気分変調症ってどんな病気?
うつ病は、元気に生活していた人が、気分が落ち込むようになり、生活に支障が出てしまう病気です。ところが、いつ発病したか記憶になく、物心ついた頃からずっと気分が落ち込み、自分は必要のない人間であると思い続ける病気があります。
これはうつ病とは違い、「気分変調症」・「持続性抑うつ症」という病気です。子供や学生の頃に発病することから、「子供の頃からずっと死にたかった」と訴える人もいます。
軽いうつ病と同じような症状ですが、学校や職場には行けるので、病気というよりも性格と考えている人もいます。昔は、「抑うつ性人格」と呼ばれていた時代もありました。
軽いうつ病の症状が、2年以上続いている場合に診断がつけられます。実際に病名をつけられる場合は、気分変調症と言う言葉よりも、分かりやすいので、うつ病と言われることが多いかも知れません。しかし、正確には、うつ病とは近いものでも、違う病気として分類されています。
実は、とても多い病気で、人口の5%に見られるという調査結果もあります。ところが、性格の問題と考えてしまい、辛くても治療をしない人がたくさんいます。
今回は、気分変調症とはどのような病気か説明しましょう。
1 子供の頃から死にたかった
「気分変調」という言葉は、そもそも不機嫌という意味から来ています。周りの人からは、病気というよりも、いつも機嫌が悪い人とか、無気力な人に見られます。いっしょに生活している家族から、「暗い」、「不愛想だ」、「元気を出しなさい」と叱られることもあるでしょう。
学校や職場には行けますが、「気づいた時からずっと落ち込んでいる」と訴え、自分には生きる価値がないと考えています。いつも元気がなく、何かに熱中することもありません。
繊細で、周りの人の言動に敏感に反応することもあり、感情的になります。そのために、学校や職場でトラブルを起こしたり、ひきこもりになることもあります。
「子供の頃から死にたかった」というように、子供や学生の頃に発症し、大人になっても同じ状態がずっと続きます。自然に良くなることもありますが、治療をしないで、一生涯そのままの人もいるでしょう。
2 病気と気づくまでに10年くらいかかる
若い頃から病気の中にいるために、元気がないのが病気であるとは、自分も周りも気づきません。病気と気づいて受診するまでに、10年くらいかかる人が多いと言われています。原因が分からずにひきこもりになっている人の中には、気分変調症の人がたくさん含まれているとも考えられています。
3 子供の頃に失望体験がある
気分変調症の原因はまだ十分に分かっていませんが、子供の頃に失望した体験が原因であるという説があります。人間関係で傷ついたことが、その後の性格形成に何らかの影響を与えたのではないかというのです。子供の頃の辛かった体験を通して、「自分は必要のない人間である」、「誰も助けてくれない」、「一生幸せになれない」といった、ネガティブな考え方が、心に染みついてしまったのかも知れません。
4 治療は長くかかる
子供の頃の心理の問題が影響していることから、治療は、カウンセリングが中心になりやすい傾向にあります。しかし、抗うつ薬の治療に大きな効果があるので、医師から薬を勧められたら積極的に飲むようにしましょう。
抗うつ薬の力で気持ちが楽になると、社会との接点も増えてきます。それを通して、楽しみが増え、生活が良い方向に向いてくると、自己肯定感も改善されます。このように、薬を飲むことをきっかけに、生活の良いループに入ることが、最も回復につながります。
ただし、1年間の治療で良くなるのは、10%くらいと言われており、治療には何年間もかかります。「どうせ長くかかるなら、治療を受けなくても良い」と考える人もいますが、時間はかかっても、治療を受ければ回復しますので、放置するのは良くありません。
5 うつ病や双極症になることがある
気分変調症の人の経過をたどってみると、20%の人がうつ病になり、15%が双極Ⅱ型障害になるという調査結果があります。気分変調症に、うつ病や双極Ⅱ型障害が重なるケースはとても多いのです。むしろ、気分変調症だけでは、病気と気づかなかったのに、うつ病や双極Ⅱ型障害になったことがきっかけで、精神科に通うようになったという人もいます。
また、うつ病の診断で、2年以上精神科に通院している人がいますが、その半分近い人に気分変調症があるという調査結果もあります。
大きな原因もなく、若い頃から生きる価値を感じられていない人は、気分変調症の可能性があります。うつ病のようですが、うつ的な暗い性格と間違ってしまう病気です。
ずっと性格の問題かと思っていて、30才、40才になってから病院へ行って、抗うつ薬を飲んだところ、生活がとても楽になったという人もたくさんいます。長い間、「性格の問題では?」、「親子関係の問題では?」など、苦しんでいた気持ちが、薬1粒で良くなるというケースもあるのです。
ただし、薬は長く飲む必要があります。特に大きな副作用はありません。精神科の薬に抵抗がある人も多いのですが、治療が面倒な手術やリハビリでなく、「毎日1粒の薬を飲むだけで人生が楽になるならラッキー」と、考えてはどうでしょうか?
苦労が心の豊かさとして実るために
世の中には、何をやってもうまく行く人と、何をやってもうまく行かない人がいます。誰だって、何でもうまく行くようになりたいと思います。しかし、残念ながら人は生まれた時から平等ではありません。才能を持って生まれる人、お金持ちの家に生まれる人など、生まれた時から出発するところが違います。
徒競走で例えると、ゴールの近くからスタートできる人から、遠いところからスタートしなくてはならない人がいるようなものです。スタート時点が違うので、同じ幸せを手に入れるためにも、楽できる人もいれば、苦労する人もでてくるでしょう。
苦労が多すぎれば、「なんでこんな酷い目に会うのだろう」、「こんな人生に価値はない」と、恨みになることもあります。しかし、人より苦労することは決してマイナスではありません。苦労は心の豊かさにつながります。苦労が心の成長を促し、その人の魅力として実ることがあるのです。
今回は、オーストリアの精神科医・フランクルの言葉を通して、苦労が心の豊かさとして実るために必要なことを紹介しましょう。
フランクルは、アウシュビッツ強制収容所に収監されながらも生還した人です。ガス室で処刑される不安、過酷な労働、兵士からの暴力、栄養失調、チフスの流行、寒さという、あらゆる地獄を経験しました。そうした極限の状況で、自分や収容所の人の心の動きを客観的に観察し、1946年に「夜と霧」という本を発表しました。そこには、絶望が人を滅ぼすこと、生きる目的をもつ人は、過酷な環境でも耐えられることが描かれています。現在、生きる意味に注目するフランクルの心理療法は、ロゴセラピーと呼ばれています。
1 希望がない苦労は、心に悪い影響がある
すべてを失い、抵抗もできない強制収容所の人の多くは、感情を失い、無反応、無気力になりました。辛いことでも、いつまでに終わると分かっていれば、我慢することができます。収容所の人たちは、「クリスマスには解放されるだろう」と楽観的な希望を持ち、耐えていました。しかし、苦労がいつまで続くか分からなくなった時に、すべての希望を失います。実際には、クリスマスを過ぎても収容所の様子は変わりませんでした。
すると、それから数日の間に、処刑されたわけでもないのに大量の死者が出ました。直接の原因は、チフスであったり、栄養失調であったかも知れませんが、絶望によってたくさんの命が尽きてしまったのです。
人は、絶望によって滅びてしまいます。心が動かなくなるだけでなく、内臓の動きや免疫力も低下することによって、生命を維持することもできなくなります。希望がない苦労は、心に悪い影響しかありません。
2 苦労の意味を見つける
フランクルは、生き残って、収容所の体験を発表することを夢にもちました。極限の状況の人々の心理を研究し、それを将来に残すことを使命に感じたのです。このことを希望として、過酷な生活を耐え抜きました。
収容所の中には、自分のことよりも、他人を優先する人もたくさんいました。極限の状況でも、弱っている人を励(はげ)ましたり、食べ物を分けて与える人もいて、フランクルも生きる力をもらったそうです。こうした人たちは、収容所生活に何か自分なりの意味を見出していたと言います。
苦労の中でも、何か自分なりの意味を見つけようとする人は、苦労が無駄になりません。苦労の意味は、その時は分からなくても、後から理解できることもあります。また、自分のためにというより、身近な人や世の中に役に立つことを使命として考える人は、苦労が心の成長につながると言うのが、フランクルの考えです。
3 名もなき人の生き方が偉大
ここで、うつ病で長年闘病中のAさんの話を紹介しましょう。
Aさんのお父さんは早くに亡くなり、年老いたお母さんと2人で生活しています。兄弟たちはそれぞれに家庭を持ち、今は遠いところに住んでいて、ほとんど会う機会もありません。Aさんは、何で自分だけ貧乏くじを引いてしまい、こんな苦労をしなくてはならないのか不満です。「若い頃から病気で何もできず、いまでも家族に迷惑ばかりかけている。そんな人生に意味などない。」と、いつも考えています。
先日、お母さんがケガで入院することになりました。Aさんの体調も良くなかったのですが、遠方の兄弟を頼ることもできず、入院の付き添いをしました。その時、お母さんの口から、「いつも近くにいてくれて、1番親孝行な子供だと思う。」と、感謝の言葉をもらいました。早くに夫をなくして、心細かったお母さんにとって、Aさんはいつも大きな存在だったと言うのです。
1番お母さんの役に立っていたのは、成功して立派に働いている兄弟たちでなく、病気で何もできない自分だったことを知って、Aさんは嬉しく思いました。自分の人生にも意味があったのだと感じ、気持ちが楽になったそうです。
良心的に生きている人は、気付かないうちに、必ず誰かの役に立っています。フランクルは、「名もなき人の生き方が偉大」と呼びました。何か大きなことを成功させて世の中に貢献する人たちは立派ですが、ささやかに暮らしている名もなき人たちの生き方にも、必ず意味があると言うのです。むしろ、良心を持っているひとりひとりが、世の中を良い方向に進ませているのであり、大きなことを成し遂げる人は、それを代表しているだけのことであるというのが、フランクルの考えです。
どんな時も、人生には意味がある。
あなたを待っている「誰か」がいて、あなたを待っている「何か」がある。
そして、その「何か」や「誰か」のために、あなたにもできることがある。
これは、フランクルが残した多くの言葉の中のひとつです。ここには、フランクルの思いが詰まっています。もしかすると、何かきっかけがあったときに、ふと思い出すことがあるかもしれませんね。
心が苦しいと身体が痛くなる?心因性の痛みとは
頭痛、腹痛、腰痛など、体の痛みを感じた時はまず整形外科や内科を受診します。ところが、検査でも異常が見つからず、きちんとした病名もつかないまま、痛み止めだけ処方されたという経験はありませんか?これで良くなれば問題ないのですが、中にはいつまでも痛みがとれず、別の医師を訪ねる人もいます。
改めて検査をしても、異常が認められません。それだけでなく、「心の問題なので精神科へ行ってください」と医師から告げられてしまう場合があります。「実際に痛いのに、何で心の問題なのだろう?」と腑に落ちません。
病気の原因が心の問題であることを心因性と呼びます。痛みの訴えで整形外科や内科を受診する人の10~20%は心因性である、という調査結果があります。
「病は気から」という言葉があるように、実際に感じる痛みも気のせいなのでしょうか。気の持ちようで痛みは消えるのでしょうか。
今回は、心因性の痛みについて、その原因と対応の仕方について説明します。
1 心因性で現れる痛みの種類
原因が分からない痛みは、体のいたるところに起こる可能性があります。例をあげると、頭痛、顔面痛、頸部痛(けいぶつう)、肩や肩関節痛、腹痛、腰痛、陰部痛などがあります。検査で異常が見つからず、痛み止めがほとんど効かない場合、心因性と診断されます。
特に、痛みが慢性化した場合を慢性疼痛(まんせいとうつう)と呼びます。原因不明の痛みで代表的な病気は、線維筋痛症と慢性疲労症候群です。線維筋痛症では、関節以外の筋肉などに痛みとこわばりが現れます。痛みは首・肩に多いのですが、手足腰にも起こり、痛みのツボのような圧痛点があることが特徴です。
慢性疲労症候群は、新型コロナやインフルエンザなどのウイルスの病気にかかった後に疲労感がとれなくなる病気です。
どちらも慢性的な痛みにより日常生活ができなくなります。それだけでなく、疲労感、不眠症、うつ気分といった症状もみられます。しかし、未だに原因は解明されていません。うつ病との区別も難しく、心因も関わっている可能性があると考えられています。
2 不快な感情が痛みとして現れる
心の中の葛藤が、痛みなどといった体の症状として現れることもあります。これは「身体化」と呼ばれています。原因不明の痛みを訴える人の中には、何らかの絶望感や喪失感を抱えている場合もあるのです。
しかし、不快な感情を気付かぬうちに心の奥底に押し込んでしまうため、体の痛みとして現れるのだろうという考えです。
例えば、「学校でいじめられていると、学校へ行こうとするとお腹が痛くなる」、「嫌な上司の会議がある日は、頭が痛くなる」というのは身体化であると考えられます。
3 心の中の葛藤が体に出やすい体質
喘息やアトピー性皮膚炎はアレルギーの病気です。しかし、症状が心の影響を受けやすいことが知られており、これを心身症と呼びます。そして、心身症の研究を通して、心の状態が体に現れやすい体質の人がいることが分かりました。失感情症(アレキシサイミア)です。
失感情症とは、ストレスを感じても自覚できず、痛みなどの不調になりやすい病気です。感じたことを言葉で十分に表現することができず、まるで感情を失っているように見えることからこの名前が付けられました。
失感情症は、脳の構造に原因があると言われています。具体的には、ストレスの刺激を前頭葉に伝える神経で、何らかの障害が起こっていると考えられるのです。
前頭葉は思考を司る部分です。その前頭葉に刺激が伝わらないため、ストレスを分析して言葉で理解することが難しくなります。その結果、心の葛藤が身体化しやすく、体の痛みとして現れやすくなるということがあります。
失感情症は生まれつき持っている要素も大きく、発達障害の人に多く見られます。また、家庭での虐待や学校でのいじめにより、我慢が強いられていた場合など、子供の頃から自分の気持ちを押し殺す生活を続けていることがきっかけとなることもあります。
4 うつ病で痛みが出る
心因性の痛みをもつ人を調査したところ、80%以上の人がうつ病や不安症といった精神疾患を患っていることが分かりました。
うつ病や不安症になると、痛みを感じる脳の偏桃体という部分が敏感になり、痛みが増幅されて感じられます。また、痛みを抑える前頭葉の神経の効果も弱くなります。
うつ病や不安症になると、脳が痛みに敏感に反応するようになり、本来の痛みの10倍、100倍も強く感じることがあるのです。
これらのことから、心因性の痛みは、背後にうつ病や不安症が隠れている場合も多いことが考えられます。特に失感情症がある場合は、うつ病の心の症状が出にくく、体の症状ばかりが目立つということもあるのです。
うつ病や不安症を理由に痛みが出ているものの痛み止めがあまり効かないという場合、抗うつ薬で効果が出ることがあります。なぜなら、抗うつ薬は脳のセロトニン分泌を増やすことを通して、扁桃体の敏感さを抑えたり、痛みを抑える前頭葉の神経を元気にしてくれるため、痛みを感じにくくなるためです。
心因性の痛みは、単に心の問題だけでなく、脳神経の問題、失感情症という体質の問題など、たくさんの要素が加わっています。
そのため、痛みで辛い思いをしている人に対して、検査で異常がないからと言っても、「気の持ちようだよ」というのは間違っています。心と体の両方から治療が必要なのです。例えば、整形外科での理学療法、麻酔科でのブロック注射、精神科での薬物治療や認知行動療法などを組み合わせて治療を行っていくことが求められるでしょう。
痛みには、無理をしないでゆっくり休んで欲しいと言う心と体からのメッセージが含まれています。また、心の奥底には絶望感や喪失感があるのかも知れません。痛みとは、心が癒しを求めるサインでもあるのです。
叱られることに敏感に反応してしまう人の特徴
人から叱られて、泣きたくもないのに涙が出たことはありませんか?例えば、入ったばかりの職場で、「仕事ができない!」と叱られて、何も言い返すことができず、涙がこみ上げてくるのです。仕事をきちんと教えてもらっていないのが原因なのに、まるで人格をすべて否定されているように感じ、二度と上司の顔を見たくありません。場合によっては、叱られたことがきっかけで職場に行かれなくなり、辞めてしまう人もいます。
残念ながら、ハラスメントの問題が騒がれて久しいにも関わらず、「叱られて当たり前」「叱られて仕事を覚える」といった考えがまかり通っている職場はたくさんあります。
不思議なことに、叱られても何も感じない人から敏感に感じる人まで、感じ方には個人差があります。叱られて敏感に感じてしまう人は、何か心に問題があるのでしょうか?
心理学では、心は傷つかないように、バリアで守られていると考えています。ウルトラマンが、怪獣の攻撃を防ぐために使う透明なバリアをイメージしてください。心のバリアは、専門的に「個人の境界線」「自他境界」「バウンダリー」などとも呼ばれ、他人の思いが心の中に侵入してくるのを防いでくれる存在です。
叱られても、バリアがしっかり張られていれば、それほど気になりません。むしろ、間違いを正してくれたとポジティブに捉えることもできます。叱られて心が傷つきやすい人は、心のバリアが弱くなっているのです。
今回は、叱られることに敏感に反応してしまう人の特徴について説明します。特に心のバリア、個人の境界線についても触れていきたいと思います。
1 「叱る」と「怒る」は違う
「職場で叱られた」というのは、「怒られた」と表現する方が正確かも知れません。まずは「叱る」と「怒る」の違いについて説明しましょう。叱るとは、相手を良い方向に導くために間違いを正すことです。感情的に言うのでなく、道筋をたてて論理的に説明するものです。
これに対して、怒るとは、思い通りにならなかったり、気に入らないことがあると、腹を立てて、感情を相手にぶつけることです。相手の人格を否定したり、人前で注意して恥をかかせたり、大声で注意をするのは、叱るではなく、怒るが正しいでしょう。ただし、明確に区別していない人の方が多いかも知れません。
私たちの心が傷つくのは、大概怒られている場合です。相手からネガティブな感情をぶつけられるために傷ついてしまうのです。
2 怒られると攻撃を受けていると感じる
お互いに信頼関係がない場合に、相手から怒られることは、感情的に攻撃を受けるのと同じです。突然、ズカズカと心の中に入ってきて、ネガティブな感情をぶつけられていると考えられます。そうなると、例え、正しい内容を指摘されていても、素直には受け入れられません。人によっては、人格を否定されているように受け止めてしまう場合もあるでしょう。こうした理不尽な攻撃から心を守ってくれるのが、心のバリアの存在です。
3 心のバリアが弱い
心のバリアとは、自分と他人を区別する境界線のことです。この境界線がはっきりしていると、「自分は自分、人は人」という自分の意識が明確になります。自分のことは自分で決められるようになり、自分は何に責任を持つべきかがハッキリします。生きて行く上でとても大切なことです。
子供は、親との距離が近いために、自分と親の境界線が曖昧です。成長するに従い、境界線が明確になって行き、自分と親が別の存在であると認識できるようになります。ところが、自分の境界線が曖昧なまま大人になると、相手の影響を受けやすかったり、自分のことに責任を持てなかったりと、メンタルヘルスにマイナスになるでしょう。
心のバリアが弱いと、怒られた場合には、相手の感情が心に飛び込んできて、激しく動揺します。反撃することもできず、涙が出てくるようになるのです。他人が怒られているのを聞いているだけで、まるで自分が怒られているようで緊張してくることもあります。共感する力があると言えば、聞こえがいいのですが、つねに相手の感情に左右されてしまうのです。
4 心のバリアが弱くなる原因
それでは、心のバリアはなぜ弱くなるのでしょうか?次に、心のバリアが弱くなる3つの理由を説明しましょう。
1つ目は、生まれつき音や光などの刺激に敏感なために、周りとの境界線を引きにくい人です。感覚過敏と言われるもので、自閉スペクトラム症などの発達障害の人に見られます。また、心理学用語のHSPという言葉が流行していますが、これも感覚過敏の一つです。
2つ目に、先ほども説明したように、親子関係の影響もあります。虐待やネグレクトなど、親が子供の人格を認めず、自分の付属品のようにして接していると、親子の境界線が曖昧なまま成長することになります。また、いつも親の機嫌を気にして生きていると、親の言動が自分の責任であるように感じ、自分と親の境界線がなくなってしまいます。そうなると、他の人との境界線も明確にできなくなり、心のバリアが弱い状態が続きます。
ここまでは、生まれつきの問題や養育の問題が原因の場合ですが、3つ目に、心が不安定になると、一時的に心のバリアが弱くなることもあります。仕事が忙しい、心配事がある、いじめがある、などの状況では、人との境界線が曖昧になり、相手の影響を受けやすくなってしまうのです。うつ病でも、同じ理屈で涙が出やすくなります。
5 心のバリアをつよくする方法
まずは、ふだんから、心のバリアが弱くなっていることを意識しましょう。心のバリアを簡単に言うと、やりたくないこと、嫌いなことを「イヤだ」と拒否する力のことです。毎日の生活で我慢をし過ぎて、自分でも気づかないうちにバリアが弱くなっていることはないでしょうか?
我慢のし過ぎは、自分からバリアを弱め、外からの侵入を許してしまっている状態です。家に鍵をかけないで、毎日を過ごしているのに似ています。これでは悪い人が土足で入ってきてしまいます。
そして、親の考え方、職場のやり方、グループのルール、周りの評判といったものを優先するのでなく、何よりも自分の素直な気持ちを優先しましょう。自分が心地よく感じることをやり、不愉快に感じることは避けるようにするのです。
次に、怒ってばかりいる人、危害を加える人とは、できるだけ距離を置きましょう。当たり前のことのように聞こえますが、逃げることは物理的に人との境界線を引くことでもあります。
最後に、毎日の生活からできるだけストレスを取り除きましょう。ストレスは、心のバリアを弱くしてしまいます。生活に安心感があれば、人との境界線を自然にひけるようになります。心のバリアが回復して行くのです。
失感情症とは―5つの特徴―
「クールな人」と言うと、ヒーローのように冷静でかっこいいイメージがあります。しかし、「失感情症」という感情がないことで苦しんでいる人がいることをご存知でしょうか。辛いことがあっても、心の中で何が起きているのか言葉にできません。不快な感情を心で自覚できないために、痛みなどの体の不調として現れやすくなります。
1972年、アメリカのシフネオス医師は、つよいストレスを受けても、それが心の症状に現れず、胃腸障害や喘息などの体の症状に出やすい人の研究をしました。そして、共通する性格として失感情症を見つけました。英語では「アレキシサイミア」と言います。辛いことがあっても、それを言葉で表現することが苦手で、ストレスが体の症状として現れやすい傾向があるのです。
ストレスは、まず脳の間脳(かんのう)というところで喜怒哀楽の感情の動きとして認識されます。さらに、この喜怒哀楽の情報は脳の上下2つの方向へ伝えられます。脳の下の方へは自律神経系を通じて伝わり、心臓や肺などの内臓の動きとなります。脳の上の方に伝達されると、前頭葉という部分で分析されて、この喜怒哀楽が何なのかが言葉になって理解されます。
失感情症では、ストレスによる喜怒哀楽の情報が前頭葉へきちんと伝わらないために、言葉に変換されないのです。
失感情症は、症状として一時的に現れることもありますが、基本的には生まれつきの性格と考えられており、生きづらさを感じている人も多いのです。心の中で起きていることなので、自覚できていない人もいます。今回は、失感情症の特徴を5つ紹介しましょう。
1 自分の感情を言葉で表現するのが苦手
例えば、家族でお笑い番組を見てみんなが笑っていても、笑えません。決してつまらないわけではありません。学校でいじめがあることが分かっていても、文句を言わず休まずに学校へ行きます。もちろん辛いのです。戦争で捕虜になった人たちが、無表情になって抵抗せずに連れられて行く雰囲気に似ています。
失感情と言っても、感情を失っているわけではなく、感じることはできます。それを言葉に表現できないために自覚ができないのです。不快な感じが続いていても、それが何か自覚できません。そのうちに耐え切れなくなった感情が爆発してしまうこともあります。失感情症は心の不健康につながりやすいのです。
2 人に気持ちを伝えられない
自分の心で起きている感情を言葉で表現できないため、それを他人に伝えることができません。相手に感謝や喜びを伝えられずに誤解されたり、不快感や辛いことを伝えられないために苦しい思いをすることがあります。こうして対人関係で問題が起きることがあります。
子供の頃は、いつもニコニコして泣くことが少ないため、親から「育てやすい子供」と思われます。そうではなく、失感情症によって自分の気持ちを親に伝えられていないのです。
3 体調不良を起こしやすい
ストレスにより辛いことがあると、不快な感情は心と体に分配されます。心に伝わると言葉になり、自律神経系に伝わると体の症状になります。ストレスは言葉にして発散すれば解消できます。
ところが失感情症ではそれができないために、不快な感情は自律神経系を通じて体の不調としてだけ現れます。倦怠感、頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、しびれ、めまいなど、いわゆる心身症というものが起こります。体の病気で、病院で検査しても異常が見つからない場合は、失感情症が関わっていることが多くあります。
4 辛い時は逃げるか、心を閉ざす
何か葛藤がある時、それを言葉で自覚できないために、心の中を見つめ直したり、解決方法を考えることができません。そうなると辛いことから逃げるか、心を閉ざすしか手がなくなります。同時に体の調子が悪くなるため、体の不調を理由に責任から逃れることになります。
子供が学校で嫌なことがあると、頭痛や腹痛がして学校へ行けなくなることがあります。これは、子供の心や脳は十分に成長していないため、辛いことを心で処理しきれずに体だけが反応してしまうのです。
これが大人になっても続く場合は失感情症と考えられます。例えば、ストレスから体調不良を起こして職場に行けなくなる人がいます。心配した会社の人が連絡すると、「明日は必ず行きます!」と言いますが、結局次の日も欠勤してしまいます。これは自分の心の状態を理解できていないのです。決して、心が弱いから逃げ回っているのではありません。
5 自閉症スペクトラム障害・ASD、愛着障害、複雑性PTSDにみられることがある。
自閉症スペクトラム障害・ASDは、人の気持ちを読み取れない障害ですが、自分の心を客観的に見る能力にも劣ります。そのために、失感情症の症状が大変多く見られます。また、愛着障害、複雑性PTSD、統合失調症にも見られることがあります。
以上、失感情症の特徴を紹介しました。一時的な症状のこともありますが、基本的には生まれつきの性格傾向なので決定的な治療方法はありません。自分の個性として仲良くやっていくのが賢い対処法です。
まずは、無理をしすぎている時の体のSOSを自覚するようにしましょう。頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、倦怠感などの体の異変は、心が悲鳴を上げているサインなのです。そんな時は、「いつもの奴が来た!」と理解してゆっくり休むことです。体の不調にならないためにも、ふだんから体調に気を配り、予定以上のスケジュールは入れないようにしましょう。
また、体が緊張していることが多いので、体全体をほぐすようなマッサージに良い効果があります。体をリラックスさせることが心の癒しにもつながるのです。
失感情症と言っても、冷静さを求められる職場で活躍している人もたくさんいます。突然の出来事にも動揺せずに仕事に取り組むことができるのです。「冷静」というポジティブな個性と捉えてみると良いかも知れません。
自殺の直前に見せる8つのサイン
何事もなかったのに、ある日突然自殺をするということはありえません。必ず、自殺に至るまでの長いプロセスがあります。お金や仕事の心配、人間関係の悩みなど、辛いことがあると心はどんどんと弱ってきます。これが、限界に達してしまうと、何かのきっかけで衝動的に自殺を試みます。引き金になるのは、いじめや争いごとで、心が傷つく言葉を浴びせられることが最も多いようです。
ある調査では、自殺者の70%には遺書がなく、自殺のほとんどが衝動的な行為と言われています。自殺を試みるときは、「死んだらどうなるのだろう?」「みんなを悲しませるかな?」「死ぬ時って痛いのかな?」と、普通ならば思いつくことを考えるスキもありません。正常な精神状態ではないのです。
自殺をする人は甘えと言われることがありますが、助けをもらえなかった人が自殺をしてしまいます。大切な人が自殺をしてしまうことは、大きな心の傷になります。「もしかしたら助けられたかも知れない」と、後悔をしないように、今回は「自殺の直前に見せる8つのサイン」をご紹介いたします。
1 生気がない
いつもと違って明らかに元気がないような場合は要注意です。好きなことをしなくなったり、「何をしても楽しくない」という言葉を発します。休日は寝たきりになり、自分から外に出て行動をすることがなくなります。
2週間程度で元に戻る場合は問題ないですが、それ以上続くようであれば、うつ病の可能性があります。自殺の原因のほとんどに精神疾患が背景にあると言われています。
2 いつもと言動が違う
自殺の直前に、人はいつもと違う言動をとります。例えば、「このままではいけない」と言って突然仕事を辞めたり、精神科に通院している場合は、「薬に頼っている場合でない」と言って薬を飲むのをやめたり、普段と違う行動をするのです。
「死にたい」と漏らしていた人が、急に言動が変わった時は要注意のサインです。特にうつ病で治療中の人が急に薬をやめてしまうことは大変危険なことです。
3 自殺の仕方をサイトで調べる
「自殺の仕方」や「楽に死ねる方法」などをサイトで調べる行為は、とても危険なサインです。本人のスマホを調べることはなかなか難しいので、会話の中で「自殺」などの言葉が出てきたら注意が必要です。
「死にたい」という言葉は簡単に出てくる言葉ではありません。きっとその人はあなたなら相談に乗ってくれると思って打ち明けたのだと思います。「死にたい」と言うと、相手の気を引くために言っているのではないかと疑う人もいますが、本当に自殺してしまうケースも多のです。聞く側が真面目に受け止めてあげなくてはいけません。また、「死んでほしくない」と相手にきちんと伝えることも大切です。
4 自傷行為
リストカットなどの自傷行為を行うことが、すぐに死につながる訳ではありませんが、自傷行為が繰り返されて、自殺に至る可能性もあります。自傷行為は本人が何らかのSOSを出しているサインでもあり、本人の辛い気持ちに目を向ける必要があります。もし自傷行為を発見したら、無理やりやめさせようと説教するのではなく、何が辛いかについて優しく聞いてあげましょう。
5 薬を沢山飲む
命の危険をかえりみずに、快楽目的で大量の薬を飲むことを、「オーバードーズ」、略してODと言い、最近では「トーヨコキッズ」と呼ばれる子供たちの間で行われていたことがニュースになっていました。自傷行為の1つであり、「自己破壊的行動」とも呼ばれています。
薬は多く飲まれないように医師が調整していますが、いくつかの病院をはしごして、たくさんの薬を蓄えている人もいます。死につながる危険な行動のため、注意が必要です。
6 感情の起伏が激しい
突然怒ったり、泣いたり、感情の起伏が激しい状態は、自殺の危険なサインです。気持ちが落ち込んでいるときは、自殺をするエネルギーはありませんが、むしろ、感情の起伏が激しいときに、衝動的に自殺が起こりやすいと言われています。
例えば、口喧嘩をしてしまい、そのまま窓から飛び降りてしまう、などもあるので気をつけましょう。相手が感情的になっているときこそ、冷静に対応することが求められます。
7 お酒を飲み過ぎている
お酒を飲んでいて、理性が働かない状態は、自殺の危険なサインです。特に、楽しくお酒を飲んでいるのは良いのですが、やけ酒のような場合は非常に危険です。普段から死にたいという気持ちを強くもっている場合、お酒を飲むことで衝動的になり、自殺を実行に移してしまうことがあります。
8 大切な人がいなくなる
家族との死別、失恋など、大切な人がいなくなった時、人は大きな悲しみを感じ、これを喪失体験と言います。喪失体験はうつ状態と似ていますが、薬が効きにくいことが多く、時間が解決してくれるのを待つしかありません。絶望に陥ってしまい、生きる希望がなくなり、後を追いたい気持ちが出て来ることもあります。これは危険なサインです。
今回は、自殺の直前の8つのサインをご紹介しました。
統計データによると、どの国でも自殺者は圧倒的に女性よりも男性が多くいます。困ったとき、女性の方が、周囲に助けを求めることができるからです。別の調査では、男性の方が、相談相手のいないケースが多く、辛い時にがまんして、弱音を吐くことを嫌う傾向がありました。孤独で相談相手がいないことや、「弱音を吐いてはいけない」という考えを持っていることが、自殺につながる大きなリスクであることが理解できるでしょう。
自殺を防ぐためには、周りの身近な人の対応が重要です。もし、「死にたい」と相談されたら、「何で死にたいの?」「何が辛いの?」と聞いてあげるようにしましょう。
逆に、「その考えは間違っている」、「私も苦労を乗り越えてきたんだ」と説教や自分語りをしても意味がありません。話を遮らずに聞いてあげて、気持ちを理解してあげることが大切です。自殺を食い止めようと努力するよりも、気持ちを理解してあげようと努力するべきなのです。
ASDが持つあまり知られていない9つの特徴
大人の発達障害の代表として、自閉スペクトラム症・ASDがあります。以前は、アスペルガー症候群という名前で知られていましたが、最近はASDという呼び方が一般的になってきました。
相手の気持ちや場の空気を読みとる能力に劣り、友達をつくることや、友達関係を続けることが得意でありません。こだわりという症状もあり、自分のルールを変えられず、あらゆる場面で融通が利きません。社会に出ると、チームプレイの必要な職場で浮いてしまうのが特徴です。症状のレベルに差はありますが、日本人の10%に見られる一般的なものです。
ASDというと対人関係の問題と考えがちですが、それ以外にも、心の抵抗力の弱さ、体の感覚の違和感などが見られることがあります。それほど知られていませんが、大人になってからの生きづらさとして実感されることがあるのです。
今回は、あまり知られていないASDの特徴を9つ紹介しましょう。
1 辛いことに向かっていけない
心の抵抗力が弱いため、心に傷を負いやすい傾向があります。辛い出来事があると、後遺症でトラウマが残りやすいのです。普通の人なら、「そんなことで傷つくの?」と言われるような小さな出来事でもトラウマになり、苦しかった場面がフラッシュバックしたり、繰り返して夢で見るようになります。また、出来事に関連した場所や人を無意識に避けるようにもなります。
何かのきっかけで傷つくと、そのことを再度チャレンジできません。気持ちに強力なブレーキがかかってしまうのです。それでも向かって行こうとすると心が壊れてしまいます。はたから見ていると辛いことから逃げているように見えますが、本人もできずに苦しんでいるのです。
2 知らないうちに相手を傷つけ、自分も傷つく
これを言ったら相手がどう反応するか想像できません。例えば、最近体重が増えて気にしている女性に向かって、「太りました?」と言って、相手の機嫌を損ねるといった感じです。しかし、何で怒っているのかが理解できません。
むしろ、突然相手が怒ったことにびっくりするのです。「失礼なことを言わないでください!」と怒られてしまうと、心の抵抗力が弱いために深く傷つきます。相手を知らないうちに傷つけて、自分も傷ついてしまうのです。
3 ストレスが体に出やすい
例えば、職場で辛いことがあると、翌日は倦怠感がつよくて家を出られません。声が出なくなったり、手足にしびれが出る人もいます。他にも、体の痛みや胃腸障害が出ることもあります。自分の心の状態を言葉で理解する力に劣るため、ストレスをため込んでしまい、心の不調が体の不調として現れやすいのです。
4 疲れているのに気づかない
脳と体は神経系やホルモンによって密接につながっていて、体は脳からの指令で動きます。この仕組みがあるため、自分の意思によって体が動き、心と体が一体である感覚を持つことができるのです。ところが、ASDの人は、神経系やホルモン系の発達に問題があることから、心と体の一体感に乏しいと言われています。
困ってしまうのは、実際の体の疲れと、感じている疲れにギャップがあることです。一旦仕事を始めると、仕事への義務感や集中のしすぎも重なり、終わるまでは疲れを感じません。仕事が終わって、ひどい疲れに気づき、何日間も寝込んでしまうこともあります。こうしたことを続けていると、職場で信頼を失ってしまいます。
5 体の性に違和感をもつ
思春期には体の性的な成長が起こりますが、心と体の一体感に乏しい場合、このような体の変化を自分のものでないように感じるASDの人がいます。その上、異性との関係で傷ついたりすると、自分の体の性を否定的に感じることもあります。ASDの中には、心の性と体の性が一致しないでいる人もいるのです。
6 酷い仕打ちをされても関係を続ける
普通ならば、危害を加えそうな人には近づきませんし、酷い仕打ちをされたら、その人との付き合いをやめます。ところが、ASDの人は、危ない人と知り合いになろうとしたり、良くない関係を保ち続けようとすることがあります。
例えば、パートナーからDVを受けても別れない、詐欺でお金をとられても友達でいる、職場でハラスメントを受けても辞めない、といったような感じです。
闇バイトに手を出してしまい、いつのまにか、悪のグループの手下になっていることもあります。
7 心配性で不安になりがち
ASDの人は、想像力を働かせるのが苦手と言われています。辛い状況では、それが良くなっていくというイメージを広げられません。何かトラブルにぶつかると、最悪のことばかりが頭に浮かんで、不安になります。
冷静に解決策を考える気持ちの余裕は出てきません。ひどいとパニックを起こす場合もあります。周りの人からは、心配性でいつも不安を抱えているように見えてしまうのです。
8 ASDの60%近い人がADHDも合併している
大人の発達障害でもう一つ代表的なものが、ADHD・注意欠如多動症です。不注意、落ち着きのなさ、衝動性があるため、大人になってからも、「おっちょこちょい」「時間を守れない」「片付けができない」「計画性がない」といった問題が起きます。
最近のアメリカの調査では、ASDの人の約60%に、ADHDの症状が見られることが分かってきました。どちらも脳の報酬系という部分に問題があるので、両方が合併することは当然のことなのです。
精神医学では、最も大きな症状を通して病名をつけます。ASDと診断されている人でも、その半分以上には、不注意、落ち着きのなさ、衝動性といったADHDの症状も見られるのです。自分は、ASDかADHDか分からないと言う人も多いのですが、それは両方がいっしょにあると考えたら良いでしょう。
9 HSPの中にはASDが多く含まれている
HSPとは、ハイパー・センシティブ・パーソンの略で、生まれつき感覚の敏感な人を呼ぶ心理学用語です。感覚の敏感な人が、どのような心の傾向をもっているかを研究したことから始まったものですが、いつしか自己啓発本やネットで取り上げられるようになり、社会でも広く知られるようになりました。「繊細さん」とも呼ばれています。あくまでも心理的な傾向を説明するものなので、障害ではありません。
ASDには、音・光・臭いなどの刺激に敏感な感覚過敏という症状を持つ人がいるため、それだけを取り上げるとHSPに含まれてしまいます。HSPと思っている人の中には、ASDがかなり含まれているということです。「病院でASDと診断されているけれど、本当はHSPだと思う」という人がいますが、そうでなく両方あると考えるべきでしょう。
こうしたASDの症状を見ていくと、仕事の効率や実績が最優先される現代社会では、とても生きづらいことを理解できたかと思います。それだけでなく、本人は一生懸命頑張っているのに、「努力していない」「辛いことから逃げている」と、誤解される場面も多くあるでしょう。
生まれつきの脳の仕組みからそうなっているので、努力で大きく変えられるものではありません。背伸びをして社会の歯車に合わせていると、自分が壊れてしまうことがあります。人の価値は、能力や仕事の実績で決められるものではありません。周りと比べることなく、自分なりの生き方のペースをつかめることが大切です。
うつ病と完全主義
一昔前、うつ病と性格の問題が論じられた時期がありました。「うつ病になるのは性格の問題ではないか?」という議論です。特に、「メランコリー親和型」と呼ばれる、几帳面で融通がきかない性格の人がうつ病になると考えられていました。
例えば、仕事の環境が変わった時に、自分のやり方を頑固に変えないために、神経をすり減らしてうつ病になるというのです。その後、うつ病が世界中に広がるようになり、単に性格の問題だけで解決できないことが分かりました。現在では、うつ病は誰でもなる病気と考えられています。
しかし、完全主義とか、完璧主義と呼ばれる性格が、うつ病になりやすく、またうつ病をこじらせてしまうということが知られています。完全主義とは、簡単に言うと、何事もいいかげんに済ませられず、気になることをとことん追求してしまうことです。
目的に向かって自分をコントロールするので、高い目標を掲げて、それに向かってあきらめないところは社会的に成功するでしょう。しかし、失敗に過敏すぎることや、他人からの評価を気にしやすいところでは、メンタルヘルスに悪い影響があり、うつ病を発症しやすくなります。
また、うつ病を発症すると、完全主義がつよくなる傾向もあります。病気を素直に受け止めることができずに、病気と葛藤してしまい、回復を遅らせてしまうことも出てくるでしょう。
完全主義の傾向は、「誠実さ」という生まれつきの性格が根っ子にあるので、大きく変えることができません。心配事や不安に対して、本来は受け流すべきところを、完全主義の行動をとってしまうためにこじれてしまうのです。完全主義が悪いというのでなく、方向性を修正すれば良いだけのことです。
今回は、うつ病で療養中の人に向けて、完全主義を修正する5つの方法を紹介しましょう。もちろん、うつ病の発症や再発の予防にもなる内容です。
1 気持ちや体調に素直になる
完全主義の人は、自分の素直な気持ちや体調よりも、理想や計画を優先しがちです。ところが、うつ病になると、まるで天気のように気分や体調が移り変わるために、理想や計画が思い通りになりません。「明日はどうしても会社へ行く」と予定を立てても、それができなくなることが多いのです。そんな時に、這ってでも会社へ行こうとするのが完全主義です。
これでは病気は治りません。「疲れている時は休む」「やりたくないことはやらない」「できないことは断る」と、自分の気持ちや体調に素直になることが、うつ病の予防や回復に必要です。
病気ほど自分の思い通りにならないことはありません。思い通りにならないことは、完全主義の人にとって最も苦手なことです。病気になってしまったならば、「病気なのだから、できなくて当たり前」と開き直って考えるようにしましょう。闘うよりも、開き直った方がうつ病の回復は早いものです。
2 良いところだけを見て自分を評価する
うつ病で療養していると、日々どれだけ良くなっているのかは、とても気になることです。心の病気の回復は、血液検査などの数字で測ることができないので、生活を観察しながら、自分で評価するしか方法がありません。
ところで、評価の点数をつける方法には、加点方式と減点方式の2通りがあります。加点方式とは、私たちが学校で受けて来たテストのように、できた分だけ点数をつけてもらうものです。減点方式とは、スポーツのパフォーマンスを評価する時のように、最初の持ち点からミスのたびに減点されていくものです。
加点方式は、その人の長所が目立ち、減点方式は短所が目立ちます。うつ病の人は、減点方式で自己評価をしやすく、自分の短所ばかりを拾い上げて落ち込む傾向があります。例えば、「今朝は寝坊した」「風呂に入れなかった」「買い物をしすぎた」など、自分の失敗を減点方式で評価して、自分を責める材料にしてしまいます。これでは、病気をさらに悪くさせてしまうでしょう。減点方式で自分を評価してはいけません。
そうでなく、「散歩ができた」「友人と会っても疲れなかった」「朝まで続けて眠ることができた」という感じに、良かったことを足し算して自分を評価するようにしましょう。良い思い出ほど忘れてしまうので、ノートやスマホに記録をとるのが良いかも知れません。
ただし、毎日こと細かく記録をつけてしまったら、それこそ完全主義です。うつ病の回復は、ゆっくり月単位くらいのペースですから、毎日では大きな変化はありません。良かったことがあった時だけ記録するとか、通院の日の前くらいに1ヶ月間を振り返って記録するという感じで良いと思います。
3 困ったら「まあ、いいか」と唱える
何かうまくできないことがあったら、そこで考え込むのでなく、とりあえず「まあ、いいか」と唱えてみましょう。「それができないから困っているんだ」と反発する声が聞こえてきそうですが、実は、うつ病の治療で最も多く使われているSSRIという薬は、ネガティブな考えの連鎖を止める効果があります。脳のセロトニンという物質が増えることで、自然に「まあ、いいか」となっていくのです。
ですから、困った時に「まあ、いいか」となれることは、うつ病を治すための本質とも考えられています。自分からも、「まあ、いいか」の癖をつけるようにして、治療の効果を高めましょう。
4 60%主義
世の中では、「一生懸命」「全力投入」が良いことのように言われますが、これも完全主義の一つです。うつ病を経験しているならば、何事も60%主義で取り組みましょう。これは、怠けではありません。頑張っているけれども、余裕もあるという感じです。今日やらなくて良いことは、別の日にやるように、毎日余力を残して生活するのです。その分、心を落ち着かせる時間を持ちましょう。
5 人と比べない
完全主義の人は、他人と比べる傾向があります。自分なりに頑張っていれば満足できるのではなく、他の人が自分より良い結果を出しているならば、「自分は頑張っていない」「努力不足」と判断します。比べて劣っていることを通して、自分を「ダメな人間だ」と責めてしまうのです。
人と比べないように、相手がどんなにキラキラ輝いていても、無視するようにしましょう。視界に入ってくると必ず意識してしまうので、輝いている人が視界に入って来ないように努力するべきです。
スマホを通して、SNSの情報が簡単に目に入ってきます。自分の成功をアピールしたい人ほど情報を発信しますので、うつ病で自信喪失している人には悪い刺激になります。SNSも関わらない方が良いのです。
うつ病によくない完全主義を修正する方法を説明しましたが、そこで「完全主義を克服する!」と、思うこと自体が完全主義になってしまいます。まずは、完全主義がうつ病に悪い影響を与えていることを意識することから始めましょう。
また、何かをやり過ぎていないか、こだわり過ぎていないか、周りの人の意見にも耳を傾けることが必要です。
知ってほしいADHDの症状
注意欠如多動症とは、落ち着きがなく、その場の思いつきで行動するために、生活に生きづらさを感じてしまう障害です。子供の頃に発症する発達障害の1つで、略してADHDと呼ばれています。
そもそも、子供は落ち着きがないものですが、小学校に入る頃には、おとなしく座って先生の話を聞くことができるようになります。ところが、学年が上がっても、静かに座っていられず、隣にちょっかいを出したり、足をバタバタさせたり、ジッとしてられない場合はADHDの可能性があります。昔は親のしつけの問題と考えられていましたが、脳の発達の問題があることが分かってきました。
ほとんどの場合、落ち着きのなさは、中学生になると個性の範囲に収まるようになり、社会生活に大きな支障はなくなります。ところが、大人になっても、目の前のことに集中できず、頭の中はとりとめのないことを次から次へと考える、といった症状が残る人もいて、これが大人のADHDと呼ばれるものです。
大人のADHDは、職場で不注意なミスを連発したり、異性関係やお金のトラブルを繰り返したり、社会生活に支障が出るケースもあります。周りの人と同じようにできないことから、自信を失ってしまうこともあるでしょう。「だらしない人」と誤解されることも多く、生きづらさを感じています。
今回は、生きづらさの原因となる症状を中心に、知って欲しい大人のADHDの8つの症状について説明しましょう。
1 将来を考えずに行動する
イソップ童話の「アリとキリギリス」はご存知ですか?夏の間、冬に備えてコツコツと働いて食べ物を蓄えるアリと、冬の準備よりも夏を楽しんでいるキリギリスの話です。冬になって、キリギリスは遊び過ぎたことを後悔します。
ADHDの人は、キリギリスのように、将来のことよりも、今の満足を優先して物事を決める傾向があります。結果がどうなるかを考えずに行動するのです。最終的にうまく行くこともありますが、キリギリスのように失敗や挫折を経験することがあります。
最近のニュースでは、儲け話にのって借金をつくったり、その場の勢いで不倫をしたり、取り返しのつかない失敗をする有名人がいます。築き上げてきたキャリアを一瞬で壊してしまうようなことをなぜするのだろうか?と疑問に感じますが、これはADHDの特徴的な行動なのです。
2 分析するのが苦手
注意を絞ることが苦手なため、ちょっとしたことで気が散りやすく、周りの出来事を短絡的に理解します。物事を深く考えて分析することができず、自分の失敗の原因を修正することも苦手です。これが原因で、同じ失敗を何度も繰り返します。
3 同じ失敗を繰り返す
向こう見ずであったり、分析が苦手なため、同じ失敗を何度も繰り返します。学校で先生から叱られても遅刻や忘れ物の常習犯になってしまいますし、職場でも同じミスばかりで、「反省しない人」と周りは呆れてしまいます。
実際は、反省しないのではありません。痛いほど反省しているし、むしろ、できないことで自信を失い、「ダメな人間だ」と自分を責めているのです。子供の頃から、これを繰り返して、ネガティブになっているADHDの人も多くいます。中には自分を責め過ぎてうつ病になる人もいるでしょう。
4 素直に間違いを認められない
よく考える前に、感情や行動が先走ってしまう傾向があります。間違いを指摘されると、自分が間違っていることを理解できても、その場で感情をおさめることができません。つい反抗的な態度をとってしまい、相手に不快な思いをさせてしまいます。「気がつよい」「素直でない」と言われてしまうでしょう。
5 傷つきやすい
子供の頃から、失敗や挫折の体験が多い人は、心が傷つきやすくなっています。また、失敗することに敏感になり、「どうせうまくいかない」と諦めが早くなっていることもあるでしょう。はたから見ていると、「根気がない」と悪い評価をつけられてしまいます。そうではなく、失敗で何度も嫌な思いをするのを恐れているのです。
6 空気が読めない
「空気が読めない」というと、自閉スペクトラム症の代表的な症状と考えられていますが、実は、ADHDにも見られるものです。自閉スペクトラム症の人は、周りに注意を向けられないために空気を読めないのですが、ADHDの人は、必要な情報だけに注意を絞れないために状況を読みとることができません。
場の雰囲気を理解できないために、新しい職場で緊張したり、不安になりやすいという傾向があります。
7 時間の感じ方が独特
ADHDの人には、遅刻が多いことや、物事を先延ばしにしてしまうことが知られています。普通なら時計やカレンダーを意識しながら、自分の行動を合わせますが、「気づいたら時間が経っていた」と言う感じに、意識から時間がなくなっています。時間の感じ方が独特であると考えたら良いでしょう。
8 躁うつ病と診断される場合もある
ストレスで心が不安定になると、落ち着きのなさ、衝動性などの症状がより目立つようになります。職場で仕事が多かったり、家庭で心配事が多いと、症状が激しくなるのです。
中には、ほとんど眠らないで、1日中落ち着きなく行動するようになってしまい、ふだんの仕事や生活ができなくなるケースがあります。この場合は、躁うつ病と診断されます。躁うつ病とは、双極性障害、双極症とも呼ばれ、気分の激しい波を繰り返す病気です。躁うつ病とADHDは似ているところが多く、神経的にも共通点があると考えられています。
大人のADHDの1番の生きづらさは、失敗を繰り返してしまうことと、周りから反省しない人と誤解されることです。失敗を繰り返すのは、神経の特性として仕方がありません。本人も一生懸命なのに、周りからは、「だらしない」「努力が足りない」「親のしつけが悪かった」とネガティブに評価されてしまうのです。
最後に、このような生きづらさへの解決方法を簡単に紹介しましょう。何よりも、家族や同僚にADHDの特性を理解してもらうことが大切です。努力してもできないのであって、怠けているのではないと理解してもらい、細かいスケジュール管理、片付けなど、苦手な部分はサポートしてもらいましょう。
時には、経済面での援助も必要になることもあるでしょう。「いい年して親に生活の面倒をみてもらっている」「いつまでも親にお金の援助をしてもらっている」でも良いのです。
ただし、異性問題とお金のトラブルには注意が必要です。不倫や借金は社会的なダメージがとても大きく、周りからのサポートにも限界があります。ましてやサポートしている家族を裏切るようなことをしては行き場がなくなります。
また、ストレスで心が不安定だと、より症状が出ると説明しましたが、逆に言うと、落ち着いた環境では、症状は目立たなくなります。子供の場合は、親が落ち着いて対応するとADHDの症状も落ち着きます。
大人の場合も、仕事でミスを連発する場合は、仕事のプレッシャーを減らす、仕事量を減らす、職場のコミュニケーションを良くするなど、職場を過ごしやすくして解決することがあります。特性ですから、自分は変わることはできませんが、安心して気持ちよく働ける場所ならば、自分の能力を発揮できるようになります。
また、落ち着きのなさや衝動に対して薬の治療があります。トラブルが多い場合は、薬の治療を利用することも良いでしょう。
「親の資格」って?
児童相談所への虐待の相談件数は年々増えており、年間20万件を超えています。国の政策にも関わらず、未だに減る様子はありません。事件を起こした親は、「親の資格がない」と非難されて当然ですが、「親にも資格制度をつくった方がいいのではないか?」という声までも聞こえてきます。冗談のようですが、親からの冷たい仕打ちに耐えて来た人の中には、真面目にそう考える人もいるのです。
資格とは、その分野での知識や経験があり、願われた仕事をやり遂げる能力があることの証明です。人にとって重要な子育てに資格があるならば、どのような内容であるべきでしょうか?
今回は、親の資格について考えてみましょう。
1 親の資格を決めるのは子供
子供の頃に親から愛されず、親子の情的な関係を築けなかった人は、大人になってからも自分に自信をもてません。人を信頼することができないために、対人関係を良好に保つことが苦手で、社会に出てから苦労が絶えません。これを大人の愛着障害と呼んでいます。
また、子供の頃に虐待やネグレクトなどを受け続けると、トラウマを一生背負うようになり、積極的な生き方ができなくなります。これは複雑性PTSDと呼ばれています。
アダルトチルドレンと呼ばれる人たちは、親が暴力をふるったり、情緒が不安定であったために、子供時代に自分の気持ちをいつも封じ込めてきました。我慢する習慣は、心の根っ子に染みついていて、大人になっても自分の気持ちを素直に出せません。
このような恵まれない親子関係で育った人は、大人になって苦労を感じる度に、親への恨みが湧いて来ます。周りの人は親から普通に与えられたものを、自分は与えられなかったと苦しみ、自分の親には子供を育てる資格がなかったと感じるでしょう。
このように、産まれた子供が犠牲になって、親に資格がなかったことが分かります。結局、親の資格を審査できるのは子供です。
2 親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できること
自分の親に資格がないという言う人は、親から暴力を振るわれた、家に居場所がなかった、お金で苦労した、などの苦しい体験をしてきました。こうした人たちの話を聞いていくと、辛い経験に共通してあることは、「親に苦しい気持ちを理解してもらえなかった」という点です。親は自分のことを優先して、子供のことを犠牲にしてきました。子供としては、親の犠牲になって、辛い思いをさせられたことを理解して欲しいのです。
こうして考えてみると、親の資格とは、子供の苦しい気持ちを理解できることと言えるでしょう。
3 親の資格の有無は、変わることがある
一つのケースを紹介しましょう。産後に病気になってしまい、子育てが十分にできなかったお母さんがいました。子供に何もしてあげられず、怒ってばかりでしたので、子供は成人すると「親の資格がない」と言い残して、サッサと家を出て行ってしまいました。
お母さんは、子育てができなかったことを後悔しましたが、病気でしたから仕方がありません。せめてもの謝罪の気持ちで、出て行った子供の口座に、毎月ささやかなお金を振り込み続けました。その後、子供は家庭をもち、子育ての難しさを知りました。徐々に親の苦労が理解できるようになり、お母さんに対する「親の資格がない」という気持ちはなくなったそうです。
このケースのように、「親の資格がない」と子供に突き放された親でも、あとから挽回して、それを撤回してもらうこともあります。これとは全く逆で、良いお母さんと言われた人が、遺産相続で子供と争い、年老いてから「親の資格がない」と言われることもあります。遺産を独り占めにしたために、子供から悪いレッテルを張られてしまったのです。
このように、親の資格がある、なしの審査は、子育ての期間だけでなく、一生続くと覚悟しなくてはならないのです。
4 親の資格は、内面的なもの
いつの時代も、「子供を東大に入れた」、「子供を有名なスポーツ選手にした」と、子育ての成功を本にしたり、講演をする母親がいます。世間はすばらしい親と讃えますが、数十年たって、その家族が絶縁しているということも良くある話です。
そもそも、人の成功は、親の育て方よりも、遺伝的に生まれ持った才能の影響が大きいと言われています。子供の成功は、親の手柄ではありません。
子供のためにと考えて、お金をかけて英才教育をしたものの、子供に恨まれてしまうこともあります。親の価値観が、そのまま子供の価値観と同じとは限らないからです。
親の資格として、子供にお金の不自由をさせない、よい教育を受けさせる、習い事をさせてあげる、といった表面的なことも大切ですが、それが本当に子供のためになっているのか、常に考えなくてはいけません。
一方的な親の価値観の押し付けの場合があるからです。貧しくても、子供の気持ちを理解できている親の方が子供に感謝されます。親の資格はあくまでも内面的なものです。
子供の苦しい気持ちを理解できることが、親になる資格と言いましたが、人の気持ちを理解する能力は、人によって異なります。ある程度生まれつき決まっている能力なので、できない人に「気持ちを分かれ」と言ってもできません。
しかし、子育てを通して、子供の気持ちを理解する力が少しずつ身についてくることもあります。分からないなら、分からないなりに、子供ために一生懸命努力を続けることが大切です。
「自分にはできない」と思ったら、人を頼ることもしましょう。子供の気持ちが分からないという人でも、つねに子供のために心を注ぐことができ、子供を優先して考えているならば、親の資格があると言えるのではないでしょうか。