保ち続けようとすることがあります。
例えば、パートナーからDVを受けても別れない、詐欺でお金をとられても友達でいる、職場でハラスメントを受けても辞めない、といったような感じです。

闇バイトに手を出してしまい、いつのまにか、悪のグループの手下になっていることもあります。



7 心配性で不安になりがち

ASDの人は、想像力を働かせるのが苦手と言われています。辛い状況では、それが良くなっていくというイメージを広げられません。何かトラブルにぶつかると、最悪のことばかりが頭に浮かんで、不安になります。
冷静に解決策を考える気持ちの余裕は出てきません。ひどいとパニックを起こす場合もあります。周りの人からは、心配性でいつも不安を抱えているように見えてしまうのです。



8 ASDの60%近い人がADHDも合併している

大人の発達障害でもう一つ代表的なものが、ADHD・注意欠如多動症です。不注意、落ち着きのなさ、衝動性があるため、大人になってからも、「おっちょこちょい」「時間を守れない」「片付けができない」「計画性がない」といった問題が起きます。
最近のアメリカの調査では、ASDの人の約60%に、ADHDの症状が見られることが分かってきました。どちらも脳の報酬系という部分に問題があるので、両方が合併することは当然のことなのです。

精神医学では、最も大きな症状を通して病名をつけます。ASDと診断されている人でも、その半分以上には、不注意、落ち着きのなさ、衝動性といったADHDの症状も見られるのです。自分は、ASDかADHDか分からないと言う人も多いのですが、それは両方がいっしょにあると考えたら良いでしょう。



9 HSPの中にはASDが多く含まれている

HSPとは、ハイパー・センシティブ・パーソンの略で、生まれつき感覚の敏感な人を呼ぶ心理学用語です。感覚の敏感な人が、どのような心の傾向をもっているかを研究したことから始まったものですが、いつしか自己啓発本やネットで取り上げられるようになり、社会でも広く知られるようになりました。「繊細さん」とも呼ばれています。あくまでも心理的な傾向を説明するものなので、障害ではありません。

ASDには、音・光・臭いなどの刺激に敏感な感覚過敏という症状を持つ人がいるため、それだけを取り上げるとHSPに含まれてしまいます。HSPと思っている人の中には、ASDがかなり含まれているということです。「病院でASDと診断されているけれど、本当はHSPだと思う」という人がいますが、そうでなく両方あると考えるべきでしょう。


こうしたASDの症状を見ていくと、仕事の効率や実績が最優先される現代社会では、とても生きづらいことを理解できたかと思います。それだけでなく、本人は一生懸命頑張っているのに、「努力していない」「辛いことから逃げている」と、誤解される場面も多くあるでしょう。
生まれつきの脳の仕組みからそうなっているので、努力で大きく変えられるものではありません。背伸びをして社会の歯車に合わせていると、自分が壊れてしまうことがあります。人の価値は、能力や仕事の実績で決められるものではありません。周りと比べることなく、自分なりの生き方のペースをつかめることが大切です。


2023.12.06

うつ病と完全主義

一昔前、うつ病と性格の問題が論じられた時期がありました。「うつ病になるのは性格の問題ではないか?」という議論です。特に、「メランコリー親和型」と呼ばれる、几帳面で融通がきかない性格の人がうつ病になると考えられていました。

例えば、仕事の環境が変わった時に、自分のやり方を頑固に変えないために、神経をすり減らしてうつ病になるというのです。その後、うつ病が世界中に広がるようになり、単に性格の問題だけで解決できないことが分かりました。現在では、うつ病は誰でもなる病気と考えられています。


しかし、完全主義とか、完璧主義と呼ばれる性格が、うつ病になりやすく、またうつ病をこじらせてしまうということが知られています。完全主義とは、簡単に言うと、何事もいいかげんに済ませられず、気になることをとことん追求してしまうことです。


目的に向かって自分をコントロールするので、高い目標を掲げて、それに向かってあきらめないところは社会的に成功するでしょう。しかし、失敗に過敏すぎることや、他人からの評価を気にしやすいところでは、メンタルヘルスに悪い影響があり、うつ病を発症しやすくなります。

また、うつ病を発症すると、完全主義がつよくなる傾向もあります。病気を素直に受け止めることができずに、病気と葛藤してしまい、回復を遅らせてしまうことも出てくるでしょう。


完全主義の傾向は、「誠実さ」という生まれつきの性格が根っ子にあるので、大きく変えることができません。心配事や不安に対して、本来は受け流すべきところを、完全主義の行動をとってしまうためにこじれてしまうのです。完全主義が悪いというのでなく、方向性を修正すれば良いだけのことです。


今回は、うつ病で療養中の人に向けて、完全主義を修正する5つの方法を紹介しましょう。もちろん、うつ病の発症や再発の予防にもなる内容です。





1 気持ちや体調に素直になる

完全主義の人は、自分の素直な気持ちや体調よりも、理想や計画を優先しがちです。ところが、うつ病になると、まるで天気のように気分や体調が移り変わるために、理想や計画が思い通りになりません。「明日はどうしても会社へ行く」と予定を立てても、それができなくなることが多いのです。そんな時に、這ってでも会社へ行こうとするのが完全主義です。

これでは病気は治りません。「疲れている時は休む」「やりたくないことはやらない」「できないことは断る」と、自分の気持ちや体調に素直になることが、うつ病の予防や回復に必要です。


病気ほど自分の思い通りにならないことはありません。思い通りにならないことは、完全主義の人にとって最も苦手なことです。病気になってしまったならば、「病気なのだから、できなくて当たり前」と開き直って考えるようにしましょう。闘うよりも、開き直った方がうつ病の回復は早いものです。



2 良いところだけを見て自分を評価する

うつ病で療養していると、日々どれだけ良くなっているのかは、とても気になることです。心の病気の回復は、血液検査などの数字で測ることができないので、生活を観察しながら、自分で評価するしか方法がありません。

ところで、評価の点数をつける方法には、加点方式と減点方式の2通りがあります。加点方式とは、私たちが学校で受けて来たテストのように、できた分だけ点数をつけてもらうものです。減点方式とは、スポーツのパフォーマンスを評価する時のように、最初の持ち点からミスのたびに減点されていくものです。

加点方式は、その人の長所が目立ち、減点方式は短所が目立ちます。うつ病の人は、減点方式で自己評価をしやすく、自分の短所ばかりを拾い上げて落ち込む傾向があります。例えば、「今朝は寝坊した」「風呂に入れなかった」「買い物をしすぎた」など、自分の失敗を減点方式で評価して、自分を責める材料にしてしまいます。これでは、病気をさらに悪くさせてしまうでしょう。減点方式で自分を評価してはいけません。


そうでなく、「散歩ができた」「友人と会っても疲れなかった」「朝まで続けて眠ることができた」という感じに、良かったことを足し算して自分を評価するようにしましょう。良い思い出ほど忘れてしまうので、ノートやスマホに記録をとるのが良いかも知れません。

ただし、毎日こと細かく記録をつけてしまったら、それこそ完全主義です。うつ病の回復は、ゆっくり月単位くらいのペースですから、毎日では大きな変化はありません。良かったことがあった時だけ記録するとか、通院の日の前くらいに1ヶ月間を振り返って記録するという感じで良いと思います。



3 困ったら「まあ、いいか」と唱える

何かうまくできないことがあったら、そこで考え込むのでなく、とりあえず「まあ、いいか」と唱えてみましょう。「それができないから困っているんだ」と反発する声が聞こえてきそうですが、実は、うつ病の治療で最も多く使われているSSRIという薬は、ネガティブな考えの連鎖を止める効果があります。脳のセロトニンという物質が増えることで、自然に「まあ、いいか」となっていくのです。

ですから、困った時に「まあ、いいか」となれることは、うつ病を治すための本質とも考えられています。自分からも、「まあ、いいか」の癖をつけるようにして、治療の効果を高めましょう。





4 60%主義

世の中では、「一生懸命」「全力投入」が良いことのように言われますが、これも完全主義の一つです。うつ病を経験しているならば、何事も60%主義で取り組みましょう。これは、怠けではありません。頑張っているけれども、余裕もあるという感じです。今日やらなくて良いことは、別の日にやるように、毎日余力を残して生活するのです。その分、心を落ち着かせる時間を持ちましょう。



5 人と比べない

完全主義の人は、他人と比べる傾向があります。自分なりに頑張っていれば満足できるのではなく、他の人が自分より良い結果を出しているならば、「自分は頑張っていない」「努力不足」と判断します。比べて劣っていることを通して、自分を「ダメな人間だ」と責めてしまうのです。

人と比べないように、相手がどんなにキラキラ輝いていても、無視するようにしましょう。視界に入ってくると必ず意識してしまうので、輝いている人が視界に入って来ないように努力するべきです。


スマホを通して、SNSの情報が簡単に目に入ってきます。自分の成功をアピールしたい人ほど情報を発信しますので、うつ病で自信喪失している人には悪い刺激になります。SNSも関わらない方が良いのです。


うつ病によくない完全主義を修正する方法を説明しましたが、そこで「完全主義を克服する!」と、思うこと自体が完全主義になってしまいます。まずは、完全主義がうつ病に悪い影響を与えていることを意識することから始めましょう。

また、何かをやり過ぎていないか、こだわり過ぎていないか、周りの人の意見にも耳を傾けることが必要です。


2023.11.29

知ってほしいADHDの症状

注意欠如多動症とは、落ち着きがなく、その場の思いつきで行動するために、生活に生きづらさを感じてしまう障害です。子供の頃に発症する発達障害の1つで、略してADHDと呼ばれています。

そもそも、子供は落ち着きがないものですが、小学校に入る頃には、おとなしく座って先生の話を聞くことができるようになります。ところが、学年が上がっても、静かに座っていられず、隣にちょっかいを出したり、足をバタバタさせたり、ジッとしてられない場合はADHDの可能性があります。昔は親のしつけの問題と考えられていましたが、脳の発達の問題があることが分かってきました。


ほとんどの場合、落ち着きのなさは、中学生になると個性の範囲に収まるようになり、社会生活に大きな支障はなくなります。ところが、大人になっても、目の前のことに集中できず、頭の中はとりとめのないことを次から次へと考える、といった症状が残る人もいて、これが大人のADHDと呼ばれるものです。

大人のADHDは、職場で不注意なミスを連発したり、異性関係やお金のトラブルを繰り返したり、社会生活に支障が出るケースもあります。周りの人と同じようにできないことから、自信を失ってしまうこともあるでしょう。「だらしない人」と誤解されることも多く、生きづらさを感じています。


今回は、生きづらさの原因となる症状を中心に、知って欲しい大人のADHDの8つの症状について説明しましょう。





1 将来を考えずに行動する

イソップ童話の「アリとキリギリス」はご存知ですか?夏の間、冬に備えてコツコツと働いて食べ物を蓄えるアリと、冬の準備よりも夏を楽しんでいるキリギリスの話です。冬になって、キリギリスは遊び過ぎたことを後悔します。

ADHDの人は、キリギリスのように、将来のことよりも、今の満足を優先して物事を決める傾向があります。結果がどうなるかを考えずに行動するのです。最終的にうまく行くこともありますが、キリギリスのように失敗や挫折を経験することがあります。

最近のニュースでは、儲け話にのって借金をつくったり、その場の勢いで不倫をしたり、取り返しのつかない失敗をする有名人がいます。築き上げてきたキャリアを一瞬で壊してしまうようなことをなぜするのだろうか?と疑問に感じますが、これはADHDの特徴的な行動なのです。



2 分析するのが苦手

注意を絞ることが苦手なため、ちょっとしたことで気が散りやすく、周りの出来事を短絡的に理解します。物事を深く考えて分析することができず、自分の失敗の原因を修正することも苦手です。これが原因で、同じ失敗を何度も繰り返します。



3 同じ失敗を繰り返す

向こう見ずであったり、分析が苦手なため、同じ失敗を何度も繰り返します。学校で先生から叱られても遅刻や忘れ物の常習犯になってしまいますし、職場でも同じミスばかりで、「反省しない人」と周りは呆れてしまいます。

実際は、反省しないのではありません。痛いほど反省しているし、むしろ、できないことで自信を失い、「ダメな人間だ」と自分を責めているのです。子供の頃から、これを繰り返して、ネガティブになっているADHDの人も多くいます。中には自分を責め過ぎてうつ病になる人もいるでしょう。



4 素直に間違いを認められない

よく考える前に、感情や行動が先走ってしまう傾向があります。間違いを指摘されると、自分が間違っていることを理解できても、その場で感情をおさめることができません。つい反抗的な態度をとってしまい、相手に不快な思いをさせてしまいます。「気がつよい」「素直でない」と言われてしまうでしょう。





5 傷つきやすい

子供の頃から、失敗や挫折の体験が多い人は、心が傷つきやすくなっています。また、失敗することに敏感になり、「どうせうまくいかない」と諦めが早くなっていることもあるでしょう。はたから見ていると、「根気がない」と悪い評価をつけられてしまいます。そうではなく、失敗で何度も嫌な思いをするのを恐れているのです。



6 空気が読めない

「空気が読めない」というと、自閉スペクトラム症の代表的な症状と考えられていますが、実は、ADHDにも見られるものです。自閉スペクトラム症の人は、周りに注意を向けられないために空気を読めないのですが、ADHDの人は、必要な情報だけに注意を絞れないために状況を読みとることができません。

場の雰囲気を理解できないために、新しい職場で緊張したり、不安になりやすいという傾向があります。



7 時間の感じ方が独特

ADHDの人には、遅刻が多いことや、物事を先延ばしにしてしまうことが知られています。普通なら時計やカレンダーを意識しながら、自分の行動を合わせますが、「気づいたら時間が経っていた」と言う感じに、意識から時間がなくなっています。時間の感じ方が独特であると考えたら良いでしょう。



8 躁うつ病と診断される場合もある

ストレスで心が不安定になると、落ち着きのなさ、衝動性などの症状がより目立つようになります。職場で仕事が多かったり、家庭で心配事が多いと、症状が激しくなるのです。

中には、ほとんど眠らないで、1日中落ち着きなく行動するようになってしまい、ふだんの仕事や生活ができなくなるケースがあります。この場合は、躁うつ病と診断されます。躁うつ病とは、双極性障害、双極症とも呼ばれ、気分の激しい波を繰り返す病気です。躁うつ病とADHDは似ているところが多く、神経的にも共通点があると考えられています。


大人のADHDの1番の生きづらさは、失敗を繰り返してしまうことと、周りから反省しない人と誤解されることです。失敗を繰り返すのは、神経の特性として仕方がありません。本人も一生懸命なのに、周りからは、「だらしない」「努力が足りない」「親のしつけが悪かった」とネガティブに評価されてしまうのです。

最後に、このような生きづらさへの解決方法を簡単に紹介しましょう。何よりも、家族や同僚にADHDの特性を理解してもらうことが大切です。努力してもできないのであって、怠けているのではないと理解してもらい、細かいスケジュール管理、片付けなど、苦手な部分はサポートしてもらいましょう。

時には、経済面での援助も必要になることもあるでしょう。「いい年して親に生活の面倒をみてもらっている」「いつまでも親にお金の援助をしてもらっている」でも良いのです。 

ただし、異性問題とお金のトラブルには注意が必要です。不倫や借金は社会的なダメージがとても大きく、周りからのサポートにも限界があります。ましてやサポートしている家族を裏切るようなことをしては行き場がなくなります。
 
また、ストレスで心が不安定だと、より症状が出ると説明しましたが、逆に言うと、落ち着いた環境では、症状は目立たなくなります。子供の場合は、親が落ち着いて対応するとADHDの症状も落ち着きます。

大人の場合も、仕事でミスを連発する場合は、仕事のプレッシャーを減らす、仕事量を減らす、職場のコミュニケーションを良くするなど、職場を過ごしやすくして解決することがあります。特性ですから、自分は変わることはできませんが、安心して気持ちよく働ける場所ならば、自分の能力を発揮できるようになります。

また、落ち着きのなさや衝動に対して薬の治療があります。トラブルが多い場合は、薬の治療を利用することも良いでしょう。


2023.11.10

「親の資格」って?

児童相談所への虐待の相談件数は年々増えており、年間20万件を超えています。国の政策にも関わらず、未だに減る様子はありません。事件を起こした親は、「親の資格がない」と非難されて当然ですが、「親にも資格制度をつくった方がいいのではないか?」という声までも聞こえてきます。冗談のようですが、親からの冷たい仕打ちに耐えて来た人の中には、真面目にそう考える人もいるのです。
 
資格とは、その分野での知識や経験があり、願われた仕事をやり遂げる能力があることの証明です。人にとって重要な子育てに資格があるならば、どのような内容であるべきでしょうか?

今回は、親の資格について考えてみましょう。





1 親の資格を決めるのは子供

子供の頃に親から愛されず、親子の情的な関係を築けなかった人は、大人になってからも自分に自信をもてません。人を信頼することができないために、対人関係を良好に保つことが苦手で、社会に出てから苦労が絶えません。これを大人の愛着障害と呼んでいます。

また、子供の頃に虐待やネグレクトなどを受け続けると、トラウマを一生背負うようになり、積極的な生き方ができなくなります。これは複雑性PTSDと呼ばれています。

アダルトチルドレンと呼ばれる人たちは、親が暴力をふるったり、情緒が不安定であったために、子供時代に自分の気持ちをいつも封じ込めてきました。我慢する習慣は、心の根っ子に染みついていて、大人になっても自分の気持ちを素直に出せません。

このような恵まれない親子関係で育った人は、大人になって苦労を感じる度に、親への恨みが湧いて来ます。周りの人は親から普通に与えられたものを、自分は与えられなかったと苦しみ、自分の親には子供を育てる資格がなかったと感じるでしょう。

このように、産まれた子供が犠牲になって、親に資格がなかったことが分かります。結局、親の資格を審査できるのは子供です。



2 親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できること

自分の親に資格がないという言う人は、親から暴力を振るわれた、家に居場所がなかった、お金で苦労した、などの苦しい体験をしてきました。こうした人たちの話を聞いていくと、辛い経験に共通してあることは、「親に苦しい気持ちを理解してもらえなかった」という点です。親は自分のことを優先して、子供のことを犠牲にしてきました。子供としては、親の犠牲になって、辛い思いをさせられたことを理解して欲しいのです。

こうして考えてみると、親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できることと言えるでしょう。





3 親の資格の有無は、変わることがある

一つのケースを紹介しましょう。産後に病気になってしまい、子育てが十分にできなかったお母さんがいました。子供に何もしてあげられず、怒ってばかりでしたので、子供は成人すると「親の資格がない」と言い残して、サッサと家を出て行ってしまいました。

お母さんは、子育てができなかったことを後悔しましたが、病気でしたから仕方がありません。せめてもの謝罪の気持ちで、出て行った子供の口座に、毎月ささやかなお金を振り込み続けました。その後、子供は家庭をもち、子育ての難しさを知りました。徐々に親の苦労が理解できるようになり、お母さんに対する「親の資格がない」という気持ちはなくなったそうです。

このケースのように、「親の資格がない」と子供に突き放された親でも、あとから挽回して、それを撤回してもらうこともあります。これとは全く逆で、良いお母さんと言われた人が、遺産相続で子供と争い、年老いてから「親の資格がない」と言われることもあります。遺産を独り占めにしたために、子供から悪いレッテルを張られてしまったのです。

このように、親の資格がある、なしの審査は、子育ての期間だけでなく、一生続くと覚悟しなくてはならないのです。



4 親の資格は、内面的なもの

いつの時代も、「子供を東大に入れた」、「子供を有名なスポーツ選手にした」と、子育ての成功を本にしたり、講演をする母親がいます。世間はすばらしい親と讃えますが、数十年たって、その家族が絶縁しているということも良くある話です。

そもそも、人の成功は、親の育て方よりも、遺伝的に生まれ持った才能の影響が大きいと言われています。子供の成功は、親の手柄ではありません。

子供のためにと考えて、お金をかけて英才教育をしたものの、子供に恨まれてしまうこともあります。親の価値観が、そのまま子供の価値観と同じとは限らないからです。

親の資格として、子供にお金の不自由をさせない、よい教育を受けさせる、習い事をさせてあげる、といった表面的なことも大切ですが、それが本当に子供のためになっているのか、常に考えなくてはいけません。

一方的な親の価値観の押し付けの場合があるからです。貧しくても、子供の気持ちを理解できている親の方が子供に感謝されます。親の資格はあくまでも内面的なものです。


子供の苦しい気持ちを理解できることが、親になる資格と言いましたが、人の気持ちを理解する能力は、人によって異なります。ある程度生まれつき決まっている能力なので、できない人に「気持ちを分かれ」と言ってもできません。

しかし、子育てを通して、子供の気持ちを理解する力が少しずつ身についてくることもあります。分からないなら、分からないなりに、子供ために一生懸命努力を続けることが大切です。

「自分にはできない」と思ったら、人を頼ることもしましょう。子供の気持ちが分からないという人でも、つねに子供のために心を注ぐことができ、子供を優先して考えているならば、親の資格があると言えるのではないでしょうか。


2023.10.24

無価値感が心に染みついてとれない人の6つの特徴

大失敗をした後、自分を責めてしまい、「自分は必要のない人間だ」と感じる人がいます。このように、自分に生きる価値がないと感じることを無価値感と呼びます。自己肯定感の真逆の感情です。大きな挫折や大切な人を失った時に一時的に感じることがありますが、健康な人ならば普段は感じることはありません。

無価値感は、うつ病の症状として現れることがあります。これは、思い込みや被害妄想に分類されるもので、病気になるまでは自分の価値について考えなかったような人が、「自分は罪深い」、「生きている価値がない」と自分を責めてしまう状態です。

ところが、うつ病とは診断できないのに、子供の頃からいつも「自分は必要がない、いらない存在だ」と考えてしまう人もいます。心の中には、つねに自分を否定する感情がうずまいていて、そのために生きづらさを感じている人です。無価値感が染みついてしまった原因は、子供の頃の否定された経験の積み重ねと考えられます。

死別や離婚で親を失った、親や学校の先生からいつも否定的な言葉をかけられてきた、クラスメートからいじめを受けてきた、こうした辛い体験の積み重ねから起きているのです。愛着障害とか複雑性PTSDという診断がつけられる場合もあります。

今回は、このように無価値感が心に染みついてとれない人の6つの特徴について説明しましょう。





1 人の役に立っていないと気がすまない

自分に生きる価値がないと感じているので、努力して人の役に立とうとします。人の役に立っていないと自分に価値を感じません。何かに役に立っている状況が続いていれば安心を感じますが、それができなくなると消えてなくなりたいと感じます。

無理をしてでも人に役に立とうとするので、うつ病や適応障害などの心の病気になりやすい傾向があります。病気になっていつものことができなくなると、自分の生きている意味を失い、自死を考えてしまうこともあるでしょう。



2 人の気持ちに敏感

自分に価値はないと思っているので、他人の評価が、そのまま自分の価値です。どう思われているか、いつも気になっています。人と会うと、よく思われようと気を遣い過ぎて疲れます。



3 うまく行っている人と比べて自分を責める

自分の価値に敏感なので、無意識に人と比べてしまいます。輝いている人、うまく行っている人と比べては、自分には価値がないことを責めます。SNSには成功を自慢する人が多いので、それを見るたびに気持ちが落ち込みます。





4 どうせ何をやってもうまく行かないと思う

よい仕事に出会ったり、人を好きになっても、どうせうまく行かないと思います。ですから、仕事でも恋愛でも積極的になれません。幸せを感じても、すぐに壊れると感じます。



5 自分の成功を認められない

仕事でそれなりの実績を積み上げた人であっても、自分の力で成功したとは思えません。たまたまうまく行っているだけと考えます。謙虚というわけではなく、自己評価が低すぎるのです。褒められても、嫌味に聞こえてしまうことがあります。ですから、新しい仕事を託されると、うまくできる自信がないために、不安で仕方ありません。

周りから実力を認められ、職場でよいポジションを与えられても、「実力がないのに周りを騙している」と感じる場合もあります。これを「インポスター症候群」と呼びます。「インポスター」とは詐欺師という意味です。



6 完全主義

柔軟な発想ができず、物事を白か黒で判断する傾向があります。そのために、よくない出来事があると、自分が原因であると感じ、徹底的に自分を追い込みます。よくない出来事が起きるたびに、自分には価値がないという考えが確信となるでしょう。この悪循環でいつまでも無価値感から抜け出せません。


うつ病の症状で無価値感を感じる場合は、薬の治療で改善されて行きます。しかし、子供の頃からずっと無価値感を感じている人は、愛着障害とか複雑性PTSDという病名がつけられて、確実な治療方法がありません。

最近はポジティブ心理学が流行しているので、物事をポジティブに考えれば解決するようなアドバイスを受けやすいのですが、無理やり自分に価値があると言い聞かせても変わりません。また、インポスター症候群のように、何か成功をして、人から認められたら改善されるものでもありません。努力して解決できるものではないのです。

それでは、どうしたら無価値感から抜け出せるのでしょうか?実は、変わろうとする努力ではなく、癒されることが必要なのです。自分を肯定する感情、すなわち「生きていていいんだ」と感じることは、誰でも生まれつき備わっているものです。

ところが、子供の頃に生きることを否定され続けたので、自分を肯定する感情は抑え込まれてしまいました。時間はかかりますが、生きることを楽しむことを通して、本来の自分を肯定する気持ちが少しずつよみがえってきます。信頼できる人と話ができる、ペットとふれあう、趣味に興じる、こうした日常の安らぎや楽しみを経験することで癒されていきます。特に信頼できる人との出会いは大切です。いっしょにいて安らげるパートナー、友人、カウンセラーの存在はとても大きい力となります。