うつ病と完全主義
一昔前、うつ病と性格の問題が論じられた時期がありました。「うつ病になるのは性格の問題ではないか?」という議論です。特に、「メランコリー親和型」と呼ばれる、几帳面で融通がきかない性格の人がうつ病になると考えられていました。
例えば、仕事の環境が変わった時に、自分のやり方を頑固に変えないために、神経をすり減らしてうつ病になるというのです。その後、うつ病が世界中に広がるようになり、単に性格の問題だけで解決できないことが分かりました。現在では、うつ病は誰でもなる病気と考えられています。
しかし、完全主義とか、完璧主義と呼ばれる性格が、うつ病になりやすく、またうつ病をこじらせてしまうということが知られています。完全主義とは、簡単に言うと、何事もいいかげんに済ませられず、気になることをとことん追求してしまうことです。
目的に向かって自分をコントロールするので、高い目標を掲げて、それに向かってあきらめないところは社会的に成功するでしょう。しかし、失敗に過敏すぎることや、他人からの評価を気にしやすいところでは、メンタルヘルスに悪い影響があり、うつ病を発症しやすくなります。
また、うつ病を発症すると、完全主義がつよくなる傾向もあります。病気を素直に受け止めることができずに、病気と葛藤してしまい、回復を遅らせてしまうことも出てくるでしょう。
完全主義の傾向は、「誠実さ」という生まれつきの性格が根っ子にあるので、大きく変えることができません。心配事や不安に対して、本来は受け流すべきところを、完全主義の行動をとってしまうためにこじれてしまうのです。完全主義が悪いというのでなく、方向性を修正すれば良いだけのことです。
今回は、うつ病で療養中の人に向けて、完全主義を修正する5つの方法を紹介しましょう。もちろん、うつ病の発症や再発の予防にもなる内容です。
1 気持ちや体調に素直になる
完全主義の人は、自分の素直な気持ちや体調よりも、理想や計画を優先しがちです。ところが、うつ病になると、まるで天気のように気分や体調が移り変わるために、理想や計画が思い通りになりません。「明日はどうしても会社へ行く」と予定を立てても、それができなくなることが多いのです。そんな時に、這ってでも会社へ行こうとするのが完全主義です。
これでは病気は治りません。「疲れている時は休む」「やりたくないことはやらない」「できないことは断る」と、自分の気持ちや体調に素直になることが、うつ病の予防や回復に必要です。
病気ほど自分の思い通りにならないことはありません。思い通りにならないことは、完全主義の人にとって最も苦手なことです。病気になってしまったならば、「病気なのだから、できなくて当たり前」と開き直って考えるようにしましょう。闘うよりも、開き直った方がうつ病の回復は早いものです。
2 良いところだけを見て自分を評価する
うつ病で療養していると、日々どれだけ良くなっているのかは、とても気になることです。心の病気の回復は、血液検査などの数字で測ることができないので、生活を観察しながら、自分で評価するしか方法がありません。
ところで、評価の点数をつける方法には、加点方式と減点方式の2通りがあります。加点方式とは、私たちが学校で受けて来たテストのように、できた分だけ点数をつけてもらうものです。減点方式とは、スポーツのパフォーマンスを評価する時のように、最初の持ち点からミスのたびに減点されていくものです。
加点方式は、その人の長所が目立ち、減点方式は短所が目立ちます。うつ病の人は、減点方式で自己評価をしやすく、自分の短所ばかりを拾い上げて落ち込む傾向があります。例えば、「今朝は寝坊した」「風呂に入れなかった」「買い物をしすぎた」など、自分の失敗を減点方式で評価して、自分を責める材料にしてしまいます。これでは、病気をさらに悪くさせてしまうでしょう。減点方式で自分を評価してはいけません。
そうでなく、「散歩ができた」「友人と会っても疲れなかった」「朝まで続けて眠ることができた」という感じに、良かったことを足し算して自分を評価するようにしましょう。良い思い出ほど忘れてしまうので、ノートやスマホに記録をとるのが良いかも知れません。
ただし、毎日こと細かく記録をつけてしまったら、それこそ完全主義です。うつ病の回復は、ゆっくり月単位くらいのペースですから、毎日では大きな変化はありません。良かったことがあった時だけ記録するとか、通院の日の前くらいに1ヶ月間を振り返って記録するという感じで良いと思います。
3 困ったら「まあ、いいか」と唱える
何かうまくできないことがあったら、そこで考え込むのでなく、とりあえず「まあ、いいか」と唱えてみましょう。「それができないから困っているんだ」と反発する声が聞こえてきそうですが、実は、うつ病の治療で最も多く使われているSSRIという薬は、ネガティブな考えの連鎖を止める効果があります。脳のセロトニンという物質が増えることで、自然に「まあ、いいか」となっていくのです。
ですから、困った時に「まあ、いいか」となれることは、うつ病を治すための本質とも考えられています。自分からも、「まあ、いいか」の癖をつけるようにして、治療の効果を高めましょう。
4 60%主義
世の中では、「一生懸命」「全力投入」が良いことのように言われますが、これも完全主義の一つです。うつ病を経験しているならば、何事も60%主義で取り組みましょう。これは、怠けではありません。頑張っているけれども、余裕もあるという感じです。今日やらなくて良いことは、別の日にやるように、毎日余力を残して生活するのです。その分、心を落ち着かせる時間を持ちましょう。
5 人と比べない
完全主義の人は、他人と比べる傾向があります。自分なりに頑張っていれば満足できるのではなく、他の人が自分より良い結果を出しているならば、「自分は頑張っていない」「努力不足」と判断します。比べて劣っていることを通して、自分を「ダメな人間だ」と責めてしまうのです。
人と比べないように、相手がどんなにキラキラ輝いていても、無視するようにしましょう。視界に入ってくると必ず意識してしまうので、輝いている人が視界に入って来ないように努力するべきです。
スマホを通して、SNSの情報が簡単に目に入ってきます。自分の成功をアピールしたい人ほど情報を発信しますので、うつ病で自信喪失している人には悪い刺激になります。SNSも関わらない方が良いのです。
うつ病によくない完全主義を修正する方法を説明しましたが、そこで「完全主義を克服する!」と、思うこと自体が完全主義になってしまいます。まずは、完全主義がうつ病に悪い影響を与えていることを意識することから始めましょう。
また、何かをやり過ぎていないか、こだわり過ぎていないか、周りの人の意見にも耳を傾けることが必要です。
知ってほしいADHDの症状
注意欠如多動症とは、落ち着きがなく、その場の思いつきで行動するために、生活に生きづらさを感じてしまう障害です。子供の頃に発症する発達障害の1つで、略してADHDと呼ばれています。
そもそも、子供は落ち着きがないものですが、小学校に入る頃には、おとなしく座って先生の話を聞くことができるようになります。ところが、学年が上がっても、静かに座っていられず、隣にちょっかいを出したり、足をバタバタさせたり、ジッとしてられない場合はADHDの可能性があります。昔は親のしつけの問題と考えられていましたが、脳の発達の問題があることが分かってきました。
ほとんどの場合、落ち着きのなさは、中学生になると個性の範囲に収まるようになり、社会生活に大きな支障はなくなります。ところが、大人になっても、目の前のことに集中できず、頭の中はとりとめのないことを次から次へと考える、といった症状が残る人もいて、これが大人のADHDと呼ばれるものです。
大人のADHDは、職場で不注意なミスを連発したり、異性関係やお金のトラブルを繰り返したり、社会生活に支障が出るケースもあります。周りの人と同じようにできないことから、自信を失ってしまうこともあるでしょう。「だらしない人」と誤解されることも多く、生きづらさを感じています。
今回は、生きづらさの原因となる症状を中心に、知って欲しい大人のADHDの8つの症状について説明しましょう。
1 将来を考えずに行動する
イソップ童話の「アリとキリギリス」はご存知ですか?夏の間、冬に備えてコツコツと働いて食べ物を蓄えるアリと、冬の準備よりも夏を楽しんでいるキリギリスの話です。冬になって、キリギリスは遊び過ぎたことを後悔します。
ADHDの人は、キリギリスのように、将来のことよりも、今の満足を優先して物事を決める傾向があります。結果がどうなるかを考えずに行動するのです。最終的にうまく行くこともありますが、キリギリスのように失敗や挫折を経験することがあります。
最近のニュースでは、儲け話にのって借金をつくったり、その場の勢いで不倫をしたり、取り返しのつかない失敗をする有名人がいます。築き上げてきたキャリアを一瞬で壊してしまうようなことをなぜするのだろうか?と疑問に感じますが、これはADHDの特徴的な行動なのです。
2 分析するのが苦手
注意を絞ることが苦手なため、ちょっとしたことで気が散りやすく、周りの出来事を短絡的に理解します。物事を深く考えて分析することができず、自分の失敗の原因を修正することも苦手です。これが原因で、同じ失敗を何度も繰り返します。
3 同じ失敗を繰り返す
向こう見ずであったり、分析が苦手なため、同じ失敗を何度も繰り返します。学校で先生から叱られても遅刻や忘れ物の常習犯になってしまいますし、職場でも同じミスばかりで、「反省しない人」と周りは呆れてしまいます。
実際は、反省しないのではありません。痛いほど反省しているし、むしろ、できないことで自信を失い、「ダメな人間だ」と自分を責めているのです。子供の頃から、これを繰り返して、ネガティブになっているADHDの人も多くいます。中には自分を責め過ぎてうつ病になる人もいるでしょう。
4 素直に間違いを認められない
よく考える前に、感情や行動が先走ってしまう傾向があります。間違いを指摘されると、自分が間違っていることを理解できても、その場で感情をおさめることができません。つい反抗的な態度をとってしまい、相手に不快な思いをさせてしまいます。「気がつよい」「素直でない」と言われてしまうでしょう。
5 傷つきやすい
子供の頃から、失敗や挫折の体験が多い人は、心が傷つきやすくなっています。また、失敗することに敏感になり、「どうせうまくいかない」と諦めが早くなっていることもあるでしょう。はたから見ていると、「根気がない」と悪い評価をつけられてしまいます。そうではなく、失敗で何度も嫌な思いをするのを恐れているのです。
6 空気が読めない
「空気が読めない」というと、自閉スペクトラム症の代表的な症状と考えられていますが、実は、ADHDにも見られるものです。自閉スペクトラム症の人は、周りに注意を向けられないために空気を読めないのですが、ADHDの人は、必要な情報だけに注意を絞れないために状況を読みとることができません。
場の雰囲気を理解できないために、新しい職場で緊張したり、不安になりやすいという傾向があります。
7 時間の感じ方が独特
ADHDの人には、遅刻が多いことや、物事を先延ばしにしてしまうことが知られています。普通なら時計やカレンダーを意識しながら、自分の行動を合わせますが、「気づいたら時間が経っていた」と言う感じに、意識から時間がなくなっています。時間の感じ方が独特であると考えたら良いでしょう。
8 躁うつ病と診断される場合もある
ストレスで心が不安定になると、落ち着きのなさ、衝動性などの症状がより目立つようになります。職場で仕事が多かったり、家庭で心配事が多いと、症状が激しくなるのです。
中には、ほとんど眠らないで、1日中落ち着きなく行動するようになってしまい、ふだんの仕事や生活ができなくなるケースがあります。この場合は、躁うつ病と診断されます。躁うつ病とは、双極性障害、双極症とも呼ばれ、気分の激しい波を繰り返す病気です。躁うつ病とADHDは似ているところが多く、神経的にも共通点があると考えられています。
大人のADHDの1番の生きづらさは、失敗を繰り返してしまうことと、周りから反省しない人と誤解されることです。失敗を繰り返すのは、神経の特性として仕方がありません。本人も一生懸命なのに、周りからは、「だらしない」「努力が足りない」「親のしつけが悪かった」とネガティブに評価されてしまうのです。
最後に、このような生きづらさへの解決方法を簡単に紹介しましょう。何よりも、家族や同僚にADHDの特性を理解してもらうことが大切です。努力してもできないのであって、怠けているのではないと理解してもらい、細かいスケジュール管理、片付けなど、苦手な部分はサポートしてもらいましょう。
時には、経済面での援助も必要になることもあるでしょう。「いい年して親に生活の面倒をみてもらっている」「いつまでも親にお金の援助をしてもらっている」でも良いのです。
ただし、異性問題とお金のトラブルには注意が必要です。不倫や借金は社会的なダメージがとても大きく、周りからのサポートにも限界があります。ましてやサポートしている家族を裏切るようなことをしては行き場がなくなります。
また、ストレスで心が不安定だと、より症状が出ると説明しましたが、逆に言うと、落ち着いた環境では、症状は目立たなくなります。子供の場合は、親が落ち着いて対応するとADHDの症状も落ち着きます。
大人の場合も、仕事でミスを連発する場合は、仕事のプレッシャーを減らす、仕事量を減らす、職場のコミュニケーションを良くするなど、職場を過ごしやすくして解決することがあります。特性ですから、自分は変わることはできませんが、安心して気持ちよく働ける場所ならば、自分の能力を発揮できるようになります。
また、落ち着きのなさや衝動に対して薬の治療があります。トラブルが多い場合は、薬の治療を利用することも良いでしょう。
「親の資格」って?
児童相談所への虐待の相談件数は年々増えており、年間20万件を超えています。国の政策にも関わらず、未だに減る様子はありません。事件を起こした親は、「親の資格がない」と非難されて当然ですが、「親にも資格制度をつくった方がいいのではないか?」という声までも聞こえてきます。冗談のようですが、親からの冷たい仕打ちに耐えて来た人の中には、真面目にそう考える人もいるのです。
資格とは、その分野での知識や経験があり、願われた仕事をやり遂げる能力があることの証明です。人にとって重要な子育てに資格があるならば、どのような内容であるべきでしょうか?
今回は、親の資格について考えてみましょう。
1 親の資格を決めるのは子供
子供の頃に親から愛されず、親子の情的な関係を築けなかった人は、大人になってからも自分に自信をもてません。人を信頼することができないために、対人関係を良好に保つことが苦手で、社会に出てから苦労が絶えません。これを大人の愛着障害と呼んでいます。
また、子供の頃に虐待やネグレクトなどを受け続けると、トラウマを一生背負うようになり、積極的な生き方ができなくなります。これは複雑性PTSDと呼ばれています。
アダルトチルドレンと呼ばれる人たちは、親が暴力をふるったり、情緒が不安定であったために、子供時代に自分の気持ちをいつも封じ込めてきました。我慢する習慣は、心の根っ子に染みついていて、大人になっても自分の気持ちを素直に出せません。
このような恵まれない親子関係で育った人は、大人になって苦労を感じる度に、親への恨みが湧いて来ます。周りの人は親から普通に与えられたものを、自分は与えられなかったと苦しみ、自分の親には子供を育てる資格がなかったと感じるでしょう。
このように、産まれた子供が犠牲になって、親に資格がなかったことが分かります。結局、親の資格を審査できるのは子供です。
2 親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できること
自分の親に資格がないという言う人は、親から暴力を振るわれた、家に居場所がなかった、お金で苦労した、などの苦しい体験をしてきました。こうした人たちの話を聞いていくと、辛い経験に共通してあることは、「親に苦しい気持ちを理解してもらえなかった」という点です。親は自分のことを優先して、子供のことを犠牲にしてきました。子供としては、親の犠牲になって、辛い思いをさせられたことを理解して欲しいのです。
こうして考えてみると、親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できることと言えるでしょう。
3 親の資格の有無は、変わることがある
一つのケースを紹介しましょう。産後に病気になってしまい、子育てが十分にできなかったお母さんがいました。子供に何もしてあげられず、怒ってばかりでしたので、子供は成人すると「親の資格がない」と言い残して、サッサと家を出て行ってしまいました。
お母さんは、子育てができなかったことを後悔しましたが、病気でしたから仕方がありません。せめてもの謝罪の気持ちで、出て行った子供の口座に、毎月ささやかなお金を振り込み続けました。その後、子供は家庭をもち、子育ての難しさを知りました。徐々に親の苦労が理解できるようになり、お母さんに対する「親の資格がない」という気持ちはなくなったそうです。
このケースのように、「親の資格がない」と子供に突き放された親でも、あとから挽回して、それを撤回してもらうこともあります。これとは全く逆で、良いお母さんと言われた人が、遺産相続で子供と争い、年老いてから「親の資格がない」と言われることもあります。遺産を独り占めにしたために、子供から悪いレッテルを張られてしまったのです。
このように、親の資格がある、なしの審査は、子育ての期間だけでなく、一生続くと覚悟しなくてはならないのです。
4 親の資格は、内面的なもの
いつの時代も、「子供を東大に入れた」、「子供を有名なスポーツ選手にした」と、子育ての成功を本にしたり、講演をする母親がいます。世間はすばらしい親と讃えますが、数十年たって、その家族が絶縁しているということも良くある話です。
そもそも、人の成功は、親の育て方よりも、遺伝的に生まれ持った才能の影響が大きいと言われています。子供の成功は、親の手柄ではありません。
子供のためにと考えて、お金をかけて英才教育をしたものの、子供に恨まれてしまうこともあります。親の価値観が、そのまま子供の価値観と同じとは限らないからです。
親の資格として、子供にお金の不自由をさせない、よい教育を受けさせる、習い事をさせてあげる、といった表面的なことも大切ですが、それが本当に子供のためになっているのか、常に考えなくてはいけません。
一方的な親の価値観の押し付けの場合があるからです。貧しくても、子供の気持ちを理解できている親の方が子供に感謝されます。親の資格はあくまでも内面的なものです。
子供の苦しい気持ちを理解できることが、親になる資格と言いましたが、人の気持ちを理解する能力は、人によって異なります。ある程度生まれつき決まっている能力なので、できない人に「気持ちを分かれ」と言ってもできません。
しかし、子育てを通して、子供の気持ちを理解する力が少しずつ身についてくることもあります。分からないなら、分からないなりに、子供ために一生懸命努力を続けることが大切です。
「自分にはできない」と思ったら、人を頼ることもしましょう。子供の気持ちが分からないという人でも、つねに子供のために心を注ぐことができ、子供を優先して考えているならば、親の資格があると言えるのではないでしょうか。
無価値感が心に染みついてとれない人の6つの特徴
大失敗をした後、自分を責めてしまい、「自分は必要のない人間だ」と感じる人がいます。このように、自分に生きる価値がないと感じることを無価値感と呼びます。自己肯定感の真逆の感情です。大きな挫折や大切な人を失った時に一時的に感じることがありますが、健康な人ならば普段は感じることはありません。
無価値感は、うつ病の症状として現れることがあります。これは、思い込みや被害妄想に分類されるもので、病気になるまでは自分の価値について考えなかったような人が、「自分は罪深い」、「生きている価値がない」と自分を責めてしまう状態です。
ところが、うつ病とは診断できないのに、子供の頃からいつも「自分は必要がない、いらない存在だ」と考えてしまう人もいます。心の中には、つねに自分を否定する感情がうずまいていて、そのために生きづらさを感じている人です。無価値感が染みついてしまった原因は、子供の頃の否定された経験の積み重ねと考えられます。
死別や離婚で親を失った、親や学校の先生からいつも否定的な言葉をかけられてきた、クラスメートからいじめを受けてきた、こうした辛い体験の積み重ねから起きているのです。愛着障害とか複雑性PTSDという診断がつけられる場合もあります。
今回は、このように無価値感が心に染みついてとれない人の6つの特徴について説明しましょう。
1 人の役に立っていないと気がすまない
自分に生きる価値がないと感じているので、努力して人の役に立とうとします。人の役に立っていないと自分に価値を感じません。何かに役に立っている状況が続いていれば安心を感じますが、それができなくなると消えてなくなりたいと感じます。
無理をしてでも人に役に立とうとするので、うつ病や適応障害などの心の病気になりやすい傾向があります。病気になっていつものことができなくなると、自分の生きている意味を失い、自死を考えてしまうこともあるでしょう。
2 人の気持ちに敏感
自分に価値はないと思っているので、他人の評価が、そのまま自分の価値です。どう思われているか、いつも気になっています。人と会うと、よく思われようと気を遣い過ぎて疲れます。
3 うまく行っている人と比べて自分を責める
自分の価値に敏感なので、無意識に人と比べてしまいます。輝いている人、うまく行っている人と比べては、自分には価値がないことを責めます。SNSには成功を自慢する人が多いので、それを見るたびに気持ちが落ち込みます。
4 どうせ何をやってもうまく行かないと思う
よい仕事に出会ったり、人を好きになっても、どうせうまく行かないと思います。ですから、仕事でも恋愛でも積極的になれません。幸せを感じても、すぐに壊れると感じます。
5 自分の成功を認められない
仕事でそれなりの実績を積み上げた人であっても、自分の力で成功したとは思えません。たまたまうまく行っているだけと考えます。謙虚というわけではなく、自己評価が低すぎるのです。褒められても、嫌味に聞こえてしまうことがあります。ですから、新しい仕事を託されると、うまくできる自信がないために、不安で仕方ありません。
周りから実力を認められ、職場でよいポジションを与えられても、「実力がないのに周りを騙している」と感じる場合もあります。これを「インポスター症候群」と呼びます。「インポスター」とは詐欺師という意味です。
6 完全主義
柔軟な発想ができず、物事を白か黒で判断する傾向があります。そのために、よくない出来事があると、自分が原因であると感じ、徹底的に自分を追い込みます。よくない出来事が起きるたびに、自分には価値がないという考えが確信となるでしょう。この悪循環でいつまでも無価値感から抜け出せません。
うつ病の症状で無価値感を感じる場合は、薬の治療で改善されて行きます。しかし、子供の頃からずっと無価値感を感じている人は、愛着障害とか複雑性PTSDという病名がつけられて、確実な治療方法がありません。
最近はポジティブ心理学が流行しているので、物事をポジティブに考えれば解決するようなアドバイスを受けやすいのですが、無理やり自分に価値があると言い聞かせても変わりません。また、インポスター症候群のように、何か成功をして、人から認められたら改善されるものでもありません。努力して解決できるものではないのです。
それでは、どうしたら無価値感から抜け出せるのでしょうか?実は、変わろうとする努力ではなく、癒されることが必要なのです。自分を肯定する感情、すなわち「生きていていいんだ」と感じることは、誰でも生まれつき備わっているものです。
ところが、子供の頃に生きることを否定され続けたので、自分を肯定する感情は抑え込まれてしまいました。時間はかかりますが、生きることを楽しむことを通して、本来の自分を肯定する気持ちが少しずつよみがえってきます。信頼できる人と話ができる、ペットとふれあう、趣味に興じる、こうした日常の安らぎや楽しみを経験することで癒されていきます。特に信頼できる人との出会いは大切です。いっしょにいて安らげるパートナー、友人、カウンセラーの存在はとても大きい力となります。
うつ病の療養中で苦しい…具体的な場面と対処法
うつ病は、例え治療を始めたからと言ってもすぐに治る病気ではありません。かぜのように、1回病院で薬をもらったら終わりではないのです。最低、数か月間は通院しないと良くなりません。良くなる日もあれば、調子を崩す日もあり、全体としては、「3歩進んで2歩下がる」という感じで良くなっていきます。
しばらくは辛いことが続くため、調子が悪い時には、ネガティブになってしまうこともあるでしょう。また、うつ病の療養中に限って、「同期が出世した」、「友達が結婚した」など、周りがうまくいっているニュースが耳に入ってくるものです。
そうすると、世の中から自分だけ取り残されたような気持になってよけい不安になります。将来のこと、仕事のこと、お金のことなど、病気以外のことでも悩んでしまいます。
今回は、うつ病の療養中に具体的に苦しくなる状況を紹介し、その対処の仕方について説明しましょう。
1 心配や不安で押し潰されそうになる
一人でいると、将来のこと、仕事のこと、お金のことなど、ネガティブな考えが止まらなくなり、「このままではいけない!」と焦ってしまうことがあります。
答えの出ない問題が頭の中をグルグルとまわり、マイナス思考の底なし沼にズブズブとはまってしまうのです。こんな時は考えることにブレーキをかけなくてはいけません。しかし、人は、考えを止めようとすればするほど、考えてしまうもの。考えを止めるためには、体に意識を向けることがコツです。
まずは深呼吸。ゆっくり腹式呼吸をして、全身に酸素が行き届く感じに意識を集中してみるのです。ストレッチや体操など、体を動かすのも良いでしょう。日頃から、散歩、軽い運動、ヨガなどを習慣にしておくことをお勧めします。
何かおいしいものを食べて、意識を味覚に向けるのも手です。また、誰かに電話をしてみて、会話に集中してみるのも良いでしょう。何をしてもダメなら、思い切って早めに眠ってしまいましょう。
ただし、アルコールで考えを止めるのはお勧めではありません。アルコールが抜けたときによけい苦しくなったり、習慣になることもあります。
2 できない自分を責めてしまう
うつ病は、気力がなくなり、今までできた事ができなくなる病気です。できないのは当然なことです。しかし、何事も頑張って生きてきた人からすれば、これを怠けとか努力不足と感じます。そして、「ダメな人間だ」と自分を責めてしまい、ついには生きる価値がないという結論が出てくることもあるでしょう。
人生うまく行っている時は、「どうして生まれてきたのか」、「人生の目的は何か」と、哲学的なことを考えることはありません。自分を責め続け、「生きる価値のない、世の中に必要のない人間だ」と、哲学的になってしまうのは、うつ病の症状です。
できないことは、努力不足とか、怠けではありません。むしろ、病気が良くなってくると、何かできそうな感じが出てくるので、できないことに焦りを感じます。病気であることを再認識しましょう。
理屈では分かっても、それでも自分を責めてしまう場合は、不安や心配でパニックになる場合で説明したように、意識を体に向けるようにして、自分の価値については考えないことが大切です。そもそも自分にどのような価値があるかは、誰にも分からないことです。
3 消えてなくなりたい
自分を責め続けていると、消えたい気持ちが衝動的に来ることがあります。これは、自殺につながる大変危険な症状です。一人で抱え込まずに、誰かに助けを求める連絡をしましょう。
4 ヒマなのに、何をしたら良いのか分からない
うつ病が良くなってくると、仕事を休んでいる場合、時間を持て余してしまうことがあります。「ヒマなのに、何をしたら良いのか分からない」「朝起きて、今日も1日やることがない」と感じるのです。
仕事で忙しい人が聞いたら、幸せな悩みと勘違いされますが、うつ病の人は、「時間があるならば、何か建設的なことをしなくてはならない」という強迫観念をもっていることが多く、やるべきことができない状況をこのように表現することがあります。実際には、「できないのに、時間だけがある」という意味なのです。
そもそも何もできないのですから、「病気だから仕方ない」と開き直るしかありません。とりあえず好きなことをして1日を過ごしましょう。ゲームでも、動画を見るのでも、何でも良いのです。建設的なことは何もできなかったと後悔する必要はありません。こうした1日の過ごし方でもうつ病は回復していきます。
5 友人に病気を言えない
うつ病のために人付き合いをしなくなると、友人から付き合いが悪くなったと誤解されることがあります。うつ病を説明しても、心配してもらうどころか、「そんなの気の持ちようだよ」と、病気であることを認めてもらえず、傷ついてしまうことも良くあることです。
病気のことを伝える場合は、分かってもらえる人にだけに伝えるようにしましょう。病気と理解しない友人は、本当の友人ではないのかも知れません。
うつ病は、無理をして頑張ってきた人ほどなりやすい病気です。しかし、病気は頑張って治すものではありません。むしろ、「病気だから仕方ない」とあきらめて、「何もできないことが当たり前」と開き直ることが大切です。薬の力を信じて、自然な回復を待ちましょう。
未来のことはできるだけ考えないことです。また、元気だった頃と今の状況を比べず、むしろ最悪だった時と比べて、「先月より良くなっている」、「去年より良くなっている」と長い間隔で症状をとらえるようにしましょう。
また、お金のこと、仕事のことなどの具体的な心配事は、自分だけで抱え込まずに病院の医師やケースワーカーなど、病気をよく知っている人に気軽に相談してみましょう。
心の不調をどこに相談しますか?
みなさんは、心の悩みがあった時にどこに相談しますか?身近な家族や友人が相談にのってくれたら一番ですが、専門家を訪ねなくてはならないケースもあります。
例えば、心配が頭から離れないという悩みではどうでしょうか?心配ということだけなら、心理カウンセラーが窓口になりますが、心配で眠れない、食事が喉を通らないとなると、心の病気の可能性があるので、精神科を訪ねた方がよいでしょう。交際相手と結婚するべきかという心配であれば、有名な占い師に相談する人もいるかもしれません。
こんな感じで、心の悩みの相談は、その内容によって相手をよく選ぶべきです。今回は、専門的な相談の場所として、占い、宗教、心理カウンセラー、精神科のそれぞれの特徴を説明しましょう。
1 占い:人生の選択の相談
現代は占いブームです。政治家、実業家などの大きな事業にたずさわる人にも、占い師にアドバイスをもらうことがあります。占いは、長い歴史の中で、経験の積み重ねながら築かれたものです。決して科学で否定できるものではありません。
占いには様々な種類がありますが、その人の生まれもった性格、運勢をみていきます。その価値は、当たる当たらないの問題でなく、人生の道しるべとなって、人を幸せに導くものです。ただし、人は自分で考えて行動し成長します。
自分で決めなくてはならないところまでカリスマ占い師に決めてもらっていたら、自分で物事を考えなくなり、心の成長もありません。運勢は100%決められているのでなく、自分で切り開く部分もあります。最後は自分で選択をしましょう。
2 宗教:生きる目的や価値の相談
見えない神仏との関係を説くものが宗教です。そこから生きる目的や価値を知ることができます。中世の時代は、悩み相談といえば教会や寺に行きました。現在では、伝統的な宗教は儀式が中心となってしまい、初詣や葬式でお世話になるくらいになりました。
歴史を見ていくと、伝統的な宗教の人気がなくなると、必ず新しい宗派が生まれてきます。現代では、伝統的な宗教に代わって、たくさんの新宗教が悩みの相談役を担うようになりました。
新宗教には、必ずカリスマ的な指導者がいます。神仏を信仰することが、いつのまにか指導者を信仰しているという危険性もあります。カリスマと言えども、神仏と私たちの橋渡し役です。相談をしたとしても、最終的には自分の良心に従い、自分で物事を決めるようにしましょう。
また、宗教には病気治しがあります。聖書には、イエス・キリストが脳卒中、ライ病などを治した記録があり、フランスのルルドの泉には、聖母マリアの力で病気が治る奇跡が起こると言われており、いまでも巡礼者が絶えません。イタリアのカソリック教会ではエクソシストが行われています。
こうした宗教による病気治しには本当に効果があるのでしょうか?歴史的にも何度も調査が行われていますが、奇跡と言えるような報告があるのも事実です。しかし、すべてのケースで確実に起きるものではありません。心の病気にはまず精神科を受診しましょう。
むしろ、統合失調症の人に除霊などの宗教的な治療を施すと、幻覚や妄想が悪くなるので注意が必要です。カソリック教会のエクソシストに関しても、精神科医で統合失調症でないことが診断されない限り受けることはできません。
3 心理カウンセリング:心の悩みの相談
カウンセリングとは、そもそも「相談」「助言」という意味でした。起源はユダヤ教やキリスト教にあります。しかし、人の心の苦しみを解くためには、助言よりも話をよく聞いてあげることが大切であると理解されるようになり、現在の心理カウンセリングのスタイルが生まれました。
意見を挟まずに聞いてもらえることから信頼が生まれ、心に寄り添ってもらうことができます。そこから自分で悩みを解決する力が育ち、心の成長にもつながります。
注意しなくてはいけないことは、健康的な範囲の心理を扱うのが心理カウンセリングで、病的な心理を扱うのは精神科です。心理カウンセリングは心の病気を治す場所でありません。
4 精神科:心の病気の相談
心の病気を治すのが精神科です。悩みや心配事でも、日常生活に支障が出るような場合ならば病気と考えるべきです。心理カウンセラーでなく精神科を受診しましょう。
ただし、保険診療で診察時間に制限があるため、精神科医は、脳の働きを調整する薬の治療が中心です。心の病気の根っ子にある悩みに関しては、共感してもらえないこともあります。そのような場合は、心理カウンセラーなどに治療を補ってもらう必要があるかも知れません。
また、悲観的になって、これまでの生き方に価値を見出せなくなり、人生の目的を深刻に求める場合、うつ病の症状である可能性もあります。こうした場合の最初の相談場所は宗教ではなく、まず精神科を受診する必要があるでしょう。
心の悩みで長年、占いや宗教、そしてカウンセリングを訪ねて解決できず、精神科でうつ病の薬を飲んだら悩みがなくなった人、それとは逆に精神科でなかなか治らなかった不安症が、信頼できる恋人に相談したら薬がいらなくなった人など、実際にいろいろなケースがあります。心の悩みに、正しい答えを導いてくれる場所や人に出会えることはとても大切なことです。そして、相手を信頼できるということが最も重要です。
心の病気と脳の関係
心の病気を治すのに、カウンセリングと聞くと納得しますが、薬というと抵抗がある人もいます。「何で見えない心の治療に物質である薬をつかうのだろう?」と疑問に感じるのです。また、心に影響を与える物質と言えば、麻薬やアルコールを連想する人も多く、「辛いことを薬で誤魔化している」と勘違いしている人もいます。
脳と心には密接な関係がありますが、まだ十分に解明されていません。脳の働きが心をつくっているという考えを唯物論と呼びます。また、脳と心は別の存在で、お互いに影響しあっているという考えを心身二元論と呼んでいます。
日本人のほとんどは唯物論を信じていて、唯物論の脳科学者もたくさんいますが、実際には証明されていません。しかし、唯物論にしても、心身二元論にしても、脳の働きと心の動きには相関関係があることは事実です。脳の働きに異常がみられると、心も不安定になります。
脳の働きで重要な役割を果たしているのが、神経伝達物質と呼ばれる物質です。およそ20種類の神経伝達物質が、脳の中でバランスよく分泌されることで脳の活動が維持され、心の安定も保たれています。
これらの分泌のバランスが悪くなると、心も不安定になり、ついには心の病気になります。ですから、薬を使って神経伝達物質のバランスを整えると、心の病気も回復に向かうのです。
それでは、どのような神経伝達物質があり、心の病気に関係しているのでしょうか?今回は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、GABA(ギャバ)という、心の病気に関係する代表的な4つの物質について説明しましょう。
1 セロトニン・心の安定
セロトニンは、他の神経伝達物質の分泌を調整することで、脳の働きのバランスを保ち、心を安定させる役割があります。そのため「幸せ物質」とも言われています。
ストレス、心配事、緊張が長く続くと、セロトニンの分泌が少なくなります。すると脳のほぼすべての機能は低下し、心の安定が崩れます。不安や焦りが出てきたり、自律神経失調になり体調も悪くなります。
うつ病、パニック症、不安症、強迫症、過食症は、セロトニン不足で起こります。それ以外のほとんどの心の病気も、このセロトニン不足が関わっています。
セロトニンを増やすためには、SSRI(エスエスアールアイ)という薬がよく効きます。SSRIには、レクサプロ、ジェイゾロフト、パキシルなどの種類があり、うつ病、パニック症、不安症、強迫症、過食症に広く使われています。
日常生活で、セロトニン不足を解消するためには、まず十分な睡眠です。それから、規則正しい生活、バランスのよい食事、運動、日光に当たることも大切です。瞑想やヨガにもセロトニンを増やす効果があります。瞑想と聞くと宗教的なものをイメージする人も多いと思いますが、最近では、宗教的な要素をはずし、リラックス健康法としてのマインドフルネスが広まっています。
脳は特殊な膜に包まれているので、セロトニンが含まれているものを食べても脳には届きません。トリプトファンというアミノ酸を原料にして、脳の中だけで作られています。ですから、トリプトファンの含まれている豆類、肉、魚などを多めに食べるのがよいでしょう。
2 ドーパミン・喜び
ドーパミンは、喜びを感じる物質です。「快楽物質」と呼ばれており、脳を興奮させる作用があります。麻薬やアルコールは、ドーパミンを増やすことで気分がよくなります。甘い物、買い物、ゲームやギャンブルなどで気分がよくなるのもドーパミンが増えるからです。ただし、増えすぎると躁状態になったり、幻覚や妄想を感じる人もいます。
統合失調症や双極性障害の躁状態は、ドーパミンの分泌が増え過ぎた病気です。治療には、ドーパミンを減らすための、リスパダール、エビリファイ、ジプレキサなどの抗精神病薬が使われます。
3 ノルアドレナリン・やる気
ドーパミンは代謝されて、ノルアドレナリンという物質に変わります。これは、集中力を高め、脳のパフォーマンスを高めますので、やる気を出す物質です。交感神経を興奮させて、闘うモードにしてくれます。ただし、ノルアドレナリンが分泌され過ぎると、怒り、恐怖、パニック発作につながることがあります。
うつ病やADHDの人に、集中力の問題が出ることがあります。これは、ノルアドレナリン不足があると考えられており、ノルアドレナリンを増やす薬が使われることがあります。
4 GABA(ギャバ)・心を落ち着かせる
GABAは、サプリやチョコレートの名前で聞いたことがあるかも知れません。脳の興奮状態を抑えてくれる神経伝達物質です。これが多く分泌されることで、不安や焦りをなくし、気分を楽にしてくれます。自律神経を整え、血圧を下げるなどの働きもしてくれるのです。抗不安薬や睡眠薬は、このGABAを増やす作用があります。
セロトニンのところでも説明しましたが、脳は特殊な膜に包まれているので、サプリのGABAを食べても直接脳には届きません。ただし、食べたGABAは、腸の神経と反応し、それが脳に伝わり、脳のGABAを増やすように働きかけてくれます。
私たちは、気持ちが辛い時、アルコールを飲んだり、甘い物を食べたり、買い物をしたり、ゲームをしたりと、生活に刺激を求めます。これは一時的にドーパミンを増やして、快楽で辛い気持ちを解消しようとしているのです。
しかし、快楽による解消法だけでは、いつの間にか脳の物質のバランスが崩れてしまい、むしろ心の安定は崩れてしまいます。それどころか心の病気になる可能性もあるのです。麻薬の例をあげると分かりやすいと思います。麻薬は、ドーパミンを大量に増やして快楽を感じられますが、何度も使っていると、脳の物質のバランスが崩れ、いつのまにか依存症になったり、人格も崩れてしまうのです。
また、精神科の薬を麻薬と同じと考える人もいますが、麻薬のように快楽物質を無理やり増やすものではありません。今回説明したように、神経伝達物質の過不足を調整するために用いられるもので、医師の指導のもとで安全に服用できます。
心を安定させるためには、何よりも、セロトニンを増やすような生活を送ることが大切です。セロトニンのところでも説明したように、具体的には、十分な睡眠、規則正しい生活、バランスの良い食事、日光に当たる、運動をすることです。瞑想やヨガもおすすめです。
親に甘えられなかった人の4つのタイプ
子供の頃の親子関係は、大人になってからの人間関係に影響を与えます。例えば、父親がお酒を飲んで母親に暴言を吐くような家庭では、毎晩の修羅場を避けるために、子供は親に甘えることをしなくなります。グレたり心の病気になる場合もありますが、心の優しい子供は親の機嫌をとるために努力をします。親の言うことには絶対に服従する、積極的に親の機嫌をとるなど、さまざまな役割を演じるようになるのです。
このようにして子供の頃に身についた処世術は、大人になっても続き、友人やパートナーにも同じようなふるまいをするようになります。
親がアルコール依存の場合だけでなく、何らかのもめ事がある家庭に育った子供は、甘えたいのを我慢しながら、家庭を壊わさないような独特な人間関係のパターンを学んでしまいます。
このような親に甘えられなかった人をアダルトチルドレンと呼びます。正確には「アダルトチルドレン・オブ・アルコホーリクス」と言い、日本語に訳すと「アルコール依存症の家庭に育った人」という意味です。
心理学者のブラックによると、大人になってからの人間関係のとり方で、アダルトチルドレンは4つのタイプに分けられると考えられています。そして、それぞれに違った生きづらさを感じています。今回は、親に甘えられなかった人が、どのような大人になるのか、4つのタイプを紹介しましょう。
1 責任を背負い込む人
親を頼ることができなかったので、何でも一人でやってきた人です。よい成績をとるなど、子供なりに結果を出して親を慰めてきました。大人になっても責任感がつよく、完全主義のため、仕事で成功して周りからは評価を受けます。
「しっかりした子供」と呼ばれていましたが、実際はかなり無理をしてきているので、情が育っていません。人を心から信用できず、気持ちを伝えるのが苦手です。相手の気持ちを理解できず、思いやりに欠けるところもあります。仕事でも家庭でも、自分のやり方を押し付けようとします。よい理解者と出会わない限り孤独な人です。
2 順応者
情緒不安定な親に合わせて生きてきた人です。親のペースに合わせることが最優先で、自分の気持ちを押し殺して子供時代を過ごしました。大人になっても、全体に合わせようとする生き方は変わらず、職場でも家庭でも、「良い人」「適応力がある」と評価されます。
実際には、自分で納得して周りに合わせている訳ではないので、自分の意見や責任感はありません。自分を主張する自信がなく、いつも孤独や寂しさを感じています。家庭をつくっても、パートナーとは心の距離を置いて、自分の主張をしません。
3 なだめ役
両親がけんかをしたり、巻き添えになって怒られないように、親の気持ちに先回りして、機嫌をとり続けてきた人です。大人になっても場の空気に敏感で、職場でも家庭でも犠牲を払って平和を保とうとします。暖かく世話好きな人で、医療・福祉・教育・心理関係の仕事を選ぶことがあります。
しかし、自分の気持ちに余裕がない時でも、相手を援助し過ぎて燃え尽きてしまうことがあります。また、援助のやり過ぎは、相手の自立を妨げてしまうこともあるでしょう。常に世話が必要な心に問題のある人に引き寄せられる傾向もあり、パートナーにもそのような人を選びやすいと言われています。
4 犠牲者
親が暴力を振るう、いつも夫婦げんかをしているなど、家庭に居場所がないために、家出や非行に走る人です。逃げ出すことができずに心の病気になってしまう人もいます。
実際の問題は親にあるのに、その身代わりになっているので、犠牲者とかスケープゴートと呼ばれています。早すぎる結婚や出産をしたり、アルコール依存、薬物依存、摂食障害などの問題が起きることがあります。
親に甘えられなかったと感じている人は、4つの中のどれかに当てはまったでしょうか?タイプは1つでなく、いくつかが重なることもあります。自分の人間関係のパターンを知ることは、生きづらさを解消するために大切なことです。最後に、それぞれのタイプごとに生きづらさを解消するヒントを紹介しましょう。
責任を背負い込む人に当てはまる場合は、責任の背負い過ぎに注意です。何かの依頼が来てもすぐに返事をせずに、何のためにやるのかを考えるようにしましょう。気持ちよくできないことは断る勇気を持つべきです。また、何でも自分一人でやろうとする傾向があるので、人を信じて任せてみることも大切です。
責任を背負い込む人は、知らないうちに自分のやり方を人に押し付けていることがあります。コミュニケーションを大切にして、相手の立場にたって物事を考えるようにしましょう。物事を効率優先、結果優先に考えがちですが、無駄と思えることに時間やお金を使うことも人生には必要なものです。
順応者に当てはまる人は、我慢のし過ぎに注意です。思っていることを言葉で出して相手に伝えるように努力してみましょう。心から楽しめるような本当にやりたいことを探すことも大切です。
なだめ役に当てはまる人は、相手に尽くし過ぎることに注意です。人を助けることはとても良い事ですが、これ以上やると自分が燃え尽きたり、相手をダメにしてしまうという境界線があります。いつもその境界線を考えるようにしましょう。そのような意味で、医療・福祉・教育・心理の仕事に就いて、正しい奉仕活動のやり方を学ぶことはよいことです。
犠牲者に当てはまる場合は、第三者の助けが必要かも知れません。今現在、何かの問題を抱えているならば、医療機関などの専門家に相談してみましょう。
心が壊れそうな時に起きること・心と体が離れてしまう病気
人は、受け止め切れないほどショッキングな出来事があると、どうなるのでしょうか?体を置いたまま、心だけがその場から逃げ出してしまうことがあります。
私たちの心は、普段は体に束縛されていますが、非常事態に勝手に体から離れてしまうことがあります。心が体や現実から離れてしまうことを心理学では解離と呼んでいます。
実は、軽い程度の解離ならば、日常ふつうに起きている現象です。例えば、スマホの動画に没頭して、周りの出来事に気づかないことがあります。体を現実世界に置いたまま、心は動画の世界にいるのです。
他にも、電車に乗って考え事をしていると、いくつかの駅を通ったことを思い出せないことはありませんか?これは物忘れでなく、駅を通り過ぎる時に心が体から離れていたために、景色やアナウンスを感じていなかったのです。解離している間、体はロボットのように自動運転モードになっていますが、何かあるとすぐに心は戻ってくることができます。
解離は、自分を守るための心の大切な働きです。子供が親から虐待を受けた時、苦しみや痛みを感じないように、心がイメージの世界に逃げ込むことがあります。そのおかげで、親からの罵声や、打たれた痛みは、実際よりも遠のいて感じられます。虐待が始まると感じたら、自分の意志で解離する子供もいます。
解離している間、心の抜けた体はボーとして反応がなくなっていることもあれば、泣きわめいていることもあります。
また、孤独な子供が、イメージの世界で友達をつくることがあります。これは、「イマジナリーコンパニオン」とか「イマジナリーフレンド」と呼ばれており、現実にはいない空想の友達と話したり、遊ぶことができるのです。
子供の頃にこのような体験を何度もしていると、大人になっても、些細なことで解離しやすくなります。否定される、気に入らないことがある、お腹がすく、体調が悪い、こうしたことがスイッチとなって、解離してしまうことがあります。中には、自分でスイッチを入れて、解離できるようになる人もいます。霊能者とかスピリテュアルと呼ばれる人たちです。
ただし、解離が予期しない時に起きたり、いつまでも心が戻って来ないこともあります。こうなると日常生活に大きな支障が出るでしょう。これは解離症という病気です。
解離症は珍しい病気ではありませんが、どこに相談したら良いかを悩んでいる人もたくさんいます。解離症にはいくつかの種類がありますので、それぞれについて説明しましょう。
1 離人症、現実感消失症
心が体や現実から離れてしまうと、具体的には次のように感じます。「自分の体が自分でない」「外から自分を眺めている」「ずっと霧がかかっている感じ」、「まわりの人がロボットのように無機質に見える」「時間が過ぎる感覚がおかしい」。このような状態で生活に支障が出ることを、離人症または現実感消失症と呼んでいます。
これは、短時間のものを含めれば、20パーセントの人が経験したことがあるというデータもあるくらい、心の病気の中では多いものです。また、うつ病や不安症などの精神疾患の症状として見られることもあります。
残念ながら専門的な治療方法はありませんが、心配事がなくなり、生活が安定すると自然に良くなります。他の精神疾患の症状である場合は、元の病気が良くなることで同時に改善されます。
2 解離性憤怒
普段は優しくて大人しいのに、些細なことでキレて別人のようになる人は、解離の可能性があります。暴言を吐いて怒っている間、本当の自分は背後からボーとその姿を眺めているだけです。
解離がおさまっても、とんでもないことを言って騒いでいたことをよく憶えていません。これを解離性憤怒と呼んでいます。抑え込まれていた怒りの感情に体を乗っ取られてしまうのです。
怒って相手を傷つけているのに、自分自身はそれを憶えていないのですから、人間関係のトラブルになります。あんなに怒っていたのに、いつも通りに付き合おうとしたり、自分は怒っていないと主張するので、信用できない人とレッテルを貼られてしまいます。
これは、境界型パーソナリティ症の人にもよく見られる症状で、人から拒絶されたり、見捨てられるような状況が解離のスイッチになります。
解離性憤怒は、怒りをコントロールするというよりも、解離しないようになることが大切です。治療としては、情緒が不安定だとスイッチが入りやすいので、普段の気分を安定させることが目標になります。
また、何が解離のスイッチとなりやすいのか、自分も周りの人もよく理解することが必要です。そのような状況を避けるようにしましょう。
3 解離性健忘
解離により、その間の出来事を記憶していないことを解離性健忘と呼びます。例えば、何かショッキングな出来事から解離してしまい、東京で行方不明になった人が、1週間後に九州で発見された、といった感じです。どうやって九州まで行ったのか、その間どのように過ごしたのかを憶えていません。中には、数年間の自分の記憶を思い出せない人もいます。
4 解離性同一症
心が留守になっている間、体が別の人格に乗っ取られてしまうことを解離性同一症と呼びます。いわゆる多重人格です。映画やアニメにあるように、乗っ取る人格は「私は別人格の○○である!」と名乗るようなことはしません。
傍から見ていると、いつもの雰囲気と違う印象を受ける程度です。後から本人に聞いてみると、自分は後ろにいて、ボーと眺めていたとか、憶えていないと主張します。解離性同一症は、極めて稀な病気です。
精神医学や心理学では、子供の頃に虐待を受けると、苦痛を引き受ける新しい人格が生まれると考えています。そして、体の中に何人かの人格がいっしょにいて、出たり入ったり交代をすると言うのです。この考え方の根拠になっているのは、1970年代に発表された、アメリカのシビルという女性の証言です。
シビルは親から虐待を受け、その度に新しい人格が生まれ、最終的に16人の人格を持つようになりました。この自伝的な内容は本や映画になり、社会に大きな影響を与えました。しかし、2011年にシビルの証言は嘘であったことが暴露されています。精神分析家とジャーナリストもグルになり、話題性を狙って話を捏造していたのです。
このように、体を乗っ取る人格がなぜ存在するのかは未だに解明されていません。東洋には、昔から憑依という考え方があります。死者の霊が、解離で心の抜けた体に取り憑くというものです。現在でも、霊を取り除くための除霊の儀式は世界中で行われています。
例えば、イタリアでは、精神科医が精神病でないと診断された場合、カソリック教会でエクソシストにより除霊を受けることができます。エクソシストは映画やアニメだけのことではないのです。
解離症について説明しました。解離症は、心と体のつながり、もしくは心と現実のつながりが悪いことで起こりやすくなります。ですから、それぞれのつながりを深めることが治療になります。
心と体のつながりを良くするためには、まずは体を健康に保つことをしましょう。健康な体を通して、心に良い感覚を感じてもらえるようになれば、心と体はつよくつながるようになります。
また、現実が辛く、生活に安心感がないから、心はどこかへ逃げ出したくなります。心と現実のつながりを良くするためには、辛いことを減らして、楽しいことを増やして行くことが必要です。安心感のある生活が、心と現実のつながりを安定させてくれるのです。
ひきこもりの3つの原因
コロナ禍が明けた2023年、内閣府の発表によると、日本には146万人の引きこもりの人がいます。これは日本の人口のおよそ1%に当たり、男性が女性の4倍です。ひきこもりは、不登校や退職から始まることが多いのですが、特にコロナ禍での失業をきっかけにひきこもりになった人は、全体の20%もいます。
ひきこもりとは、半年以上毎日を家で過ごし、社会との接点がなく家族とだけ交流があることを言います。1日中部屋から出ない人もいれば、コンビニやスーパーへの買い物などをしている人もいます。ただし、病気のために自宅療養している人は、ひきこもりとは言いません。
ひきこもりは、40才以上の中高年の人が半数以上を占めており、80代の年老いた親が、50代の子供の面倒をみているという家庭もあります。これを8050問題と呼んでおり、社会問題として取り上げられています。このように年齢を問わず、たくさんの人がひきこもるのには何か理由があるのでしょうか?
今回は、ひきこもりの3つの原因について説明しましょう。
1 心が傷ついたまま戻らない
ひきこもりは、ある日突然起こるものではありません。否定されてばかり、苦労ばかりで実りがない、馬鹿にされる、仲間外れ、いじめ、こうした辛い仕事や学校生活を無理して続けているうちに、生きるエネルギーが徐々に枯れていきます。
ついに心が燃え尽きて、長い休みをとったことが引き金になり社会に戻れなくなるのです。そして、回復できないまま、半年、1年と時間だけが過ぎて行きます。ひきこもりの半数くらいが、このような燃え尽きによるものと考えられています。
限界まで我慢している状況で、一旦休みをもらうと緊張の糸が切れて、立ち上がれなくなるのです。コロナ禍でひきこもりの人が増えたのも、ずっと我慢して働いていた人が退職や在宅となり、そこから次へ進む気力を失ったのが原因と考えられます。こうした背景に、長年続いた不況により、日本には職場環境の悪い会社がたいへん多いことがあるでしょう。いわゆるブラック企業です。
それでは、しばらく休んだら、ひきこもりをやめて次へ進めばよいかと思えるのですが、そう簡単に行きません。傷ついた心を回復させ、失った自己肯定感を取り戻さなくては社会に戻ることはできません。
ところが、癒されなくてはならない心をもっているのに、社会からは「負け組」「逃げている」と呼ばれ、家族からは「いつまで休んでいるの?」「他の人たちは頑張っているよ」「恥ずかしいから近所の人に見られないようにして」と大切にされず、癒されることはありません。
せめて、家族から、「頑張ったのだから、しばらくゆっくりしていたらいいよ」と労いの言葉があれば違うのでしょうが、そうでないことの方が多いのです。ひきこもりを好きでやっている人はいません。このままではいけないと一番焦っているのは本人です。しかし、ひきこもっている家庭の中に、傷ついた心を回復させられる力がないため、心は枯れたままで先へ進む力が湧いてこないのです。
このように、ひきこもりの大きな原因として、ブラック企業が多いこと、そして、家庭や社会に傷ついた人を癒す力がないことがあります。例えば、マラソン選手がすべての力を出し切って、ゴールをすると倒れこんでしまいます。
そこで、コーチから水分や労いももらえず、「すぐにまた同じコースを走ってこい!」と言われても、心も体も動きません。ゴールに倒れてジッとしているしか手がないのです。
2 大人の発達障害やパーソナリティ症がある
発達障害とパーソナリティ症は生まれつきの要素がつよい障害で、症状が軽い場合は、自分でも周りも気づくことなく過ごします。発達障害とは、脳の発達の偏りのために、相手の気持ちや場の空気を読み取る力に劣っていたり、物事へのこだわりがあります。
パーソナリティ症は、社会と関りをもとうとしない、極端に依存的などといった性格の偏りがあるものです。どちらも、人付き合いやグループの活動がうまくできません。生まれつきのものなので、自分の努力では改善できず、我慢しながら学校や職場の生活を送るしかありません。
我慢の限界のタイミングで長い休みがあったり、仕事を辞めたりといったきっかけがあると、そのままひきこもりになることがあります。「自分はダメな人間だ」「社会に必要ない人間だ」と自信を失っており、努力しても同じ苦しみを味わうことが分かっているので、再び社会に出ていく力は湧いて来ません。
このように、発達障害やパーソナリティ症があることに気づかないまま、社会に適応できずに挫折してひきこもりになるケースは、全体の40%以上と考えられています。
3 未治療の心の病気がある
心の病気は、自分も周りも気づかないうちに発症することがあります。病気の症状でひきこもっているのに、それに気づかずにいるケースは全体の20%と言われています。
ひきこもりを起こす心の病気には次のようなものがあります。
・心身症:子供のひきこもりの原因になる代表的なものです。頭が痛い、腹が痛い、朝が起きられない、と訴え、小児科や内科で検査をしても異常がみつかりません。原因不明の痛みや自律神経失調などがみられる病気です。
・社交不安症:周りから変な目で見られているという不安や緊張から、人前に出られなくなる病気です。以前は対人恐怖症と呼ばれていました。
・強迫症:強迫症の中でも、口臭、便臭、腋臭(わきが)など、自分の臭いが人に迷惑をかけると思い込んでしまうことを自己臭症(じこしゅうしょう)と呼んでいます。自己臭症はひきこもりの原因になりやすい病気です。
・醜形恐怖症(しゅうけいきょうふしょう):自分の姿が醜いと思い込み、人に見られたくないために外に出なくなる病気です。何度も美容整形を受ける人もいます。
・統合失調症:人に監視されている、悪口を言われている、というような被害妄想により
外へ出ることが不安になる病気です。
これらの病気は、薬の治療で回復することができます。病気がよくなると、ひきこもりも改善されて行きます。ところが、長い間病気があることに気づかなかったり、本人もこれ以上傷つくのが嫌で治療を希望しないこともあり、ひきこもりが長く続いてしまうことがあります。
人がひきこもるのには必ず理由があります。決して怠けているわけではなく、好きでひきこもっている訳ではありません。どうして良いか分からずに一番苦しんでいるのは本人です。力ずくで家から連れ出そうとしてもよい結果はえられません。
保健所や病院に相談窓口があります。ひきこもりの背後に、発達障害、パーソナリティ症、心の病気が隠れていることも大変多いので、早めに専門機関に相談しましょう。