気分変調症ってどんな病気?

うつ病は、元気に生活していた人が、気分が落ち込むようになり、生活に支障が出てしまう病気です。ところが、いつ発病したか記憶になく、物心ついた頃からずっと気分が落ち込み、自分は必要のない人間であると思い続ける病気があります。

これはうつ病とは違い、「気分変調症」・「持続性抑うつ症」という病気です。子供や学生の頃に発病することから、「子供の頃からずっと死にたかった」と訴える人もいます。


軽いうつ病と同じような症状ですが、学校や職場には行けるので、病気というよりも性格と考えている人もいます。昔は、「抑うつ性人格」と呼ばれていた時代もありました。

軽いうつ病の症状が、2年以上続いている場合に診断がつけられます。実際に病名をつけられる場合は、気分変調症と言う言葉よりも、分かりやすいので、うつ病と言われることが多いかも知れません。しかし、正確には、うつ病とは近いものでも、違う病気として分類されています。


実は、とても多い病気で、人口の5%に見られるという調査結果もあります。ところが、性格の問題と考えてしまい、辛くても治療をしない人がたくさんいます。

今回は、気分変調症とはどのような病気か説明しましょう。





1 子供の頃から死にたかった

「気分変調」という言葉は、そもそも不機嫌という意味から来ています。周りの人からは、病気というよりも、いつも機嫌が悪い人とか、無気力な人に見られます。いっしょに生活している家族から、「暗い」、「不愛想だ」、「元気を出しなさい」と叱られることもあるでしょう。

学校や職場には行けますが、「気づいた時からずっと落ち込んでいる」と訴え、自分には生きる価値がないと考えています。いつも元気がなく、何かに熱中することもありません。

繊細で、周りの人の言動に敏感に反応することもあり、感情的になります。そのために、学校や職場でトラブルを起こしたり、ひきこもりになることもあります。

「子供の頃から死にたかった」というように、子供や学生の頃に発症し、大人になっても同じ状態がずっと続きます。自然に良くなることもありますが、治療をしないで、一生涯そのままの人もいるでしょう。



2 病気と気づくまでに10年くらいかかる

若い頃から病気の中にいるために、元気がないのが病気であるとは、自分も周りも気づきません。病気と気づいて受診するまでに、10年くらいかかる人が多いと言われています。原因が分からずにひきこもりになっている人の中には、気分変調症の人がたくさん含まれているとも考えられています。



3 子供の頃に失望体験がある

気分変調症の原因はまだ十分に分かっていませんが、子供の頃に失望した体験が原因であるという説があります。人間関係で傷ついたことが、その後の性格形成に何らかの影響を与えたのではないかというのです。子供の頃の辛かった体験を通して、「自分は必要のない人間である」、「誰も助けてくれない」、「一生幸せになれない」といった、ネガティブな考え方が、心に染みついてしまったのかも知れません。





4 治療は長くかかる

子供の頃の心理の問題が影響していることから、治療は、カウンセリングが中心になりやすい傾向にあります。しかし、抗うつ薬の治療に大きな効果があるので、医師から薬を勧められたら積極的に飲むようにしましょう。

抗うつ薬の力で気持ちが楽になると、社会との接点も増えてきます。それを通して、楽しみが増え、生活が良い方向に向いてくると、自己肯定感も改善されます。このように、薬を飲むことをきっかけに、生活の良いループに入ることが、最も回復につながります。

ただし、1年間の治療で良くなるのは、10%くらいと言われており、治療には何年間もかかります。「どうせ長くかかるなら、治療を受けなくても良い」と考える人もいますが、時間はかかっても、治療を受ければ回復しますので、放置するのは良くありません。



5 うつ病や双極症になることがある

気分変調症の人の経過をたどってみると、20%の人がうつ病になり、15%が双極Ⅱ型障害になるという調査結果があります。気分変調症に、うつ病や双極Ⅱ型障害が重なるケースはとても多いのです。むしろ、気分変調症だけでは、病気と気づかなかったのに、うつ病や双極Ⅱ型障害になったことがきっかけで、精神科に通うようになったという人もいます。

また、うつ病の診断で、2年以上精神科に通院している人がいますが、その半分近い人に気分変調症があるという調査結果もあります。


大きな原因もなく、若い頃から生きる価値を感じられていない人は、気分変調症の可能性があります。うつ病のようですが、うつ的な暗い性格と間違ってしまう病気です。

ずっと性格の問題かと思っていて、30才、40才になってから病院へ行って、抗うつ薬を飲んだところ、生活がとても楽になったという人もたくさんいます。長い間、「性格の問題では?」、「親子関係の問題では?」など、苦しんでいた気持ちが、薬1粒で良くなるというケースもあるのです。


ただし、薬は長く飲む必要があります。特に大きな副作用はありません。精神科の薬に抵抗がある人も多いのですが、治療が面倒な手術やリハビリでなく、「毎日1粒の薬を飲むだけで人生が楽になるならラッキー」と、考えてはどうでしょうか?


苦労が心の豊かさとして実るために

世の中には、何をやってもうまく行く人と、何をやってもうまく行かない人がいます。誰だって、何でもうまく行くようになりたいと思います。しかし、残念ながら人は生まれた時から平等ではありません。才能を持って生まれる人、お金持ちの家に生まれる人など、生まれた時から出発するところが違います。

徒競走で例えると、ゴールの近くからスタートできる人から、遠いところからスタートしなくてはならない人がいるようなものです。スタート時点が違うので、同じ幸せを手に入れるためにも、楽できる人もいれば、苦労する人もでてくるでしょう。

苦労が多すぎれば、「なんでこんな酷い目に会うのだろう」、「こんな人生に価値はない」と、恨みになることもあります。しかし、人より苦労することは決してマイナスではありません。苦労は心の豊かさにつながります。苦労が心の成長を促し、その人の魅力として実ることがあるのです。


今回は、オーストリアの精神科医・フランクルの言葉を通して、苦労が心の豊かさとして実るために必要なことを紹介しましょう。

フランクルは、アウシュビッツ強制収容所に収監されながらも生還した人です。ガス室で処刑される不安、過酷な労働、兵士からの暴力、栄養失調、チフスの流行、寒さという、あらゆる地獄を経験しました。そうした極限の状況で、自分や収容所の人の心の動きを客観的に観察し、1946年に「夜と霧」という本を発表しました。そこには、絶望が人を滅ぼすこと、生きる目的をもつ人は、過酷な環境でも耐えられることが描かれています。現在、生きる意味に注目するフランクルの心理療法は、ロゴセラピーと呼ばれています。





1 希望がない苦労は、心に悪い影響がある

すべてを失い、抵抗もできない強制収容所の人の多くは、感情を失い、無反応、無気力になりました。辛いことでも、いつまでに終わると分かっていれば、我慢することができます。収容所の人たちは、「クリスマスには解放されるだろう」と楽観的な希望を持ち、耐えていました。しかし、苦労がいつまで続くか分からなくなった時に、すべての希望を失います。実際には、クリスマスを過ぎても収容所の様子は変わりませんでした。

すると、それから数日の間に、処刑されたわけでもないのに大量の死者が出ました。直接の原因は、チフスであったり、栄養失調であったかも知れませんが、絶望によってたくさんの命が尽きてしまったのです。

人は、絶望によって滅びてしまいます。心が動かなくなるだけでなく、内臓の動きや免疫力も低下することによって、生命を維持することもできなくなります。希望がない苦労は、心に悪い影響しかありません。



2 苦労の意味を見つける

フランクルは、生き残って、収容所の体験を発表することを夢にもちました。極限の状況の人々の心理を研究し、それを将来に残すことを使命に感じたのです。このことを希望として、過酷な生活を耐え抜きました。

収容所の中には、自分のことよりも、他人を優先する人もたくさんいました。極限の状況でも、弱っている人を励(はげ)ましたり、食べ物を分けて与える人もいて、フランクルも生きる力をもらったそうです。こうした人たちは、収容所生活に何か自分なりの意味を見出していたと言います。

苦労の中でも、何か自分なりの意味を見つけようとする人は、苦労が無駄になりません。苦労の意味は、その時は分からなくても、後から理解できることもあります。また、自分のためにというより、身近な人や世の中に役に立つことを使命として考える人は、苦労が心の成長につながると言うのが、フランクルの考えです。





3 名もなき人の生き方が偉大

ここで、うつ病で長年闘病中のAさんの話を紹介しましょう。

Aさんのお父さんは早くに亡くなり、年老いたお母さんと2人で生活しています。兄弟たちはそれぞれに家庭を持ち、今は遠いところに住んでいて、ほとんど会う機会もありません。Aさんは、何で自分だけ貧乏くじを引いてしまい、こんな苦労をしなくてはならないのか不満です。「若い頃から病気で何もできず、いまでも家族に迷惑ばかりかけている。そんな人生に意味などない。」と、いつも考えています。

先日、お母さんがケガで入院することになりました。Aさんの体調も良くなかったのですが、遠方の兄弟を頼ることもできず、入院の付き添いをしました。その時、お母さんの口から、「いつも近くにいてくれて、1番親孝行な子供だと思う。」と、感謝の言葉をもらいました。早くに夫をなくして、心細かったお母さんにとって、Aさんはいつも大きな存在だったと言うのです。

1番お母さんの役に立っていたのは、成功して立派に働いている兄弟たちでなく、病気で何もできない自分だったことを知って、Aさんは嬉しく思いました。自分の人生にも意味があったのだと感じ、気持ちが楽になったそうです。

良心的に生きている人は、気付かないうちに、必ず誰かの役に立っています。フランクルは、「名もなき人の生き方が偉大」と呼びました。何か大きなことを成功させて世の中に貢献する人たちは立派ですが、ささやかに暮らしている名もなき人たちの生き方にも、必ず意味があると言うのです。むしろ、良心を持っているひとりひとりが、世の中を良い方向に進ませているのであり、大きなことを成し遂げる人は、それを代表しているだけのことであるというのが、フランクルの考えです。




どんな時も、人生には意味がある。
あなたを待っている「誰か」がいて、あなたを待っている「何か」がある。
そして、その「何か」や「誰か」のために、あなたにもできることがある。

これは、フランクルが残した多くの言葉の中のひとつです。ここには、フランクルの思いが詰まっています。もしかすると、何かきっかけがあったときに、ふと思い出すことがあるかもしれませんね。


心が苦しいと身体が痛くなる?心因性の痛みとは

頭痛、腹痛、腰痛など、体の痛みを感じた時はまず整形外科や内科を受診します。ところが、検査でも異常が見つからず、きちんとした病名もつかないまま、痛み止めだけ処方されたという経験はありませんか?これで良くなれば問題ないのですが、中にはいつまでも痛みがとれず、別の医師を訪ねる人もいます。

改めて検査をしても、異常が認められません。それだけでなく、「心の問題なので精神科へ行ってください」と医師から告げられてしまう場合があります。「実際に痛いのに、何で心の問題なのだろう?」と腑に落ちません。

病気の原因が心の問題であることを心因性と呼びます。痛みの訴えで整形外科や内科を受診する人の10~20%は心因性である、という調査結果があります。

「病は気から」という言葉があるように、実際に感じる痛みも気のせいなのでしょうか。気の持ちようで痛みは消えるのでしょうか。


今回は、心因性の痛みについて、その原因と対応の仕方について説明します。





1 心因性で現れる痛みの種類

原因が分からない痛みは、体のいたるところに起こる可能性があります。例をあげると、頭痛、顔面痛、頸部痛(けいぶつう)、肩や肩関節痛、腹痛、腰痛、陰部痛などがあります。検査で異常が見つからず、痛み止めがほとんど効かない場合、心因性と診断されます。

特に、痛みが慢性化した場合を慢性疼痛(まんせいとうつう)と呼びます。原因不明の痛みで代表的な病気は、線維筋痛症と慢性疲労症候群です。線維筋痛症では、関節以外の筋肉などに痛みとこわばりが現れます。痛みは首・肩に多いのですが、手足腰にも起こり、痛みのツボのような圧痛点があることが特徴です。
慢性疲労症候群は、新型コロナやインフルエンザなどのウイルスの病気にかかった後に疲労感がとれなくなる病気です。

どちらも慢性的な痛みにより日常生活ができなくなります。それだけでなく、疲労感、不眠症、うつ気分といった症状もみられます。しかし、未だに原因は解明されていません。うつ病との区別も難しく、心因も関わっている可能性があると考えられています。


2 不快な感情が痛みとして現れる

心の中の葛藤が、痛みなどといった体の症状として現れることもあります。これは「身体化」と呼ばれています。原因不明の痛みを訴える人の中には、何らかの絶望感や喪失感を抱えている場合もあるのです。

しかし、不快な感情を気付かぬうちに心の奥底に押し込んでしまうため、体の痛みとして現れるのだろうという考えです。

例えば、「学校でいじめられていると、学校へ行こうとするとお腹が痛くなる」、「嫌な上司の会議がある日は、頭が痛くなる」というのは身体化であると考えられます。





3 心の中の葛藤が体に出やすい体質

喘息やアトピー性皮膚炎はアレルギーの病気です。しかし、症状が心の影響を受けやすいことが知られており、これを心身症と呼びます。そして、心身症の研究を通して、心の状態が体に現れやすい体質の人がいることが分かりました。失感情症(アレキシサイミア)です。

失感情症とは、ストレスを感じても自覚できず、痛みなどの不調になりやすい病気です。感じたことを言葉で十分に表現することができず、まるで感情を失っているように見えることからこの名前が付けられました。

失感情症は、脳の構造に原因があると言われています。具体的には、ストレスの刺激を前頭葉に伝える神経で、何らかの障害が起こっていると考えられるのです。

前頭葉は思考を司る部分です。その前頭葉に刺激が伝わらないため、ストレスを分析して言葉で理解することが難しくなります。その結果、心の葛藤が身体化しやすく、体の痛みとして現れやすくなるということがあります。

失感情症は生まれつき持っている要素も大きく、発達障害の人に多く見られます。また、家庭での虐待や学校でのいじめにより、我慢が強いられていた場合など、子供の頃から自分の気持ちを押し殺す生活を続けていることがきっかけとなることもあります。



4 うつ病で痛みが出る

心因性の痛みをもつ人を調査したところ、80%以上の人がうつ病や不安症といった精神疾患を患っていることが分かりました。

うつ病や不安症になると、痛みを感じる脳の偏桃体という部分が敏感になり、痛みが増幅されて感じられます。また、痛みを抑える前頭葉の神経の効果も弱くなります。

うつ病や不安症になると、脳が痛みに敏感に反応するようになり、本来の痛みの10倍、100倍も強く感じることがあるのです。

これらのことから、心因性の痛みは、背後にうつ病や不安症が隠れている場合も多いことが考えられます。特に失感情症がある場合は、うつ病の心の症状が出にくく、体の症状ばかりが目立つということもあるのです。

うつ病や不安症を理由に痛みが出ているものの痛み止めがあまり効かないという場合、抗うつ薬で効果が出ることがあります。なぜなら、抗うつ薬は脳のセロトニン分泌を増やすことを通して、扁桃体の敏感さを抑えたり、痛みを抑える前頭葉の神経を元気にしてくれるため、痛みを感じにくくなるためです。


心因性の痛みは、単に心の問題だけでなく、脳神経の問題、失感情症という体質の問題など、たくさんの要素が加わっています。

そのため、痛みで辛い思いをしている人に対して、検査で異常がないからと言っても、「気の持ちようだよ」というのは間違っています。心と体の両方から治療が必要なのです。例えば、整形外科での理学療法、麻酔科でのブロック注射、精神科での薬物治療や認知行動療法などを組み合わせて治療を行っていくことが求められるでしょう。

痛みには、無理をしないでゆっくり休んで欲しいと言う心と体からのメッセージが含まれています。また、心の奥底には絶望感や喪失感があるのかも知れません。痛みとは、心が癒しを求めるサインでもあるのです。


うつ病の人が持つ考え方の特徴とは

うつ病は、気分障害とも呼ばれるように、気分の落ち込みの病気です。気分が落ち込めば、物の考え方もネガティブになります。考え方がネガティブになれば、今度は気分も下がってきます。気分と考え方は互いにつながっているからです。気分が下がり、考え方がネガティブになり、気分が下がり、考え方がネガティブになり、という悪いループが延々と続き、うつ病がどんどん悪くなる場合があります。自分の力で気分を変えることは、うつ病の人には難しいため、薬の力に頼るしかありません。考え方に関しては、自分の努力で変えることができる部分があります。

アメリカの精神科医アーロン・ベックは、うつ病の人に特徴的な考え方があることを発見しました。次の3つの思い込みが、心の根っ子にあるというのです。

1つめは、「自分は必要のない人間である」という自分自身のネガティブな評価、2つめは、「世の中は、自分に味方してくれない」という環境へのネガティブな見解、3つめは、「何をやってもどうせうまく行かない」という未来へのネガティブな予測です。この3つを「うつ病因性スキーマ」と呼びます。


うつ病の人は、何かある度に、この3つの思い込みが発動します。例えば、職場の上司に挨拶しても、返事が返って来なかった時にどうなるでしょうか?ふつうならば、「上司は機嫌が悪いのかな?」、「挨拶に気づかなかったのかな?」と考えて、次に会った時に確かめて見ようと思います。

ところが、うつ病の人は、「自分は必要のない人間である」といううつ病因性スキーマが発動するので、「上司は、私のことが嫌いなんだ」と信じ込みます。そして、上司と顔を合わせる度に気分が落ち込むようになり、話をすることも嫌になってしまいます。


うつ病因性スキーマがなくなってくれたら一番良いのですが、子供の頃からの経験によって、心に染みついてしまっている場合も多くあり、消し去ることは大変難しいことです。しかし、これが発動しないようにすることならできるかも知れません。実は、いくつかの考え方の癖が原因で、発動することが分かっています。スイッチになる考え方の癖に気が付くことができれば、うつ病因性スキーマに振り回されないようになるでしょう。


今回は、うつ病の人の考え方の特徴を5つ紹介しましょう。これらによって、うつ病因性スキーマが発動してしまい、気分が落ち込んでしまうという仕組みを知ることは、うつ病を治す上でもとても大切なことです。





1 恣意的(しいてき)推論:証拠がないのに決めつける

例えば、家を出る時に、近所の人がジロジロ見ていたとします。そんな時、「人のことをジロジロ見るなんて嫌な人だ」と思うのが普通ではないでしょうか?ところが、うつ病の傾向のある人は、「私のことを変に思っている」と考え、さらに、「近所の人から嫌われている」と結論付けます。

会話をしていないのだから、相手の考えは分からないのに、ジロジロ見ていたという事実だけで、「自分は必要のない人間だ」という思い込みに直結してしまうのです。



2 選択的抽出:全体を見ないで、部分だけに注目する

友人に料理をふるまったら、美味しく食べてもらえたのか、誰でも気になります。味見をした時に、「味付けが薄かったかな」と不安でしたが、友人は「美味しい」と言ってくれました。友人に褒めてもらったので、もう料理の話題は終わるのが普通ですが、いつまでも味付けのことが気になって仕方がないのがうつ病の人です。

「本当は美味しくなかったのに、無理をして美味しいと言ったに違いない」と勘繰ります。結局、「友人にまずい物を食べさせてしまった」と結論付け、「自分はダメな人間だ」のネガティブに陥るのです。


基本的に、人生においては、失敗したこと、うまくいかないことが重要であり、それで自分が評価されると考えています。ですから、うまく行った事実はスルーして、失敗だけを選んで意識しています。はたから見ていると、まるで自分で自分のあらさがしをしているようです。



3 極端な一般化:少ない経験でレッテルを貼る

例えば、職場の上司が良くない人であるとします。他の社員とは、接したことはないのに、「この会社の人はみんな意地悪だ」とレッテルを貼ります。1つの経験でそうならば、似たような出来事に関しては、すべて同じことが言えると考えるのです。

「1回仕事に失敗したのだから、次の仕事も必ず失敗する」というのも同じです。根っ子に「社会は敵であり」、「未来は不幸である」という思い込みがあるのです。





4 自己関連付け:悪いことは、自分と関連付ける

「家族が病気になった」、「会社がうまく行っていない」といったように、周りで良くないことが起きると、とっさに自分が不幸を招いていると感じます。何の根拠もないのに、周りで起きる悪いことは、自分が原因だと考えるのです。結局、「私がみんなを不幸にしているので、いない方が良い」と結論付けます。



5 全か無か思考:「中くらい」という考え方がない

うつ病になると、1日寝ていることが多く、家事も満足にできません。そのために、「今日も何もできなかった」と後悔する人が大変多くいます。しかし、実際は簡単な掃除くらいはできていることがあります。

元気な頃のように、早起きをして、掃除をして、洗濯をして、料理をして、というパーフェクトな生活をしないと、「何かをした」と評価しないのです。中くらいがないために、小さいことはゼロになって、カウントされません。これを全か無か思考と呼びます。

全か無か思考では、小さな良いことを見過ごしてしまい、自己評価を上げることができません。根っ子にある「自分は必要のない人間だ」という思い込みは、永遠に修正されません。


うつ病の人の考え方を紹介しましたが、共通点があることに気づかれた人もいると思います。それは、物事を証拠がないのに決めつけてしまうことです。客観的な証拠がないのに、「自分は必要のない人間である」、「世の中は、自分に味方してくれない」、「何をやってもどうせうまく行かない」という3つのネガティブな思い込みが発動してしまうのです。

警察から、「お前が犯人だ!」と言われても、証拠がなければ無罪です。それでも捕まってしまうのならば、冤罪になります。同じように、証拠がないのに、ネガティブな考えに振り回されて落ち込むのは、冤罪のようなものです。ですから、ネガティブな考えが浮かんで落ち込む時は、まず、「これは思い込みではないだろうか?」、「本当に落ち込まなくてはいけないのか?」と疑うようにしましょう。そして、落ち込む必要性があるのか、具体的な証拠集めをするべきなのです。

このように、自分の考えが本当に正しいのか、証拠集めをして検証することを認知療法と呼びます。思い込みがつよすぎる場合は、自分の努力で修正できないので、心理士に手伝ってもらうことも可能です。


うつ病を治していくためにやるべき 7つのこと

私たちの体は、呼吸と食事の栄養を通して、エネルギーをつくって生活しています。体と同じように、心にも呼吸や栄養が必要なことをご存じですか?心の呼吸や栄養とは、愛情や喜びを感じるポジティブな体験のことです。そして、これが足りなくなって、生きるエネルギ―が枯れ果てた状態がうつ病なのです。


子供は、食事を与えられただけで、親から注がれる愛情が不足していると、心が正常に育ちません。大人になっても、愛情を受けられない生活を続けていると、健康的な心の営みはできなくなります。愛情とは、いくつになっても、心に不可欠な存在なのです。


大人になってからの愛情というと男女の愛情を想像すると思いますが、それだけでなく、家族、友人、ペット、さらに自然や物など、すべての存在との関係にも愛情があります。そして、愛情があると、安らぎ、幸福感、癒しといった安心感が生まれてきます。この安心感が、心にとっての呼吸のような存在になるのです。


また、心には喜びという刺激も必要です。行動して喜びの刺激を得ると、生きる力が湧いて来ます。喜びは、心にとっての栄養のような存在です。


心は、脳の神経伝達物質の働きによって支えられており、安心感はセロトニン、喜びはドーパミンという物質が関わっていることが分かっています。うつ病とは、セロトニンやドーパミンの分泌が少なくなった状態です。心の観点から見ると、安心感と喜びという栄養が不足してしまい、心が枯れてしまったような状態とも言えるでしょう。



うつ病を治していくためには、安心感や喜びを得ていくことが大切です。そのためには、どのような生活をしたら良いのでしょうか?今回は、うつ病を治していくためにやるべき 7つのことを説明しましょう。





1 焦らずにのんびりすること

安心感とは、心地よい、穏やかな気持ちを体験することです。これは、うつ病の回復にとても大切な要素なのです。例えば、きれいな景色を見ながら、「癒される」、「ゆったりできる」、「生きていて良かったな」、「このままでいいんだ」と感じるような体験です。


ところが、「あれをやらなきゃ、これをやらなきゃ」という忙しさや焦りは、安心感から離れてしまいます。社会的な地位や名誉へのこだわり、高過ぎる理想を掲げること、憧れる人と比べるなども、うつ病に良くありません。「誰々から嫌われたくない」、「職場で能力を認めてもらいたい」と背伸びをしている生活も同じです。


うつ病の治療中は、何よりも焦らずのんびりすることです。「休んでいる間に新しいスキルを勉強しておこう」とか、「早くリワークプログラムに参加しなくては」と焦るのではなく、安心を実感できるような毎日を心がけてください。



2 小さな喜びを積み重ねる

日々の生活に何か喜びがあることは、心に栄養を与えていることと同じです。喜びにも色々な種類がありますが、実は、大きな喜びよりも、小さな喜びを積み重ねていく方がより幸福を感じられるという調査結果があります。

小さな喜びとは、趣味に没頭する、ショッピング、エンタメ、カラオケ、マッサージやサウナ、カフェや公園巡り、友人とランチ、ペットとふれあう、ガーデニングなど、人それぞれに楽しめることが何かあるでしょう。こうした日々の細(ささ)やかな楽しみ積み重ねは、仕事で大成功した、試験に受かった、というような成功体験よりも、心を満たしてくれるのです。

食べ物には、栄養の質の良いものと悪いものがあります。味が濃くておいしいからと言っても体に良くないものもあり、そればかり食べていると健康を壊します。これと同じように、心の栄養にも質の差があり、一時的なつよい刺激だけを求める快楽主義は心に良くありません。心に残って、長く幸せを感じるようなことが心の栄養になります。

楽しいからと言って、何をやっても自分にプラスになるということではないのです。例えば、お酒をたくさん飲んだり、浪費ばかりしていると、心は苦しくなります。

幸福度の調査からは、自分だけが満足するような自己中心的な行動よりも、他人を喜ばすような行動の方が幸福を大きく感じることが知られています。例えば、自分のものばかり買っていると負債を感じますが、家族や友人にプレゼントを買ってあげると、より幸せを感じるのです。



3 嫌なことは我慢しない

いくら心に良いことをするように努力していても、周りの人から心ない言葉をかけられたり、酷い仕打ちをされては、心を傷つけられてしまいます。例えば、「いつになったら働くの?」「もう治っているんじゃないの?」といった言葉をかけられたり、病気を理解せずに「しっかりしろ」と説教をしてくる人もいます。

こうした悪いものから、自分で自分の心を守らなくてはいけません。具体的には、付き合って疲れる人とは付き合わない、関わって不愉快になることはやらないようにしましょう。自分の素直な気持ちを最優先にして、嫌なことは避けるような生活を心がけましょう。



4 規則正しい生活

生活の中の安心感は、規則正しい生活習慣と深くつながっています。セロトニンという物質は、生活リズムとも関係があるように、脳の構造からも、規則正しい生活と安心感は密接に関連しているのです。特に朝起きる時間、夜床につく時間、食事をする時間を一定にすることが大切です。
うつ病の時には規則正しい生活を心がけましょう。楽しむことが大切だからと言っても、規則正しい生活を壊しては意味がありません。例えば、動画を夜遅くまで見てしまうとか、SNSをダラダラしてしまうとか、楽しいからと言っても、生活のリズムを崩すようなことは禁物です。





5 たくさん睡眠をとる

毎日しっかり睡眠をとることは、セロトニン分泌のために最も大切なことです。日中の安心感にもつながります。しっかり眠ることがうつ病の治療だと考えても過言ではありません。毎日7~8時間の睡眠をとることを心がけましょう。

最近は、睡眠グッズや睡眠アプリが人気です。眠ることを楽しいイベントのように感じられるものがあればお勧めです。

また、うつ病の症状で不眠症がある場合は、積極的に睡眠薬を利用するべきです。睡眠薬は「認知症になる」「依存性がある」とネットに書いてあることもありますが、ほとんどがデマ情報です。医師の指導のもとで使うならば危険はありません。むしろ不眠を放置しておくと、うつ病は治らないどころか、他の内臓の病気にもなってしまいます。



6 バランスの良い食事

ネットには、うつ病に良い食事として、セロトニンの材料になるトリプトファンが多く含まれたバナナや、葉酸やビタミンBが含まれたサプリなどが紹介されています。しかし、よほど偏食がない限りは、特別なものを無理して食べる必要はありません。何よりもバランスの良い食事を心がけましょう。

米、パン、麺類などの炭水化物だけでなく、必ず肉・魚・豆類などのタンパク質、そして野菜を付け加えてください。また、美味しく食べることも大切なことです。

ただし、栄養の取り過ぎは、うつ病を治りにくくさせることが知られています。肥満はうつ病を治りにくくする原因の一つです。特にスイーツなどの炭水化物やアルコールの取り過ぎには要注意です。



7 軽い運動

初期の頃は家でゴロゴロしているべきですが、回復してきたら、週に3日程度の軽い運動をしましょう。運動といっても、1日20分程度のウォーキングで十分です。無理をしてスポーツジムに通う必要はありません。体を動かして「気持ち良い」と感じることが大切なのです。


心のゆとりがなくなり、本来の心の状態を失ってしまったのがうつ病です。安心感、小さな楽しみの積み重ね、我慢をしない、食事・睡眠・運動を柱にした規則正しい生活、こうしたことを意識することで、本来の心の状態を取り戻すことができるでしょう。

かと言って、今日をのんびり過ごしたら、明日は元気というほど簡単なものではありません。時間をかけて悪くなったのですから、良くなるのにも同じくらいか、それ以上の時間がかかります。焦らずに、安心感のある生活を積み重ねていきましょう。


叱られることに敏感に反応してしまう人の特徴

人から叱られて、泣きたくもないのに涙が出たことはありませんか?例えば、入ったばかりの職場で、「仕事ができない!」と叱られて、何も言い返すことができず、涙がこみ上げてくるのです。仕事をきちんと教えてもらっていないのが原因なのに、まるで人格をすべて否定されているように感じ、二度と上司の顔を見たくありません。場合によっては、叱られたことがきっかけで職場に行かれなくなり、辞めてしまう人もいます。

残念ながら、ハラスメントの問題が騒がれて久しいにも関わらず、「叱られて当たり前」「叱られて仕事を覚える」といった考えがまかり通っている職場はたくさんあります。


不思議なことに、叱られても何も感じない人から敏感に感じる人まで、感じ方には個人差があります。叱られて敏感に感じてしまう人は、何か心に問題があるのでしょうか?


心理学では、心は傷つかないように、バリアで守られていると考えています。ウルトラマンが、怪獣の攻撃を防ぐために使う透明なバリアをイメージしてください。心のバリアは、専門的に「個人の境界線」「自他境界」「バウンダリー」などとも呼ばれ、他人の思いが心の中に侵入してくるのを防いでくれる存在です。

叱られても、バリアがしっかり張られていれば、それほど気になりません。むしろ、間違いを正してくれたとポジティブに捉えることもできます。叱られて心が傷つきやすい人は、心のバリアが弱くなっているのです。


今回は、叱られることに敏感に反応してしまう人の特徴について説明します。特に心のバリア、個人の境界線についても触れていきたいと思います。





1 「叱る」と「怒る」は違う

「職場で叱られた」というのは、「怒られた」と表現する方が正確かも知れません。まずは「叱る」と「怒る」の違いについて説明しましょう。叱るとは、相手を良い方向に導くために間違いを正すことです。感情的に言うのでなく、道筋をたてて論理的に説明するものです。

これに対して、怒るとは、思い通りにならなかったり、気に入らないことがあると、腹を立てて、感情を相手にぶつけることです。相手の人格を否定したり、人前で注意して恥をかかせたり、大声で注意をするのは、叱るではなく、怒るが正しいでしょう。ただし、明確に区別していない人の方が多いかも知れません。


私たちの心が傷つくのは、大概怒られている場合です。相手からネガティブな感情をぶつけられるために傷ついてしまうのです。



2 怒られると攻撃を受けていると感じる

お互いに信頼関係がない場合に、相手から怒られることは、感情的に攻撃を受けるのと同じです。突然、ズカズカと心の中に入ってきて、ネガティブな感情をぶつけられていると考えられます。そうなると、例え、正しい内容を指摘されていても、素直には受け入れられません。人によっては、人格を否定されているように受け止めてしまう場合もあるでしょう。こうした理不尽な攻撃から心を守ってくれるのが、心のバリアの存在です。



3 心のバリアが弱い

心のバリアとは、自分と他人を区別する境界線のことです。この境界線がはっきりしていると、「自分は自分、人は人」という自分の意識が明確になります。自分のことは自分で決められるようになり、自分は何に責任を持つべきかがハッキリします。生きて行く上でとても大切なことです。


子供は、親との距離が近いために、自分と親の境界線が曖昧です。成長するに従い、境界線が明確になって行き、自分と親が別の存在であると認識できるようになります。ところが、自分の境界線が曖昧なまま大人になると、相手の影響を受けやすかったり、自分のことに責任を持てなかったりと、メンタルヘルスにマイナスになるでしょう。


心のバリアが弱いと、怒られた場合には、相手の感情が心に飛び込んできて、激しく動揺します。反撃することもできず、涙が出てくるようになるのです。他人が怒られているのを聞いているだけで、まるで自分が怒られているようで緊張してくることもあります。共感する力があると言えば、聞こえがいいのですが、つねに相手の感情に左右されてしまうのです。





4 心のバリアが弱くなる原因

それでは、心のバリアはなぜ弱くなるのでしょうか?次に、心のバリアが弱くなる3つの理由を説明しましょう。


1つ目は、生まれつき音や光などの刺激に敏感なために、周りとの境界線を引きにくい人です。感覚過敏と言われるもので、自閉スペクトラム症などの発達障害の人に見られます。また、心理学用語のHSPという言葉が流行していますが、これも感覚過敏の一つです。


2つ目に、先ほども説明したように、親子関係の影響もあります。虐待やネグレクトなど、親が子供の人格を認めず、自分の付属品のようにして接していると、親子の境界線が曖昧なまま成長することになります。また、いつも親の機嫌を気にして生きていると、親の言動が自分の責任であるように感じ、自分と親の境界線がなくなってしまいます。そうなると、他の人との境界線も明確にできなくなり、心のバリアが弱い状態が続きます。


ここまでは、生まれつきの問題や養育の問題が原因の場合ですが、3つ目に、心が不安定になると、一時的に心のバリアが弱くなることもあります。仕事が忙しい、心配事がある、いじめがある、などの状況では、人との境界線が曖昧になり、相手の影響を受けやすくなってしまうのです。うつ病でも、同じ理屈で涙が出やすくなります。



5 心のバリアをつよくする方法

まずは、ふだんから、心のバリアが弱くなっていることを意識しましょう。心のバリアを簡単に言うと、やりたくないこと、嫌いなことを「イヤだ」と拒否する力のことです。毎日の生活で我慢をし過ぎて、自分でも気づかないうちにバリアが弱くなっていることはないでしょうか?

我慢のし過ぎは、自分からバリアを弱め、外からの侵入を許してしまっている状態です。家に鍵をかけないで、毎日を過ごしているのに似ています。これでは悪い人が土足で入ってきてしまいます。


そして、親の考え方、職場のやり方、グループのルール、周りの評判といったものを優先するのでなく、何よりも自分の素直な気持ちを優先しましょう。自分が心地よく感じることをやり、不愉快に感じることは避けるようにするのです。


次に、怒ってばかりいる人、危害を加える人とは、できるだけ距離を置きましょう。当たり前のことのように聞こえますが、逃げることは物理的に人との境界線を引くことでもあります。


最後に、毎日の生活からできるだけストレスを取り除きましょう。ストレスは、心のバリアを弱くしてしまいます。生活に安心感があれば、人との境界線を自然にひけるようになります。心のバリアが回復して行くのです。


失感情症とは―5つの特徴―

「クールな人」と言うと、ヒーローのように冷静でかっこいいイメージがあります。しかし、「失感情症」という感情がないことで苦しんでいる人がいることをご存知でしょうか。辛いことがあっても、心の中で何が起きているのか言葉にできません。不快な感情を心で自覚できないために、痛みなどの体の不調として現れやすくなります。


1972年、アメリカのシフネオス医師は、つよいストレスを受けても、それが心の症状に現れず、胃腸障害や喘息などの体の症状に出やすい人の研究をしました。そして、共通する性格として失感情症を見つけました。英語では「アレキシサイミア」と言います。辛いことがあっても、それを言葉で表現することが苦手で、ストレスが体の症状として現れやすい傾向があるのです。


ストレスは、まず脳の間脳(かんのう)というところで喜怒哀楽の感情の動きとして認識されます。さらに、この喜怒哀楽の情報は脳の上下2つの方向へ伝えられます。脳の下の方へは自律神経系を通じて伝わり、心臓や肺などの内臓の動きとなります。脳の上の方に伝達されると、前頭葉という部分で分析されて、この喜怒哀楽が何なのかが言葉になって理解されます。
失感情症では、ストレスによる喜怒哀楽の情報が前頭葉へきちんと伝わらないために、言葉に変換されないのです。


失感情症は、症状として一時的に現れることもありますが、基本的には生まれつきの性格と考えられており、生きづらさを感じている人も多いのです。心の中で起きていることなので、自覚できていない人もいます。今回は、失感情症の特徴を5つ紹介しましょう。





1 自分の感情を言葉で表現するのが苦手

例えば、家族でお笑い番組を見てみんなが笑っていても、笑えません。決してつまらないわけではありません。学校でいじめがあることが分かっていても、文句を言わず休まずに学校へ行きます。もちろん辛いのです。戦争で捕虜になった人たちが、無表情になって抵抗せずに連れられて行く雰囲気に似ています。

失感情と言っても、感情を失っているわけではなく、感じることはできます。それを言葉に表現できないために自覚ができないのです。不快な感じが続いていても、それが何か自覚できません。そのうちに耐え切れなくなった感情が爆発してしまうこともあります。失感情症は心の不健康につながりやすいのです。



2 人に気持ちを伝えられない

自分の心で起きている感情を言葉で表現できないため、それを他人に伝えることができません。相手に感謝や喜びを伝えられずに誤解されたり、不快感や辛いことを伝えられないために苦しい思いをすることがあります。こうして対人関係で問題が起きることがあります。

子供の頃は、いつもニコニコして泣くことが少ないため、親から「育てやすい子供」と思われます。そうではなく、失感情症によって自分の気持ちを親に伝えられていないのです。



3 体調不良を起こしやすい

ストレスにより辛いことがあると、不快な感情は心と体に分配されます。心に伝わると言葉になり、自律神経系に伝わると体の症状になります。ストレスは言葉にして発散すれば解消できます。

ところが失感情症ではそれができないために、不快な感情は自律神経系を通じて体の不調としてだけ現れます。倦怠感、頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、しびれ、めまいなど、いわゆる心身症というものが起こります。体の病気で、病院で検査しても異常が見つからない場合は、失感情症が関わっていることが多くあります。





4 辛い時は逃げるか、心を閉ざす

何か葛藤がある時、それを言葉で自覚できないために、心の中を見つめ直したり、解決方法を考えることができません。そうなると辛いことから逃げるか、心を閉ざすしか手がなくなります。同時に体の調子が悪くなるため、体の不調を理由に責任から逃れることになります。

子供が学校で嫌なことがあると、頭痛や腹痛がして学校へ行けなくなることがあります。これは、子供の心や脳は十分に成長していないため、辛いことを心で処理しきれずに体だけが反応してしまうのです。

これが大人になっても続く場合は失感情症と考えられます。例えば、ストレスから体調不良を起こして職場に行けなくなる人がいます。心配した会社の人が連絡すると、「明日は必ず行きます!」と言いますが、結局次の日も欠勤してしまいます。これは自分の心の状態を理解できていないのです。決して、心が弱いから逃げ回っているのではありません。



5 自閉症スペクトラム障害・ASD、愛着障害、複雑性PTSDにみられることがある。

自閉症スペクトラム障害・ASDは、人の気持ちを読み取れない障害ですが、自分の心を客観的に見る能力にも劣ります。そのために、失感情症の症状が大変多く見られます。また、愛着障害、複雑性PTSD、統合失調症にも見られることがあります。


以上、失感情症の特徴を紹介しました。一時的な症状のこともありますが、基本的には生まれつきの性格傾向なので決定的な治療方法はありません。自分の個性として仲良くやっていくのが賢い対処法です。
まずは、無理をしすぎている時の体のSOSを自覚するようにしましょう。頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、倦怠感などの体の異変は、心が悲鳴を上げているサインなのです。そんな時は、「いつもの奴が来た!」と理解してゆっくり休むことです。体の不調にならないためにも、ふだんから体調に気を配り、予定以上のスケジュールは入れないようにしましょう。
また、体が緊張していることが多いので、体全体をほぐすようなマッサージに良い効果があります。体をリラックスさせることが心の癒しにもつながるのです。

失感情症と言っても、冷静さを求められる職場で活躍している人もたくさんいます。突然の出来事にも動揺せずに仕事に取り組むことができるのです。「冷静」というポジティブな個性と捉えてみると良いかも知れません。


うつ病の人の特徴的な10の行動の変化

うつ病は、うつ気分という名前の通り、常に気分の落ち込みが続く病気です。実際は、気分の問題だけでなく、物事への興味や関心がなくなり、何かをする気力も失い、いつも疲れた感じがとれません。

うつ病とは、生きるエネルギーが枯れ果てた状態とも言い換えることができます。機械は電池が切れると、動作がおかしくなりますが、人も同じです。生きるエネルギーが枯れてくると、行動がおかしくなってしまいます。普段できていたことができなくなり、気づかないうちに生活に変化が出てくるでしょう。

それでは、うつ病になると、人はどのような行動のパターンをとるようになるのでしょうか?


今回は、うつ病の人の特徴的な10の行動の変化を紹介しましょう。これらは、行動の変化から気づかれるうつ病のサインでもあります。このような生活になっているならばうつ病を疑ってください。





1 家事ができなくなる

毎日当たり前のようにやっている家事ですが、実際はかなり頭を使うし、体のエネルギーも消耗するものです。うつ病になると家事の大変さを実感するようになります。
片付けや掃除ができなくなるので、部屋は散らかった物やゴミで足の踏み場もありません。台所の流し台は汚れた皿の山になります。さすがに洗濯はしないと着るものがなくなるので、洗濯機は回しますが、乾いた服は畳まずに床に置きっぱなしです。

うつ病の人は、このような悲惨な部屋の様子を見てもどうすることもできません。いつのまにかこの生活に慣れてきて、部屋の汚れを見ても見ぬふりをするようになります。

ただし、家事をしなくなる病気はうつ病だけに限りません。注意欠如多動症・ADHDという発達障害の人は生まれつき片付けが苦手で、計画的に行う家事全般が苦手です。また、統合失調症でも喜怒哀楽が乏しくなる陰性症状というものがありますが、これでも家事ができなくなります。



2 身なりを気にしない

本来はおしゃれで、ファッションにも自分なりのこだわりがあった人が、化粧をしなくなり、いつも同じ服を着ても平気になります。新しい服を買いたいとも思いません。必要に迫られ買ったとしても、買い物袋や紙箱に入ったまま床に置きっぱなしです。買ったことで安心し、すぐに袋や箱を開けるエネルギーがないのです。



3 風呂に入らない

風呂に入ることを「サッパリして気持ちがいい」「1日の疲れがとれる」と楽しみにしている人は多いのではないでしょうか。元気な時には感じませんが、入浴はかなりのエネルギーが必要です。

うつ病になると、風呂が辛くなります。特に、髪を洗って乾かすことを考えると、その大変さで気が重くなります。辛うじて入浴できても、サッパリどころか、一仕事を終えたような疲労感が残るのがうつ病です。風呂はやめて、シャワーだけにする人もいますが、大変であることには変わりはありません。



4 人を避ける

いつも楽しみにしていた職場の飲み会や友人とのランチや飲み会。気が付いたら、用事があると言って、誘いを断るようになっています。人と会って話すのが億劫になるためです。無理して飲み会に行っても、自分だけ別の空間にいるようで楽しめません。

家では、玄関チャイムが鳴っても居留守を使います。電話にも出たくありません。



5 休日は外出しない

土日休みを前にして、金曜日の夜は解放感から元気になります。かといって休みの日は昼まで寝込んで家でゴロゴロ生活です。うつ病では物事への興味や関心がなくなるため、趣味を楽しむ気分にもなりません。仕事が始まるかと思うと日曜は不調です。特に日曜の夕方くらいからは落ち込みがつよくなります。





6 エンタメを見ない

集中力も落ちるため、音や光の刺激が煩わしくなります。それまで楽しんでいた動画や音楽にふれても、内容が頭に入ってきません。エンタメを楽しめなくなるのです。いつも流行りの音楽を追いかけていたのに、いつのまにか関心がなくなっていたらうつ病のサインです。



7 怒りっぽい

つねにイライラしているので、ちょっとしたことが引っかかり、怒りのスイッチが入ります。ふだんでは怒らなかった場面でも怒るようになるため、家族や友人から「最近怒りっぽくない?」と指摘されることがあるでしょう。



8 お酒・タバコ・甘いものが増える

お酒、タバコ、甘いものは、一時的に脳のドーパミンという物質を増やすことで、頭のモヤモヤ感がとれます。仕事や家事など、やるべきことを目の前にして葛藤している時には、起爆剤になるのです。眠れない時には、睡眠薬の代わりにもなります。うつ病を放置していると、知らず知らずのうちに嗜好品をとる量が増えていきます。依存症になってからでは遅いので、嗜好品をとる量が増える場合はうつ病を疑いましょう。



9 職場の行き帰りに寄り道をする

朝から晩まで、虚しい感じがとれません。会社へ行くことは嫌だし、すぐ家へ帰るのでは物足りなく、用事もないのに職場の行き帰りに飲食店、コンビニ、本屋などに寄るようになります。買い物で少しは所有欲を満たすことができるので、必要もない物を買ってしまうこともあります。



10 身辺整理をする

生きている価値を感じなくなることを無価値感と呼びますが、うつ病の症状の一つです。無価値感から、消えていなくなりたい、人生をリセットしたい、と思う人もいます。自殺をしようとまでは思わなくても、「病気や事故で死ねたら楽だな」と感じるのです。中には、何かの理由で自分がいなくなっても、周りの人に迷惑をかけないように、身辺整理を始める人もいます。大事なものを人にあげたり、処分してしまうのです。


足の骨を折ったら、その日から歩けなくなりますが、うつ病の場合は、少しずつ症状が現れるので、生活は徐々に変化していきます。自分では気づけないまま、いつのまにか生活スタイルがガラッと変わっているのです。「おかしいから病院に行った方がいいよ」と周りから言われて、ようやく以前の自分と違っていることに気づきます。発病してずいぶんたってから病院を訪ねる人が多いのがうつ病の特徴です。


ただし、治療を始めるのが遅ければ遅いほど、回復には時間がかかります。治療は、ゆっくり休養をとること、抗うつ薬を飲むことの2つが柱です。どちらも自然治癒の力を後押しして、失った生きるエネルギーを回復していくことが目的です。これには時間がかかるので、発病してから治療を始めるまでに2~3年かかったならば、やはり回復までに同じ2~3年は必要と考えてください。ですから、おかしいと感じたら、早めに休むこと、受診することを心がけましょう。

自殺の直前に見せる8つのサイン

何事もなかったのに、ある日突然自殺をするということはありえません。必ず、自殺に至るまでの長いプロセスがあります。お金や仕事の心配、人間関係の悩みなど、辛いことがあると心はどんどんと弱ってきます。これが、限界に達してしまうと、何かのきっかけで衝動的に自殺を試みます。引き金になるのは、いじめや争いごとで、心が傷つく言葉を浴びせられることが最も多いようです。


ある調査では、自殺者の70%には遺書がなく、自殺のほとんどが衝動的な行為と言われています。自殺を試みるときは、「死んだらどうなるのだろう?」「みんなを悲しませるかな?」「死ぬ時って痛いのかな?」と、普通ならば思いつくことを考えるスキもありません。正常な精神状態ではないのです。

自殺をする人は甘えと言われることがありますが、助けをもらえなかった人が自殺をしてしまいます。大切な人が自殺をしてしまうことは、大きな心の傷になります。「もしかしたら助けられたかも知れない」と、後悔をしないように、今回は「自殺の直前に見せる8つのサイン」をご紹介いたします。





1 生気がない

いつもと違って明らかに元気がないような場合は要注意です。好きなことをしなくなったり、「何をしても楽しくない」という言葉を発します。休日は寝たきりになり、自分から外に出て行動をすることがなくなります。
2週間程度で元に戻る場合は問題ないですが、それ以上続くようであれば、うつ病の可能性があります。自殺の原因のほとんどに精神疾患が背景にあると言われています。



2 いつもと言動が違う

自殺の直前に、人はいつもと違う言動をとります。例えば、「このままではいけない」と言って突然仕事を辞めたり、精神科に通院している場合は、「薬に頼っている場合でない」と言って薬を飲むのをやめたり、普段と違う行動をするのです。
 「死にたい」と漏らしていた人が、急に言動が変わった時は要注意のサインです。特にうつ病で治療中の人が急に薬をやめてしまうことは大変危険なことです。



3 自殺の仕方をサイトで調べる

「自殺の仕方」や「楽に死ねる方法」などをサイトで調べる行為は、とても危険なサインです。本人のスマホを調べることはなかなか難しいので、会話の中で「自殺」などの言葉が出てきたら注意が必要です。
「死にたい」という言葉は簡単に出てくる言葉ではありません。きっとその人はあなたなら相談に乗ってくれると思って打ち明けたのだと思います。「死にたい」と言うと、相手の気を引くために言っているのではないかと疑う人もいますが、本当に自殺してしまうケースも多のです。聞く側が真面目に受け止めてあげなくてはいけません。また、「死んでほしくない」と相手にきちんと伝えることも大切です。



4 自傷行為

リストカットなどの自傷行為を行うことが、すぐに死につながる訳ではありませんが、自傷行為が繰り返されて、自殺に至る可能性もあります。自傷行為は本人が何らかのSOSを出しているサインでもあり、本人の辛い気持ちに目を向ける必要があります。もし自傷行為を発見したら、無理やりやめさせようと説教するのではなく、何が辛いかについて優しく聞いてあげましょう。




5 薬を沢山飲む

命の危険をかえりみずに、快楽目的で大量の薬を飲むことを、「オーバードーズ」、略してODと言い、最近では「トーヨコキッズ」と呼ばれる子供たちの間で行われていたことがニュースになっていました。自傷行為の1つであり、「自己破壊的行動」とも呼ばれています。
薬は多く飲まれないように医師が調整していますが、いくつかの病院をはしごして、たくさんの薬を蓄えている人もいます。死につながる危険な行動のため、注意が必要です。



6 感情の起伏が激しい

突然怒ったり、泣いたり、感情の起伏が激しい状態は、自殺の危険なサインです。気持ちが落ち込んでいるときは、自殺をするエネルギーはありませんが、むしろ、感情の起伏が激しいときに、衝動的に自殺が起こりやすいと言われています。
例えば、口喧嘩をしてしまい、そのまま窓から飛び降りてしまう、などもあるので気をつけましょう。相手が感情的になっているときこそ、冷静に対応することが求められます。



7 お酒を飲み過ぎている

お酒を飲んでいて、理性が働かない状態は、自殺の危険なサインです。特に、楽しくお酒を飲んでいるのは良いのですが、やけ酒のような場合は非常に危険です。普段から死にたいという気持ちを強くもっている場合、お酒を飲むことで衝動的になり、自殺を実行に移してしまうことがあります。



8 大切な人がいなくなる

家族との死別、失恋など、大切な人がいなくなった時、人は大きな悲しみを感じ、これを喪失体験と言います。喪失体験はうつ状態と似ていますが、薬が効きにくいことが多く、時間が解決してくれるのを待つしかありません。絶望に陥ってしまい、生きる希望がなくなり、後を追いたい気持ちが出て来ることもあります。これは危険なサインです。



今回は、自殺の直前の8つのサインをご紹介しました。


統計データによると、どの国でも自殺者は圧倒的に女性よりも男性が多くいます。困ったとき、女性の方が、周囲に助けを求めることができるからです。別の調査では、男性の方が、相談相手のいないケースが多く、辛い時にがまんして、弱音を吐くことを嫌う傾向がありました。孤独で相談相手がいないことや、「弱音を吐いてはいけない」という考えを持っていることが、自殺につながる大きなリスクであることが理解できるでしょう。


自殺を防ぐためには、周りの身近な人の対応が重要です。もし、「死にたい」と相談されたら、「何で死にたいの?」「何が辛いの?」と聞いてあげるようにしましょう。


逆に、「その考えは間違っている」、「私も苦労を乗り越えてきたんだ」と説教や自分語りをしても意味がありません。話を遮らずに聞いてあげて、気持ちを理解してあげることが大切です。自殺を食い止めようと努力するよりも、気持ちを理解してあげようと努力するべきなのです。


ASDが持つあまり知られていない9つの特徴

大人の発達障害の代表として、自閉スペクトラム症・ASDがあります。以前は、アスペルガー症候群という名前で知られていましたが、最近はASDという呼び方が一般的になってきました。

相手の気持ちや場の空気を読みとる能力に劣り、友達をつくることや、友達関係を続けることが得意でありません。こだわりという症状もあり、自分のルールを変えられず、あらゆる場面で融通が利きません。社会に出ると、チームプレイの必要な職場で浮いてしまうのが特徴です。症状のレベルに差はありますが、日本人の10%に見られる一般的なものです。


ASDというと対人関係の問題と考えがちですが、それ以外にも、心の抵抗力の弱さ、体の感覚の違和感などが見られることがあります。それほど知られていませんが、大人になってからの生きづらさとして実感されることがあるのです。


今回は、あまり知られていないASDの特徴を9つ紹介しましょう。





1 辛いことに向かっていけない

心の抵抗力が弱いため、心に傷を負いやすい傾向があります。辛い出来事があると、後遺症でトラウマが残りやすいのです。普通の人なら、「そんなことで傷つくの?」と言われるような小さな出来事でもトラウマになり、苦しかった場面がフラッシュバックしたり、繰り返して夢で見るようになります。また、出来事に関連した場所や人を無意識に避けるようにもなります。

何かのきっかけで傷つくと、そのことを再度チャレンジできません。気持ちに強力なブレーキがかかってしまうのです。それでも向かって行こうとすると心が壊れてしまいます。はたから見ていると辛いことから逃げているように見えますが、本人もできずに苦しんでいるのです。



2 知らないうちに相手を傷つけ、自分も傷つく

これを言ったら相手がどう反応するか想像できません。例えば、最近体重が増えて気にしている女性に向かって、「太りました?」と言って、相手の機嫌を損ねるといった感じです。しかし、何で怒っているのかが理解できません。

むしろ、突然相手が怒ったことにびっくりするのです。「失礼なことを言わないでください!」と怒られてしまうと、心の抵抗力が弱いために深く傷つきます。相手を知らないうちに傷つけて、自分も傷ついてしまうのです。



3 ストレスが体に出やすい

例えば、職場で辛いことがあると、翌日は倦怠感がつよくて家を出られません。声が出なくなったり、手足にしびれが出る人もいます。他にも、体の痛みや胃腸障害が出ることもあります。自分の心の状態を言葉で理解する力に劣るため、ストレスをため込んでしまい、心の不調が体の不調として現れやすいのです。



4 疲れているのに気づかない

脳と体は神経系やホルモンによって密接につながっていて、体は脳からの指令で動きます。この仕組みがあるため、自分の意思によって体が動き、心と体が一体である感覚を持つことができるのです。ところが、ASDの人は、神経系やホルモン系の発達に問題があることから、心と体の一体感に乏しいと言われています。

困ってしまうのは、実際の体の疲れと、感じている疲れにギャップがあることです。一旦仕事を始めると、仕事への義務感や集中のしすぎも重なり、終わるまでは疲れを感じません。仕事が終わって、ひどい疲れに気づき、何日間も寝込んでしまうこともあります。こうしたことを続けていると、職場で信頼を失ってしまいます。





5 体の性に違和感をもつ

思春期には体の性的な成長が起こりますが、心と体の一体感に乏しい場合、このような体の変化を自分のものでないように感じるASDの人がいます。その上、異性との関係で傷ついたりすると、自分の体の性を否定的に感じることもあります。ASDの中には、心の性と体の性が一致しないでいる人もいるのです。



6 酷い仕打ちをされても関係を続ける

普通ならば、危害を加えそうな人には近づきませんし、酷い仕打ちをされたら、その人との付き合いをやめます。ところが、ASDの人は、危ない人と知り合いになろうとしたり、良くない関係を保ち続けようとすることがあります。
例えば、パートナーからDVを受けても別れない、詐欺でお金をとられても友達でいる、職場でハラスメントを受けても辞めない、といったような感じです。

闇バイトに手を出してしまい、いつのまにか、悪のグループの手下になっていることもあります。



7 心配性で不安になりがち

ASDの人は、想像力を働かせるのが苦手と言われています。辛い状況では、それが良くなっていくというイメージを広げられません。何かトラブルにぶつかると、最悪のことばかりが頭に浮かんで、不安になります。
冷静に解決策を考える気持ちの余裕は出てきません。ひどいとパニックを起こす場合もあります。周りの人からは、心配性でいつも不安を抱えているように見えてしまうのです。



8 ASDの60%近い人がADHDも合併している

大人の発達障害でもう一つ代表的なものが、ADHD・注意欠如多動症です。不注意、落ち着きのなさ、衝動性があるため、大人になってからも、「おっちょこちょい」「時間を守れない」「片付けができない」「計画性がない」といった問題が起きます。
最近のアメリカの調査では、ASDの人の約60%に、ADHDの症状が見られることが分かってきました。どちらも脳の報酬系という部分に問題があるので、両方が合併することは当然のことなのです。

精神医学では、最も大きな症状を通して病名をつけます。ASDと診断されている人でも、その半分以上には、不注意、落ち着きのなさ、衝動性といったADHDの症状も見られるのです。自分は、ASDかADHDか分からないと言う人も多いのですが、それは両方がいっしょにあると考えたら良いでしょう。



9 HSPの中にはASDが多く含まれている

HSPとは、ハイパー・センシティブ・パーソンの略で、生まれつき感覚の敏感な人を呼ぶ心理学用語です。感覚の敏感な人が、どのような心の傾向をもっているかを研究したことから始まったものですが、いつしか自己啓発本やネットで取り上げられるようになり、社会でも広く知られるようになりました。「繊細さん」とも呼ばれています。あくまでも心理的な傾向を説明するものなので、障害ではありません。

ASDには、音・光・臭いなどの刺激に敏感な感覚過敏という症状を持つ人がいるため、それだけを取り上げるとHSPに含まれてしまいます。HSPと思っている人の中には、ASDがかなり含まれているということです。「病院でASDと診断されているけれど、本当はHSPだと思う」という人がいますが、そうでなく両方あると考えるべきでしょう。


こうしたASDの症状を見ていくと、仕事の効率や実績が最優先される現代社会では、とても生きづらいことを理解できたかと思います。それだけでなく、本人は一生懸命頑張っているのに、「努力していない」「辛いことから逃げている」と、誤解される場面も多くあるでしょう。
生まれつきの脳の仕組みからそうなっているので、努力で大きく変えられるものではありません。背伸びをして社会の歯車に合わせていると、自分が壊れてしまうことがあります。人の価値は、能力や仕事の実績で決められるものではありません。周りと比べることなく、自分なりの生き方のペースをつかめることが大切です。